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63. 国王陛下のもとへ

「身寄りがなく、グレース孤児院の前に置き去りにされていた俺は、院長に拾われなければ、命を落としていたかもしれない。……たしかに、暮らしは豊かとは言えなかった。それでも貧しいながらも、みんな仲良く身を寄せ合って生きていたし、グレース孤児院は俺の唯一の居場所だった。……だから、俺は早くに孤児院を出て働いて、少しでも恩返しをしたいと思っていたんだ」  フレッドは、苦しそうに眉をしかめながらも、止めようとはせず、話を続けた。 「グレース孤児院が、なぜ孤児の労働力搾取という行為を行うようになったのかは、国王陛下が調査すると思う。俺たちが知り得た事実は、グレース孤児院が人身売買にあたるような行いをしていたということ。リヒター公爵家は、表向きは慈善事業として孤児院と関わっていたけど、裏では孤児院から利益としてお金を受け取っていたこと。……旦那様が、その事実を知らずに、リヒター公爵家との繋がりを確かなものとするために、言われるがままに資金援助を続けたこと」  フレッドはそこまで言うと、やっと言葉を止めた。  本当は、まだ話さなければいけないことはたくさんあるのかもしれない。けど僕はもう辛そうなフレッドを見ていられなくて、思わず両手でフレッドの口元を抑えた。 「もう、いいよ。ここまででいい。……今は、お父様の関わりがどう判断されるか、その動向を見守るだけでいい。それ以外のことは、またゆっくり考えよう」  僕は、フレッドの口元に持っていった手を離すと、そのままフレッドの首に腕を回して抱きついた。 「今僕が言えることは、フレッドが何度もあった危機を乗り越えて、僕の前に存在してくれていることが幸せなんだ。これからのことは、二人でゆっくり歩んでいけばいい。これからずっと一緒なんだから、急がなくてもいいんだよ」 「そう……だな。俺たちは、運命さえも超えた運命だからな。どんな困難でも二人なら乗り越えられる」  からだを離し、二人で見つめ合う。  そして、二人だけの誓いをするように、そっと口づけをした。 ◇  資金援助により財政的に苦しくなっていたハイネル家には、アーホルン公爵家からの援助の派遣により、使用人が増強されることになった。  そのおかげで、家の防犯はもちろんのこと、しばらく手の行き届かなかった場所の清掃や修復作業なども行えるようになった。人数が増えたことで、賑やかさも取り戻し、屋敷内も明るくなったように思う。  少しずつハイネル家の再生が進む中、八月のフィルの帰省にあわせて、国王陛下に、リヒター公爵家の不審な動きについての報告をしに行くことになった。同時に、こちらで調べた資料と、お父様の今後に対する嘆願書も提出するそうだ。  だけど、屋敷内の使用人の増員はできたものの、まだ移動の際の護衛などは心もとない。なので、国王陛下のところへ行く前に、アーホルン公爵家へ立ち寄り、数名の使用人に同行してもらえることになった。  これも、フレッドがアーホルン公爵家との橋渡しとなってくれているおかげで、順調に行われていた。  数日の滞在期間も含めると、帰宅するのは二週間程度先と見込まれるらしい。  その間のハイネル家は僕に任せて! なんて胸を張って言ってみたものの、みんないっぺんに出かけてしまうのは寂しかった。  出かけるまでに、僕とフレッドはお互いの手ぬぐいを交換した。僕がフレッドに渡したのは、昨日抱きしめて寝たものだ。不在の間はこの手ぬぐいをお守り代わりにするんだ。  僕は教会へ足を運び、みんなの無事を祈った。  お母様たちが国王陛下のもとへ向かってから、二週間ほど過ぎた頃、一足早く見張りの使用人が早馬で戻ってきた。まもなく到着するとの知らせだった。  馬車での旅路は順調に進み、何事もなく終わりそうだったため、使用人は一足先に戻り、無事の知らせを伝えに来たのだ。  おそらく、僕たちを安心させようと、フレッドが使用人に指示をしてくれたのだと思う。  早馬で使用人が知らせに来てから、一日ほど経った次の日のお昼前には、お母様たちは無事帰宅した。

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