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第1話
物心ついたころから柔道を習い、大学まで継続。
優勝はできずとも、インターハイ出場常連とあって、そこそこ強くそこそこ有名。
「このままいけば、会社に所属できて柔道人生を歩みつづけられるかもよ」と監督に褒められたが、俺には中途半端のように思えて。
「突きぬけて強いわけでも、見切りをつけられるほど弱くもないんだよな」と日々、ため息。
監督のいう未来にどこか、しっくりとせず、といって、ほかにやりたいこともなく、惰性的に鍛錬を積んでいたところ。
友人に誘われてプロの格闘家の試合へ。
そこで果たした輝かしき運命の出会い。
それまで格闘界にまるで興味なかったのが、その日リングで情熱的に泥臭く戦う彼に一目惚れ。
彼が勝利をおさめた試合後、長いこと余韻に浸ってから、急いでネットサーフィン。
若いころはなかなか芽がでず、そのくせ女トラブルが絶えず、変に注目されていたらしい。
「外国人のような体格に恵まれているのに、もったいない」と残念がられていたのが、突然、頭角を現し、試合は連勝、多くの大会で優勝を。
ただ、下半身事情を改めることなく、相手女性の告発により大炎上し、謹慎処分がくだされるなど相かわらず。
さすがに懲りたのか、以降、女との噂は一切なくなり、今も独身のまま、アラサーにして若者に負けない奮闘ぶりを見せ、高い勝率を誇っている。
というのが、彼のおおまかな経歴。
いまだに過去の女トラブルのことをあげつらうアンチがいるようなものを「苦い経験をつんでこその晩生ぶり!かっこいい!」と俺は惚れ惚れ。
すっかり逆上せあがり、そのままの勢いで、彼が所属するジムの門を叩いた。
なんて、彼を目当てにジムに跳びこんでくる連中は大勢。
全員を所属させるわけにはいかず、かるい能力試験を受け面接を。
そこそこ名が知れた大学にいたおかげで「強豪校じゃないか!すばらしい!」とジムのオーナーのお眼鏡にかない、練習候補生に。
しばらく練習ぶりや成長ぶりを見て、本格的な指導やサポートをするか見極めるという。
「彼のそばで強くなりたい!」と意気ごんだ俺は、大学を中退し、ジムに通いづめ。
忙しい彼がジムに顔を見せたなら挨拶したり話をしたかったが、いざそのときになるまで、すっかり忘れていた。
彼の守護神というべき、トレーナーの双子、リクとカイがいることを。
写真や動画で、必ず彼のそばにいて、記事などでは「最高最強のパートナー」と謳われ、ファンからは「双子がいれば、ずっと現役でいられるかも」と信頼されている。
アメリカに渡ってスポーツ科学を学び、帰国したなら、ほぼ365日、彼につきっきりで体と精神の調整や管理をしているとか。
だけでなく、人間関係のケアも徹底。
どこだろうと、誰だろうと、彼と話したいときは双子を通さなければならず。
で、俺はというと、リクには爽やかな笑みで「今は自分の鍛錬だけに励みなさい」カイには露骨に嘲るように「練習生如き割く時間はねえ」と一蹴されてしまい。
その背後で彼が申し訳なさそうな顔をしていたのが、せめてもの救い。
お偉いさんでも双子の鉄壁を崩すのは難しいらしいが、それにしても俺への当たりは人一倍きついような。
練習生でも成果を上げれば、挨拶くらいさせてくれると聞いたものの、練習試合で連勝しても、おとといきやがれ状態。
隙をついて彼が一人のときにアタックしたくても、トイレまでついていく双子の守備はぬかりなし。
どうしてか双子はかなりの警戒心と敵意を持っているようだから、なおのこと彼と口を利くのは至難。
「これじゃ埒が明かん」と思い、直談判することに。
彼がシャワーを浴びている間「覗きは許さん」とばかり扉の前に仁王立ちする双子に「理由を教えてください!」と深々と頭をさげた。
「俺には覚えがないですが、お二人の気に障るようなことをしたでしょうか!」
廊下には俺の声が響くだけで、なかなか返事はなし。
そのうち聞こえたのは「・・・あの人は、お前みたいのに弱いからな・・」とため息。
「へ?」と顔を上げると、リクがほほ笑みかけ「いいこと教えてあげよう」と俺の問いを無視しての教授を。
「ここから車でニ十分の美広ビーチに行ってみなよ」
「そんで砂浜の真ん中あたりで、自慢の筋肉を見せびらかしてしばらく立ってろ」
「そしたら、あの人みたいに強くなれるよ」と結ばれても、なんのことやら。
質問しようとしたが、シャワーからあがった彼を、俺から見えないようにガードをしながら双子は去っていったもので。
真夏のビーチに行くことで、どうして強くなるのか?
てんで分からず、でも「あの人みたいに強くなれるよ?」との言葉に惑わされて美広ビーチへ。
海水浴客がごった返すなか(「自慢の筋肉を見せびらかせ」との助言どおり)面積のすくないビキニ一丁で歩いていく。
歩いてきて半分、海まで半分のところで止まり、やや頬を熱くしながら、胸を張って筋肉を張りつめさせて。
あたりをちらちら窺うも変化なし。
「双子にからかわれたか?」とため息を吐いて肩を落とし、とぼとぼと帰ろうとしたそのとき。
「きみ」と声をかけられ、振りむいたなら、アロハシャツに短パン、サングラスをかけた小太りの髭面親父が。
「アダルトビデオにでてみない?一万円出すから」
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