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エピローグ
神官王が御神託の花嫁を迎えて半年が経った。その間、大神殿では十数名の神官が行方不明になり、数人の侵入者が捕まっている。侵入者はいずれも神と神殿に仇なす者として神官王の名のもと厳しく処罰された。
そうしたことが続いたこともあり、大神殿は大陸全土の神殿に注意喚起を行った。神を冒涜するものには神の愛を説き、神を信じないものには慈悲の心を与えるように通達を出す。同時に真っ赤な石を回収するようにも命じた。
血潮のごとき赤い石は神を貶めるもの。神を冒涜するもの。そうした輩を生み出すもの。それらを見つけた敬虔なる信者は速やかに神殿へ届け出よ。
そうして神殿が回収した石はすべて大神殿へ届けさせ、神官王自らが潔斎し神への供物とする。
新たに加わった仕事もあり、神官王ユリティは以前よりも多忙になっていた。朝はリシアが目覚めるより早く部屋を出て行き、夜もリシアが眠ってから戻る日も多い。毎夜のように交わっていた蜜月も終わり、リシアは再び暇と疼く体を持て余すようになっていた。
(全部ユリティのせいだから)
日が完全に落ちて窓の外が真っ暗になった。ユリティは執務室に行ったまま帰って来ない。ソファから立ち上がったリシアは黒く薄い夜着に着替えると赤い唇でニィと笑んだ。そうして「放っておくユリティが悪い」と歌うようにつぶやく。
床についていた真っ白な足がすぅっと形を失っていく。黒い夜着の裾が揺れ、腰や華奢な手、腕、細い肩や艶やかな黒髪も形を崩し始めた。最後に可憐な顔がゆらりと形を失い、煙のようなものが渦巻いたかと思えば一匹の黒い蝶が宙を舞う。そのまま窓を出た蝶はフワフワと羽を動かしながら神官王の執務室へと向かっていった。
その頃、ユリティは執務室で書き物をしていた。一通は大国シュレイザーラの神殿に仕える神官長宛てで、もう一通は大砂漠帝国シンシラーガの神殿宛ての手紙だ。両方を確認し署名をすると封筒に入れ封蝋を施した。封蝋の形は神聖国メルタバーナでありながら、色は神官王直々の手紙であることを示す金色をしている。
(シュレイザーラには来月赴くとして、シンシラーガは……そうだな、太陽王の首根っこでも押さえに行くか)
神官王らしからぬ笑みを浮かべたところで碧眼が窓の外を見た。
「閉じ込められたいのですか?」
ユリティの声に窓の隙間から黒い煙がするすると入り込んだ。黒い煙はゆらゆらと宙を漂い、そうかと思えば少しずつ人の姿を形作り始める。
「まったく」
ため息をつくユリティに、姿を現したリシアが「だって」と頬を膨らませた。
「だって、ではありませんよ」
「だって! 体が疼くんだから仕方ないでしょ」
可憐な顔がますますぷぅっとむくれた。それでもリシアの愛らしさが損なわれることはなく、ユリティも仕方がないと言わんばかりに顔をほころばせる。それにパッと表情を明るくしたリシアが執務椅子に座るユリティの膝に乗り上げた。そうして「ね?」と首を傾げながら腰を擦りつける。
「神官王の花嫁ともあろう姫がはしたない」
小振りな尻をユリティの手がパシッと叩いた。「いたっ」と悲鳴を上げるリシアが「もうっ」と眉を寄せながらも首に両手を巻きつける。
「このようなことではシュレイザーラに連れて行くことはできませんよ」
「やだっ、僕も一緒に行く」
「このようにはしたない格好をする姫が神官王の花嫁では神官たちに示しが付きません」
「これはいまだけだから」
「そう言って、神官たちを惑わせるつもりなのでは?」
「そんなことしない! 僕にはユリティしかいないんだから! 僕はユリティさえいれば、ぁんっ!」
夜着の上から交合口を撫でられたリシアがビクンと体を震わせた。すぐに蜜を滲ませ始める花芯が夜着を持ち上げる。それに気づいたユリティが夜着の上からさらに強く交合口を刺激した。
「やだぁ! こんなんじゃ、足りない……っ。直接がいぃっ」
「まったく、わたしの花嫁は我が儘ですね。執務中の神官王をこうも淫らに誘うとは」
「だめ……?」
可憐な中に妖艶さを滲ませながらリシアが囁いた。黒眼は情欲に濡れ、胸の尖りは夜着の上からでもはっきりわかるほどぷくりと膨らんでいる。リシアは腰を抱いているユリティの手を掴むと、膨らんで痛みさえ感じている胸へと導いた。そうして尖っている部分を手のひらに押しつけるように擦りつける。
「んっ」
それだけで気持ちいいのか、リシアが甘い声を上げた。そのまま手のひらに擦りつけながら下肢をユリティの腹に押しつける。
「んぅ」
腰を揺らめかせるリシアの頬が赤くなる。甘い薔薇の香りと清々しい柑橘にも似た香りがユリティの鼻腔をくすぐった。
「わたしの体で自慰をするつもりですか?」
「だ……って、がまん、できない」
「これではどの国にも連れて行けませんよ」
「そのときは、がまんする……っ。そんなことより、はやく、ねぇ、はやくっ」
焦れたようにリシアが神官服の上から雄々しくなった熱塊を撫でた。そうして服の隙間に手を入れ必死に取り出そうと指を動かす。
「こうも辛抱ができない花嫁とは」
「もう一度躾けなくてはいけませんね」と囁いたユリティが必死に両手を動かしているリシアの首筋に視線を向けた。首を隠す黒髪をかき上げ肌をあらわにすると、美しい顔を首筋に近づける。そのことにリシアが気づくよりも先にユリティが柔肌に歯を立てた。
「ひぃ……っ!」
リシアの口から甲高い悲鳴が漏れた。ユリティの下肢をいじっていた両手は止まり、いやらしく揺れていた腰も動きを止めている。黒眼は大きく見開かれ何が起きたのかわからないという表情を浮かべていた。
そんなリシアに気づきながら、ユリティがさらに力を込め肌を咬む。
「あ、あ――――!」
次に上がったのは嬌声だった。華奢な体をブルブルと震わせ、黒眼は視点が合わずどこを見ているかわからない。
「あなた方は他人にここ を咬ませませんからね、少し刺激が強すぎましたか」
リシアは答えることができなかった。初めて感じる感覚は急所に鋭い刃物を当てられているのと同じ恐ろしさをリシアに与え、同時に耐えがたいほどの悦楽をも与えていた。
「いいですか? メルタバーナを出たらわたしの言うことにすべて従うこと。そうでなければあなたを大神殿から出すわけにはいきません」
「ぁ……ん……」
「ですが、わたしが不在の間の大神殿にあなたを残すわけにもいきません。まずはしっかりと躾けなくてはいけませんね」
リシアの耳にユリティの言葉は入ってこなかった。強烈な感覚に体も頭も支配され、何が起きているのかさえ理解できていない。ただ、この危うい刺激を与えてくれるのはユリティだけだということは理解していた。
(もっと……僕の命ごと……ユリティに……)
リシアの黒眼がきらりと光った。ユリティがほしい。そしてユリティに食べられたい。倒錯的な快感に酔いしれるように、リシアは愛しいユリティに身を委ねた。
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