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第1話

俺の家から高校まで電車で片道四十分。 しかも途中から人がどっと押しよせ車両は満杯。 そのとき杖をつくお婆さんが乗ってきて、毎度、席を譲るから、約二十分くらいは立って押しくらまんじゅうを。 登校するだけで疲れるが、わるいことばかりでもない。 なんたって俺はスーツフェチだから。 通勤で乗る社会人も多いに、物色し甲斐がある。 とくに目の保養になるのは、途中乗車して、ほぼ必ず俺の斜め向かいの定位置にいるサラリーマン。 スポーツをしているのか、ジム通いをしているのか、筋肉質。 とこどころ筋肉を盛りあがらせながらも、スーツはジャストフィットで、目立つ皺を寄せず、きっちりと着こなしている。 ほかのサラリーマンは窮屈だったり、ぶかぶかがったり、輪郭が崩れて台なし。 比べて彼の広い肩から細い腰、張りつめた太ももから引き締った足首までのラインが完璧で美しい。 その麗しき立ちすがたは、どれだけ見ていても飽きないし、車両が人で埋めつくされようと、群れから頭一つでてつり革を握るさまに、ごちそうさま。 そうして長い登校時間をスーツ観賞に当てているのだが、だんだん眺めるだけでは物足りなくなり。 どうにかお近づきになり、個人的スーツ撮影会をさせてくれないかなあと。 とはいえ、スーツフェチだと告白したら逃げられるかもしれないし、そもそも友だちになるのさえ難しい。 「なにか、きっかけがあれば」と考えつつ、その日も決まっているハンサムスーツをうっとりと見つめていたら。 尻に違和感が。 密着する人の手が当たっただけかと思ったが、視覚に集中していた意識を触覚に向ければ、あきらかに撫でられているし、耳元で熱い吐息がかかっているし。 「まさか痴漢!?」とにわかには信じられず、硬直するうちに尻を揉み揉み、割れ目に指をねじこみ、ぐりぐり。 俺にそういう趣味はないし、見知らぬ男の手で体をまさぐられるのは気色わるいったらない。 不埒なその手をつかみたかったが、満員電車では身動きがとれず、声をあげるしかなさそう。 「恥ずかしいが、しかたない!」と口を開けようとし、視界にハンサムスーツが。 つい思ってしまう。 「痴漢されています!」と騒いだ男子高生なんかと、決して友だちにはなってくれないだろうと。 生理的嫌悪より、いつか結ばれるだろう彼との縁を優先して耐え忍ぶ。 それにしたって耳元で鼻息を荒くし、ズボンと下着越しに指を突っこんでくるのが痛いし吐き気が。 歯噛みするだけでは堪えきれそうになく「そうだ、ハンサムスーツで想像しよう」と緩和策を。 満員電車だろうとスーツの表面を滑らかにをキープし、澄ました顔をしながら、尻を揉まれて震える男子高生を冷ややかに見おろす・・・。 「ああ、いい、いいいい!」と思ったより興奮して「んふ・・・」と反応しかけてしまい。 気づいた背後の男が、自分のもっこりを尻に押しつけ、もう片手で俺のズボンの膨らみを撫であげる。 鳥肌が立つも、妄想は繰りひろげられるばかりで。 「ふふ」と微かに笑いを漏らし、Yシャツのボタンを外し、ネクタイを緩め、俺の尻に腰を押しつけ揺する・・・。 「すこし着崩しながらも、スーツは皺なく光沢を放ったまま、でも股間のあたりに皺がぎざぎざに刻まれているの、いいいいいい!」と体温急上昇「はう、んん、ああ・・・」とズボンをぱんぱんに。 漏らしそうになったところで解放。 ほっと一息つくも、上に滑っていった手は詰襟のボタンを外し、Yシャツ越しに肌をまさぐる。 突起を探し当てられ、指で揉みこまれるのに悪寒が走りまくるも、妄想も暴走。 押し倒されて彼を見あげている視点。 俺のもっこりに、彼の張りつめたのを擦りつけ、しきりに腰を上下。 さすがに直接的な快感には抗えず、頬を上気し瞳を濡らし、第四ボタンまで外して覗く肌を染めて、ちらちら乳首を。 「それでもスーツの滑らかな輪郭を崩さないで、尻から足首までのラインが最高おおお!」と涎を垂らして体が高ぶってやまず。 イきそうになったところで、先っぽをにぎりこまれて蓋を。 「う、うそ・・・」と涙を流すのに、背後から鼻で笑う響き。 先っぽをきつく絞めつけたまま、手を胸から腹に。 片手でベルトを外しズボンの中に侵入。 尻のほうに回り、指を奥へともぐりこませて、摩擦したりかき乱したり引っかいたり広げたり。 初体験とあり、また吐き気がこみあげたきたものを、間欠泉のように妄想が噴きだすのを止められず。 座る俺の息子を、分厚い胸筋に挟んで揺すりながら、尻の奥を拡張。 糊のきいたスーツ、その肩をぴんと張りながらも、Yシャツやネクタイは先走りで濡れてぐしょぐしょ。 おろしたてのような、いつも、まっさらなスーツを着ているだけあり、清廉潔白そうな彼が。 俺のお漏らしを顔に浴びながら、闘牛よろしく顔を真っ赤に、飢餓感を剥きだしのぎらついた目つきで、はしたなく涎を垂らしてやまず。 「ギャップコンボらめえええ!」と手の甲を噛んで「んくううう!」とノー射精で絶頂を。 ズボンと下着が汚れなくてよかったとはいえ「いやいや、さすがにまずいだろ!」と我にかえって、ちょうど駅に着いたからホームに跳びでた。 中心街からまだ遠いとあって降りたのは俺だけ。 痴漢は追ってこないようで、でも、警戒して自動ドアが閉まるまで見届けようとしたら。 なんと、閉まる直前にホームに降り立ったハンサムスーツ。 密集する人人の間を縫ってきたはずが、スーツはつるぴか「ふう」と髪をかきあげる仕草も爽やか。 開いた口が塞がらない俺にやおら視線を向け「きみ、さっきから顔色わるいよ」となんとなんと声をかけてきて。 「ずっと気になっていたんだ。救急車を呼ぼうか?」 救急車なんてとんでもない。 体調がすぐれないのではなく、エッチな妄想をし過ぎて、熱を持て余し、ふらついているのだし。 なんて正直に告げられるわけがなく、といってまっすぐ見つめてくる彼を「だいじょうぶです」の一言で退けられそうになく。 「は、吐きそうで、トイレにつれていってもらえます?」と嘘を。 そりゃあ痴漢されたあとでは気まずかったが、腰を抱かれながらの移動は至福。 間近で艶めくスーツを眺められるし、介助するさま、その体のラインにも惚れ惚れするし。 「これがきっかけで、お近づきになれるかも」と弱っているふりをしながらも胸はほくほくで、多目的トイレへ。 「男子トイレには人がいるかもしれない」との彼の配慮。 扉を開けてもらい「あ、ありがとうございます」と名残惜しくも離れようとしたとき。 手を放してくれず、もう片手で施錠。 「え」とふりむけば「いけない子だ」と舌なめずりをする、欲情マックスの顔つきの彼。 「満員電車で自慰をしながら俺をちらちら見ちゃって・・・」 「自慰」ではなく痴漢をされていたのだが、指摘されて顔を沸騰。 毎日観察しているように、あのときも癖で彼に目をむけていたらしい。 「いや、その!」と誤魔化す間もなく、便座に座らされ、がっちりスーツすがたのまま、股間の辺りだけ肌蹴ててらてらする息子を剥きだしに。 「皺ひとつない清潔なスーツと、体液まみれの男根の対比よ!」と胸をときめかせている間に、ズボンと下着を脱がされて、足を広げさせられて。 「ああ、両想いだったなんて、これは夢じゃないよね・・・? 俺は詰襟フェチで、脳内でいつも、ぴしっと制服を着ているきみを犯していたんだよ」 「きみも俺を思って、ここをこんなに濡らして」と呼吸を乱して笑われ「いや、痴漢にされたんですが」と複雑な心境になるも、頬を熱くする。 もちろん、痴漢云々については口にせず、もじもじしていたら「なんて、なんて、かわいいんだ!」とジャストフィットスーツからはみだした荒ぶる息子を、一気に奥まで。 痴漢には寸止めされていたせいか、その勢いで「あふううう!」と射精。 恥ずかしがる暇なく「艶のある黒黒とした詰襟を白濁の液体でけがしてしまった、ああ、なんて、なんてすばらしい!」と狂喜する彼が腰の強打の畳みかけ。 乗車していた短時間で痴漢にすっかり開発されたらしい体は、初めて男に掘られて歓喜するばかり。 おまけに嬉嬉として荒らしく腰を打ちつけながら、股間の辺り以外、スーツを乱さない華麗なさまを見せられては、体の芯まで快感に酔いしれるというもので。 「やあ、見てる、だけでえ、イっちゃあ・・・!ああ、ああ、あなたのお、すーつう、しゅうつ、しゅきいい!はひいい!しゅ、しゅごお、そんな、目え、見られたらあ!しゅうつう、でえ、目え、ああ、もお、訳分かんな、くう、ふうあああ!」 狙ってできることなのか。 射精も潮を吹くのも、俺が詰襟にぶっかけるだけで、スーツは清く美しいまま。 「それもまたよし!」ときゅんきゅんして絞めつければ「ほんと、きみはいけない子だ」とわずかに頬を歪めつつ、美麗なスーツすがたを保ったまま注ぎこんだ。 その瞬間、天国を垣間見たような、ほんとうに逝っても悔いがなく思えたような。 そのあと後処理をしてから、あらためて自己紹介をしあい、スーツフェチを告白したものをノー問題。 痴漢のことは秘密にしたが、皮肉にも俺らが結ばれたのは満員電車だったから。 たまに朝の電車で痴漢ごっこをして大盛り上がり。 果たして、前に俺に痴漢した男がそれを目撃したなら、どう思うのやら。 BL小説「男が痴漢されたなんていえるか!」のおまけです。 元の小説は短編集の電子書籍で読めます。 電子書籍の詳細を知れるブログは説明の下のほうにあります。

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