ツッキーと過ごした時間は、夢とかなんか、そういう類のものだったんじゃねえかなって思うことがある。 確かな熱をもった思い出だけど、その熱も、触れていなければ儚く消えてしまう。 高校の、最終学年の、春高までの合宿の、ほんの一瞬。季節の一巡りすら叶わない時間。 顔を合わせるたび、ともに練習を重ねるたび、積もることのない想いが降って湧いた。 俺が卒業後も研磨がバレー部に残ったのをいいことに、合同合宿と聞けば顔を出した。 それも失ってしまったら、もう繋がりを持つ理由を見つけられなかった。 どうして俺たちはこんなにも遠く離れているんだろう。 気持ちを伝えられなくてもいい、それでもせめて、ツッキーの視線の先にいるのは俺でありたかった。 最後まで煽り文句しか口にできなくて、泣き顔は見られたくなくて。 笑わせることに一生懸命だった俺は、ツッキーの前でちゃんと笑えていたんだろうか。 「バカなんですか？」とか「そんなこと気にしてたんですか？」とか、何でも良いから声が聞きたい。 ただただ、ツッキーに逢いてえよ。 バレーやってる中で、立場上、いろんなヤツにアドバイスすることが多かった。 正直、俺が良いと思うことを精一杯やってるだけだったから、それが正しいかどうかなんて自信はなかった。 あの日「たかが部活」と言い放ったツッキーにアドバイスし続けるのは俺のエゴだし。 ……ツッキーには負担なだけなんじゃないかとか、柄にもないこと考えたりして。 でも、研磨とは違うその熱の籠らない瞳で俺を吸収し続けたツッキーのブロックに皆が腹を立てるのを見てさ。 「良かった間違ってなかった」って思ったんだよね。ホント、柄じゃねえけど。 そんで「バレーが楽しい」って笑ったツッキーを見て、思っちゃったワケ。 もっともっと、バレーは楽しいんだって、日本全国に広めてえなって。 お前の活躍を、もっと大勢のヤツに見てほしいって。 世間じゃ気の迷いだなんて言われるような淡い恋心だった感情は、逢えない間にどうしようもない劣情に化けた。 そんなものの対処法なんて知らねえし、手当たり次第にオンナに手を付けてみたけど、飢えも渇きも収まらない。 バカな俺に耐えかねた幼馴染がお前を連れてきてくれて、ようやく、目が覚めたんだ。 大学生になって、見ない間に随分大人っぽくなって、でも皮肉に笑う子供っぽいところは変わってなくて。 妙な艶っぽさに当てられてクソ抱きてえなんて思ったけど、んなこと叶う訳もはずもない。 絶対にこの気持ちに気付かせないから、昔みたいに俺を視界に入れてくれないか。 せめて成長を見守らせてくれないか。……ダメって言われても勝手に見続けるけど。 好きで、好きで好きで、好きで好きで好きで、仕方ないんだよ。 上京したてで右も左も分からないお前を、案内の名目でいろんなところに連れ回した。 それこそ好きそうなところは念入りにリサーチして。 だけど、あの日。誰もいない深夜の公園、覚えてるかな。 酔ったお前を前にして我慢が効かなかった。 それでも、二度と離れたくないなんて口が裂けても言えなかった。 ただ頬を伝う雫を唇ですくいながら、同じように泣くしかできなかった。 選手生命なんて言葉、俺は好きじゃないけどさ。 プロとしてやってくことを決めたなら、いつかそれには終わりが来る。 やってきたそれがどんな形だったとしても、俺は祈っているだろう。 お前が夢見た姿であることを。その原点があの夏の日の、俺であることを。 バレーを楽しむお前の笑顔を。バレーにハマる瞬間に出会ったからこその、お前の幸せを。 勝利の方程式を解くような執着はいらないんだ。 その代わり、お前のために飛び回る俺を視界のどこかに入れてほしい。 ただの強がりだなんて俺が一番身に染みてるさ。 それでも煽らずに言えそうなのはこの程度なんだよ。 お前のことが、まだ、ずっと、いつまでも……好き、だから。 想いを全部流しちまえるように泣いておけば良かった。 それとも冗談だって流せるように笑って告げちまえば良かったのかね。 「バカじゃないの」とか「気にしすぎ」とか、俺にも言ってくれよ。 ツッキーを思った年月は、いつの間にか11年目を数えていた。