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二十七 願い ※R18
すでに深夜。桜蒔 が勇んで帰ったあと、志千 たちも牡丹荘に戻った。
寝支度をして床につく前に、百夜 の部屋に向かった。
さきほどの話し合いのとき、一言も喋らなかったのが気になっていたのだ。
「おーい、百夜、平気か?」
「志千……」
「ひどい顔色だな。ほら、もう布団はいれ」
椅子に座って、蒼白な顔で志千を見あげる。
「母を捜すのを、みなが協力してくれているのはわかっている。でも、相手は刃物まで持っていた。また誰かに危険が及ぶかもしれないと思うと……怖くなってしまった」
「まずは、体力なしの桜蒔先生を一番に心配してやらねえとなぁ」
そう笑っても、百夜は深刻な表情を崩さない。
「あの男が志千に刃を振るった映像が、頭に焼きついて離れないんだ。なあ、志千、ちゃんとそこにいるか?」
「いるよ」
「ほんとうに? 目が覚めて、夢だったらどうする」
「朝までここにいる。おまえが眠って、起きるまでいるから」
そういうと、ようやく体を起こして布団にはいってくれた。
胸の中で抱きしめて、細く整った鼻梁にくちづける。
唇を塞いで口内を満たすと、百夜は背に手をまわしてしがみついてきた。
暗闇で存在を確かめるみたいに、必死で志千の肩や背中の輪郭をたどっている。
「志千、志千……。お願い、ぜんぶしてほしい」
はじめて体の奥深くに触れた日から、何度か繰り返して慣らしてはいる。
だが、百夜の負担を考えてまだ繋がってはいなかった。
「志千がちゃんとここにいるって、感じさせてほしい」
返事のかわりに、組み敷くように覆いかぶさる。
薄い色の髪が床に広がり、反射して光っている。不思議な模様を描く瞳が揺れる。
月明かりに照らされた青年の姿が、闇に浮かびあがって見えた。
初めてこの部屋で出会ったときのような夢うつつではなく、確かな実感をともなって自分の腕にいる。
充満する花の色や香りさえ、妙に生々しく感じられた。
首筋の盛りあがった部分を軽く食 む。血管がどくどくと動いているのを唇で感じる。
そのまま舌を這わせて鎖骨に移動し、さらに胸の突起に歯を立てた。
「んっ……!」
もとから敏感だったが、甘く漏れる声に、より深い快感が混じるようになった。
弄 ぶように転がすと、身をよじって悦ぶ。
何度も、何度もしつこく舐 って、震える細い腰を両手で捕まえたとき、志千も歯止めの効かない昂ぶりに襲われた。
小瓶に移していたふのり糊を指で掬い、手のひらで温める。
百夜の両膝を割って脚のあいだに入り、すでに膨らんでいた二人のものを、まとめて握りしめた。
擦り合わせれば、潤滑剤と鈴口から漏れでる液体が混ざって、くちゅくちゅと音を立てる。
「んっ、んあっ……」
敷布を懸命に捕まえ、空いたほうの手で口元を押さえて──顎に唾液を伝わせながら嬌声を殺している百夜を見下ろしているだけで、すぐにでも熱を放ってしまいそうだった。
百夜が一度達したのを確認し、片脚をあげさせる。膝の裏側を掴んで足首を自身の肩に乗せた。
露わになった最奥に潤滑剤を塗り込め、一本、二本と順に指を沈める。
何度目かで発見した、上壁の弾力がある箇所に触れる。指の腹で圧 し潰し、くすぐるように小刻みに擦ると、あきらかに百夜の反応が蕩 けた。
「んぁ……そこ……気持ちぃ……」
声が我慢できなくなって、小さく喘ぎだした。
指を三本に増やして入り口で円を描き、柔らかく解 す。
腰が細かく痙攣していたが、もう一度気をやる前に指を抜いた。
「百夜、入るよ。いい?」
こくこくと目をきつく瞑 って頷く。
志千はすでにはち切れそうになっていた自身の先端をあてがった。
百夜の呼吸は浅く、身を縮めて強張 っている。
「力、抜いて。大丈夫だから」
髪を撫で、触れるだけのくちづけをする。少し脱力したところで切っ先を押し入れた。
「いっ……!」
肩に爪が立てられる。
痛がる声に反応して、動きを止める。
「痛い? 中断するか?」
力を込めてしがみつき、志千を見あげて涙目で懇願した。
「いやだ、やめないで」
「煽るなよ……。この先で止めろっていっても、もう知らねえからな」
じゅうぶんに解された百夜のなかは、ぬちっとした水音を立てて志千のものを飲み込んでいく。
「う……ん……」
「ほら、ちゃんと息吐いて」
できるだけ優しくしたかったが、自分も余裕がなくなってきた。
百夜の背が浮くほど掻き抱いて、押し拡げながら進んでいった。
「すご……百夜のなか、すげえ気持ちいい。狭いのにやわらかくて、あたたかい」
「っ、いわなくていい……」
最奥にたどり着いて、ゆっくりと腰を打ちつけながら、唇を塞いで舌を絡め、繋がっている歓びを丹念に味わった。
「百夜、好きだよ」
耳元で名を呼ぶと、内壁が震えて締めつけてくる。
「し、ちぃ……、しち、おれも、すきだ」
泣き濡れた声で呼び返しながら、志千の腕の中で昇りつめて、二人の体のあいだに生温かい液体を吐きだした。
「悪い、もうちょっと付き合って」
体勢を変え、今度は志千が下になる。
床に膝をつく恰好で、百夜を自分の上に跨 らせた。
挿れてみて、と優しく命じれば、戸惑いながらも志千のものを導いて、奥深くで包みこんだ。
「いい眺め」
銀色の光に照らされた月下の妖女が、いまは自分の手中にいる。
「あ……ん、はぁ……」
ぎこちなく腰を動かしている胴体を掴み、親指の腹で胸の突起を同時に愛撫し、刺激する。
「っ!! あっ──!!」
なかがさらに狭まった。緩やかな百夜の動きが、だんだんもどかしくなってきた。
細腰を捕らえて、下から突き立てる。
「あっ、んあっ! 待っ、それ、激し……だめぇ、またでるっ──ああっ!!」
声が上擦って言葉になっていない訴えを、無視して揺さぶりつづけた。
仰け反って逃げる百夜の腰を力で押さえて──
「……はっ、もう、俺もむりそ……。百夜のなか、だしていい?」
「ん……っうん──」
何度も最奥を責め立て、深くに熱い白濁を吐きだした。
体を清め終えて、腕に抱いたまま、ふたたび横になった。
「大丈夫? つらくないか?」
「──明日は腰が立たなそうだな。撮影が昨日で終わっていてよかった」
「ご、ごめん」
いきなり激しくしすぎたかもしれない。夢中になりすぎてしまった。
「百夜は、どうだった?」
「どうって……」
と、口を噤 み、しばしの沈黙がおとずれた。
「えっ、回答なし!?」
「なぜ不安そうな顔をする」
「いや、だって、男に抱かれて違和感がなかったかとか、嫌じゃなかったか気になったんだよ。おまえも前に訊いてきただろ」
「ああ、なんだ。そういう意味か」
いまさら気にするとは思わなかった、と百夜はなんでもないことのようにいった。
「どういう意味だと思ったんだよ」
「気持ちよかったかと、訊かれたのかと思った」
「じゃあ、そっちの意味なら、どうだった?」
「……教えない」
「いいよ、今度は最中に訊くから。ああいうときのおまえは、素直で可愛いもんな?」
「うるさい、馬鹿」
頬を赤くして拗ね、志千の胸に顔を埋めた。
無防備に力の抜けた体をゆっくりと撫で、手の甲に自分の手のひらを重ねた。
「百夜、俺はどこにも行かないから。ずっと隣にいる。それでいい?」
「……いい。他はなにもいらない」
なにをしてやれるか、どうしたら責任が取れるか。
どうしてあんなに悩んでいたのだろうと可笑しくなるほど、行き着いた答えは簡潔だった。
抱いたらなにかが変わるのかもしれないとも思っていたが、ただ愛しさが増しただけだ。
百夜との不思議な縁を繋いでくれた失踪事件が、どのような結末になるのかまだわからない。
願わくは、この大切な青年が、また歩みを止めてしまうほど傷つきませんように。
やがて、静かな寝息が聞こえてきた。
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