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3. 双子の謎
「……ミッチェル?」
徐々に目を見開き、虚空を見つめて呆然とする僕に、遠慮がちに声がかけられた。
その声が、僕にかけられたものだろうと理解した時、はっと我に返った。
「ご……ごめんなさい。……ちょっと混乱して」
「先生に診てもらったら、もう少し休むと良いわ。先生を呼んでくるから少し待っていてね」
「はい……」
遠慮がちに声をかけてきた女性は、明らかに様子のおかしい僕に対して、不安げな表情を見せた。それでもこんな幼い子供の前だからか、気丈に振る舞い、先生を呼んでくるからと部屋をあとにした。
部屋には、僕と全く同じ顔をした少年と、僕の二人だけが残された。
これだけそっくりな顔をしているし、声までそっくりとなると、考えられるのは『双子』ということだろう。
でも何故、僕にそっくりな少年がいて、それが双子だったとしても、僕は双子で生まれていない。そもそも、鏡に写った僕は、僕の知ってる僕ではなかった。
頭の中でぐちゃぐちゃに絡まった糸は、どこから引き出して解けばよいのか、もうわからない。目が覚めてからの出来事を思い起こしながら、一生懸命解決の糸口を探しても、さらに糸が複雑に絡み合ってしまっただけだった。
「はぁぁぁ……」
大きなため息をつくと、少年がびくっと震えた。
「あ、ごめんね。びっくりさせちゃったみたいだね」
思い出そうと試みているけど、どう頑張っても断片的にしか思い出せない。記憶のほとんどは、靄がかかったように隠されてしまっていた。
この情報量の少なさで、解決の糸を探るのは無理だと判断した僕は、とりあえず、このあとにやって来る先生の話と、双子と思われる少年と、あの大人の女性に話を聞いてみようと思った。
このホテルの専属の医師なのだろうか。呼びに行ってからそれほど待たずに、お医者様と女性が部屋に入ってきた。
「ミッチェルくん、目を覚ましたんだね。良かった。……少し診察させてもらえるかな?」
先生にそう言われ、僕は黙ったままでうなずいた。
それから僕は、ベッドの上に腰掛けたまま先生の診察を受けた。そんなに念入りにと思うほど、先生はあちこち異常がないかと調べているようだった。
しばらくして、やっと先生は優しく微笑んで「熱もすっかり下がったし、胸の音も正常になっているからもう大丈夫」と言った。
会話の中で分かったことは、双子の弟が川に流されてしまったのを双子の兄である僕が助けに行き、それが原因で高熱を出して、一週間も熱が下がらなかったということだ。
「こんな時期に川遊びなんて、水難事故でも起きたら困るからと、強く言って止めるべきだったね」と、先生は女性に向かって言っていた。
部屋の中にいて外の様子のわからない僕にはピンとこないけど、水遊びをするにはもう遅い時期らしい。そのうえ、前日には長時間にわたって雨が降っていたから、増水の危険があったのは分かっていたはずだと。
とりあえず、今はもう大丈夫ということが分かったので、いくつか質問をしてみることにした。
「あのー。ミッチとかミッチェルって、もしかして僕のことですか?」
まずは『自分が誰なのか』確認したかったんだけど、いきなりこの質問はまずかったのかもしれない。
ここにいる全員が、一瞬にして凍りついたかのように、ピタリと動きを止めた。
「……え?」
「ミッチェル……?」
僕の言葉に、唖然として言葉を失った女性と少年は、無言でお互いの顔を見合わせた。
同じように動きを止めた先生は、二人の様子を見てから、深呼吸をするように大きく息を吸うと、静かに僕に問いかけた。
「ミッチェルくん。少し確認して良いかな?」
「はい」
先生は医者だから、こういった場面が前にもあったのかもしれない。
冷静さを失わずに、ゆっくりひとつずつ確認をするように、僕に質問を始めた。
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