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第7話 蓮
春から一人暮らしを始めて、まともな食事をした覚えがない。大学も自宅通学だった。いつ帰っても食べる物が用意されていたし、自分の部屋の掃除さえ自分でやった事がなかった。
今でも自宅から通おうと思えば可能なのだが、去年兄が結婚して自宅をニ世帯住宅に改築する事になった。
良い機会だからと、以前から憧れていた一人暮らしをすると宣言し家を出た。
誰にも干渉されない一人暮らしだと、喜んでいられたのは最初の一週間だけだった。家事は思っていたより煩雑で、新社会人として会社の仕事だけで手一杯の俺には、食事の事まで考える余裕はない。
安月給では自炊が一番なのだろうが、無理な話だ。昼食は社食のおかげで何とかなっていたが、週末の食事は貧相なものだった。
朝から味噌汁、本当に久しぶりだ。いい香りがする。
「おいしいです」
自然と笑顔になる。主任は仕事が出来るだけじゃない。実際、住んでいるこの部屋もシンプルにものが少なく、きちんと片付けられている。
「あの、主任のマンションって一人暮らしにしては広いですよね」
一言も発さず食事する雰囲気に耐え切れず、差し障りのない話題をふったつもりだった。
「ああ、連れに逃げられるまでは二人で住んでいたからな」
さらっと凄いことを言われた。
え、俺はもしかして、地雷を踏んだのかもしれない。これはまずい。話題を、話題を変えなきゃ駄目だと思った。
「えっと、そうだ。今週末って、本当は主任は何かご予定はなかったのですか?どこかにお出かけとか?」
「いや、出かけるって言っても一人だしな」
ああ、結局話題は逸れていない。
「そうですよね、どこへも行けませんよね。お邪魔してますし」
情けなくなって下を向いてしまった。
主任かふっと笑った、顔を上げると主任の優しい笑顔があった。仕事の時には見ない顔だ。その顔を見ていたら、なぜだか胸が苦しくなった。
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