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第106話 匠
明け方までただ上原の顔を見つめていた。その寝顔だけが安心をくれる、ただ見ているだけで満足できる、目を閉じてしまうのがもったいない。
起きていたはずがいつの間にか眠ってしまったようだ、うつろうつろとした意識の中、上原がベッドからそっと出て行くのがわかった。頭は起きているはずなのに声が出ない、起き上がりたくても体がまったく反応せず起き上がれない。
しばらくするとぱたんと、静かに扉が閉まる音が夢の中で聴こえたような気がした。
そのまま、また眠りの淵に落ちてしまい、次に目が覚めた時はもう既に時計は正午をまわっていた。ようやく身体を起こすと、当然隣に上原の姿は無かった。
ダイニングのテーブルには俺宛の封筒が一通残されていた。
まさか?
終わったのか、こんなに突然に?
見回すが、上原の荷物は何も無くなっていない。ただ上原だけがいない、手紙を残して。
封筒に手を伸ばすが、開ける勇気がでない。
これは、そう言う内容なのだろうか。
もしかしたら、コンビニに行っただけなのかもしれない。でもコンビニに行くのに置手紙はしてはいかない。
昨日の夜、何も食べていない胃がキリキリと痛む。野菜ジュースで誤魔化して、また手紙を眺める。
直接聞くべきだった。なぜ昨日の夜、話すのを避けたんだろうかと後悔する。封筒を手に取る、そしてまたテープに戻す。
昼になっても上原は帰ってこない。
俺は、どれだけあいつの事が好きなんだろう。
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