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第1話

 ゆっくりと目を開けて、見慣れた自分の執務室の仮眠室に白龍は溜息を吐いた。  主上をまじえた会議で記憶が途切れているところをみるとどうやらまた倒れたらしい。  ・・・・・・あの人は呆れただろうか。  お互いの執務の予定があるから会議とはいえ翠龍と白龍がそろうのは滅多にないとは云わないがまあ、珍しいことに違いはない。  その席でみっともなく倒れるとは―――・・・・・・。  あの人もこんなのが自分の対だなんてきっと失望したことだろう。  はあと白龍はもう一度重い息を吐き出した。  ―――仕方ないのだ。この身体は所詮間に合わせなのだから。  先代白龍が急逝したため慌てて用意した器。  何の準備もなくただただ座を空にしないための身体。  多少使えなくとも―――と思ったが、ここまで使えないとは思わなかった。  「・・・・・・白龍様? 起きていらっしゃいますか?」  「・・・・・・はい」  ドアをノックされて白龍はゆっくりと身をベッドの上で起こした。  入って来たのは側近の一人だった。手には文らしきものを持っている。  多分主上からだろう。こうして主上はいつも気づかってくれるのだ。  「白龍様、起きてらして大丈夫なのですか?」  ベッドの上で身を起こしている白龍に驚きの声を上げる。  「・・・・・・ええ、何とか」  それに白龍は微笑みかけた。  「そうですか。辛くなったらすぐ横になって下さいね―――文が届きましたよ」  「ありがとうございます。二つ?」  側近から受け取った文に白龍は目を丸くした。  いつもは主上だけからなのだ。それが二つ?  一体、誰から・・・・・・それともたまたまこのタイミングだっただけなのか?  首を傾げながらちらと側近を見ると側近は苦虫を噛みつぶしたような表情をしていた。  「?」  不思議に思いながら誰からのものか確認するためにひっくりかえし、息が止った。  翠龍の署名を見つけたからだ。  ・・・・・・ああ、どうしよう。失望したとか書かれていたら。  見るのが怖い。でも読まないと返事が書けない・・・・・・。  「そこに居て下さいね」  一人になったら絶対怖くて読めないだろうし。  翠龍の名から目を離さずに云うと側近が呆れたように息を吐いた気配がした。  「・・・・・・あたしはね、反対なんですよ。あなた様とあの男が親交を深めるの。絶対、あの男はろくなもんじゃないです」  「でも私の対です」  震える指で翠龍からの文を開いていく。  何て書いてあるのだろう?  「だからこうして文の取り次ぎくらいはしているでしょう。じゃなかったら取り次ぎなんざしませんよ」  ブツブツと側近の愚痴だか文句だかわからない言葉を聞きながら翠龍の文字を追っていく。  そこには突然倒れて驚いたということと気遣えなくて悪かったという謝罪とゆっくり身体を休めてくれというようなことが書いてあった。  倒れたことを責めるようなことは書いてなく白龍はホッと息を吐いた。  情けないことは自分が一番よくわかっているのだ。そこを翠龍とはいえ、いや翠龍だからこそつかれたくはなかった。  だけど、いや、きっとこれは社交辞令だろう。  噂で聞こえてくるあの人は完璧主義で効率も大事にするらしい。  そういう人が必要と感じたら優しい言葉の一つもかけるだろう。例え心になくとも。  だから本当は何を考えているかはわからない。  わかるほどの関係も築けてはいないし。  「・・・・・・返事は後で書いても?」  「それはもちろん―――何ぞ悪いことでも書いてありましたか」  「いえ、ちょっと横になりたくて・・・・・・」  「あたしが起こしてしまったからですね。ではまた後で参ります」  「・・・・・・はい、よろしくお願いします」  再び身体を横たえ、白龍は目を閉じた。

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