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短編
パートナー淫魔との契約がもうすぐ満了を迎え、そろそろ人間同士の結婚を始める頃。
淫魔達とセックスをさせられている人間達は定期的に淫魔達の体液を下上問わず摂取させられているせいか老いが遅くなる。
なので見た目よりも歳がいっている人間が多い。
かくいう私自身も見た目は30歳だが、年齢は55歳とそろそろ人間との結婚を考えなければならない年頃なのである。
「誰か良い人間はいるだろうか?」
出来れば優しい方が良い。
私のパートナー淫魔は常に激しくて最近は本当にしんどいのである。
お互いにまったり出来て一人か二人子供を設けて余生を過ごしたい。
━結婚相談所にて━
「人間同士の結婚をお望みですか?」
「はい、出来れば」
勿論淫魔を伴侶として迎える人間もいるが、淫魔は基本浮気性である。
淫魔は人間との性行為によってエネルギーを得ている。
そんな生き物がただ一人の体で満足出来るなど、考えられない。
よっぽど好きでないと淫魔との結婚など到底無理だろう。
一生独身のままハーレムを築いて子を産ませ、結婚はしない淫魔というのがこの世界のデフォルト。
だから人間は人間同士と結婚するのが普通なのである。
それなのにわざわざ尋ねて来るという事は。
「今当社では淫魔婚が熱いのでオススメしたいのですが…。ペアが出来なくても参加するだけで次のお見合いパーティーが有利になるキャンペーンもやっていますよ」
「いえ、人間同士のお見合いパーティーの方でお願い致します」
「…そうですか、それでは人間同士のお見合いパーティーに参加希望という事で一週間後のお昼に○×会場へお越しください。費用は5000円からとなります」
淫魔婚が熱いとはこの会社…よっぽどスピード離婚を推奨したいらしい。
その方がまた何度も利用して貰えるからであろう。
絶対に淫魔とはお見合いをしたくない。
セックスありきの結婚など、幸せになれる訳がない。
「どうも有難う御座います」
私はチケットを受け取り、結婚相談所を出た。
~~~~~
チケットを手にお見合い会場を訪れる。
参加費5000円にしてはかなり豪華で大きな会場だった。
受付で数字の掛かれたワッペンを受け取り、自分の事を紙に記入する。
この紙を見てお見合い相手を選び話し合いをするようだ。
それにしても…セックスの好み?人間のお見合いなのに随分生々しい事を聞くんだな。
それとも余生を過ごすのだからこういうのも合う人同士の方が上手く行くとそういう事なのだろうか。
私はセックスの好みの項目に“まったり”と記入した。
その紙を受付係が会場の壁に張る。
紙は等間隔で張られており、人間と…何故か淫魔がちらほら紙を見ていた。
淫魔?もしかして設営スタッフか何かだろうか?
大体の淫魔はそういった裏方業は好まないのではなかっただろうか。
『君は人間だね?』
「はい」
突然声を掛けられ、何事かと淫魔の顔を見る。
やはり淫魔はどれもこれも色気があって美形だ。
淫魔達が何故自分達より劣る人間の体液を必要としているのか…謎が深まるばかりである。
『そう、僕は人間の相手を探していたんだ。
どうかな』
「え?いえ、私はすでにパートナー持ちですので…」
なんだ?パートナー契約の話か?
さすがに二股を掛けるには体が足りない。
性欲の強い人間であれば二股出来るのかもしれないが…私からするとしんどいだろうにと思う。
『あれ?じゃあ君はどうしてここへ…?』
「え?」
『ここは淫魔と人間のお見合いパーティーのはずだけど…違ったかな』
ビックリした。
人間のお見合い会場に淫魔がいるなんてと思っていたら…私が会場を間違えていたのか!?
「すっ、すみません…!会場を間違えてしまったらしく…」
『そうか。それならここで会ったのも一つの縁だ。少し体の相性を確かめさせてくれないか?』
「え、あ、でも」
『君の希望はまったり…だったよね?』
「え、えと、はい…」
困った。こんなつもりじゃなかったのに。
会場にはペアになった淫魔と人間が奥の通路へ歩いていく。
多分あの奥で体の相性を確かめるのだろう。
『僕のセックスの好みもまったりと楽しみたいタイプでさ。だから一度だけ。お願い』
一度だけ。それなら体への負担も少ない。
淫魔は期待を込めた目を向けている。
断るのも気まずいし…。
「分かりました。一度だけ」
『有難う、嬉しいよ。それじゃあ早速奥のベッドルームへ一緒に行こう』
広場は明るいが、廊下に入ると一気に暗くなった。雰囲気作りの為なのだろう。
声や音が漏れてない所を見るに、しっかりとプライバシーは守られているようだ。
『開いてる部屋は……うん、あるね』
淫魔がガチャリと扉を開け、私を中へ促した。
中は大きなベッドで埋められ、奥にもう一つ扉があった。
『お風呂に入りたかったらどうぞ』
「あ、いえ…大丈夫です」
尻は常に綺麗にしている。
パートナーが家にいる間はいつ盛るか分からないからだ。
勿論長い間淫魔に激しく抱かれて来たせいもあって慣らし無しでいきなり挿入でも感じる事の出来る体である。
「清潔にしているので…いつでもどうぞ」
『そう言われたら今すぐにでも頂きたくなるね』
くすくすと笑いながら淫魔が服をゆっくり脱ぎ、ハンガーに掛けた。
下はまだ履いている。
『お互いベッドへ横になって愛撫し合わないか?』
「…分かりました」
服を脱ごうとすると淫魔にストップを掛けられた。
『僕が脱がすよ』
逆らう必要も無かったので任せると、ゆっくりとした手付きで服が脱がされ、淫魔の顔が近いなと思えば頬に軽くキスが降って来た。
「ん…」
ちゅ、ちゅ、と唇を避けるように何度か啄むようなキスを降らされ、むず痒くなる。
パートナーはいきなりがっつくタイプなので焦らされる事に慣れていないせいかもしれない。
『下も脱ぐかい?』
「そ、うですね。セックスをするなら、脱ぎましょう」
『それじゃあこちらも僕が脱がそうか』
淫魔が自分のを脱ぎながら私のを脱がしていく。
器用なものだ。
そういえば淫魔がやっている番組でどれだけ早く多く脱がせるかという企画があったなとふと思い出した。
『それじゃあ、ベッドに行こうか』
「はい」
淫魔と共に広いベッドへ向かい合うように横になる。
すぐに前戯をするのかと思ったが、淫魔は私をじっと見ているだけだった。
「…なにか?」
『うん。君はとても落ち着いているなと思ってね』
「まぁ…パートナーが忙しない方なので」
『ふぅん?それだけかな』
何が言いたいのか分からないが、淫魔が私の頬を撫で、愛撫が開始されたのかと思い、私も相手の腰に触れた。
『腰に触れるなんて、もう本番に行きたいのかと勘違いしてしまうよ』
「あ、すみません…つい」
『いや、大丈夫』
彼は心が広い淫魔らしい。
人間と見ると上から目線な淫魔が多いだけに、珍しい。
好感が持てるだけに淫魔なのが残念な程である。
『触るね』
淫魔が頬から首筋、鎖骨…そして胸に手を滑らせた。
「ん…」
手が乳首へと触れる。
ピリリと甘い痺れが走り、ひくんと尻が収縮する。
『辛くはない?』
「ぁ…ん、はい…」
くるりくるりと回る淫魔の指先に乳首へと神経が集まっていく。
ピリピリと甘い痺れが持続したかと思えば、淫魔の指がきゅっと先端を摘まむ。
「んんっ!♡♡」
『快感に敏感になってるね。あまり前戯はしない方が良さそう?』
「はぁ、はぁ、そ、ですね…いきなり挿入された方が…もしかすると快感は楽かもしれません」
『そっか…』
左胸から手が離れるも、乳首はぴくんっ、ぴくんっと敏感なまま。
もう少し弄られたり舌で転がされたら乳首でイっていたかもしれない。
『それじゃあ、抱き合いながらセックスしようか』
「抱き合い、ながら…?」
パートナー淫魔はバックでしかセックスをしない為、それは未知だった。
『やった事無い?』
「はい…バックばかりだったので」
『んー、そっか。じゃあまず正面から挿入れるね』
正面から抱かれるとはどんな感覚なのだろうか。
私は不覚にもドキドキと緊張していた。
淫魔が私の体をベッドへ押し倒し、股を開く。
…どうしたもんか。
この体勢…無性に恥ずかしい。
『抱き合ってしまえば、顔は見えないからもう少しの辛抱だよ』
「ッッ…は、い」
淫魔が先端を押し付け、ゆっくりと中へ押し入って来る。
「ぁ…ッ♡♡」
いつもの快楽。
いや、いつもはいきなりガンガン揺さぶられるからこんなものじゃないか。
ぐぷぷ…と入って来るそれにゾクゾクと上がってくるような快感はいつぶりなのだろう。
「ん、ん、ん…♡♡」
息が鼻から漏れる。
こつんと奥に辺り、淫魔の陰嚢が尻に密着したのが分かった。
『両手、広げて…』
「ん、はい…っ」
腕を広げると、淫魔が私の脇の下から背中と腰に腕を回し、頭を私の右側頭部辺りへ持っていく。
「君も」
右耳が少しくすぐったい。
どうして良いか少し迷ったが、そのまま相手の背中に両腕を回す。
淫魔はそれを確認し、ゆっくりと動き始めた。
「ぁッ!♡♡ん、んんー…♡♡」
激しくない。
体を包まれた状態のゆったりとしたセックスに私はたちまち蕩けた顔になってしまう。
『辛くなったら言って』
「ふぁっ…は、い…ッ♡♡♡」
上下に軽くゆさりゆさりと揺すられ、じん…とした暖かい快感が腹の中心から広がる。
初めて味わうまったりとしたセックスに私は目を閉じ、それを感じる事に夢中になっていった。
「ぁ…っ♡♡♡は…っ♡♡♡あぁ…♡♡♡」
どれくらいそれを味わっていただろう。
『そろそろ、出すよ』
「ふぁ…ぁ…♡♡♡」
揺さぶりが大きくなり、私は淫魔の体へしがみついた。
夢から覚めるような強い快感が襲い、淫魔のモノが最奥を強く突いた。
「あ、あ、ああ━━━ッッ…!!♡♡♡♡♡」
今まで感じた事が無い位、深い深いオーガズムだった。
その後の淫魔の中出しが絶頂を長引かせる。
『…御馳走様。まったりとセックス出来て楽しかったよ』
「…ぁ」
離れていく淫魔の体が寂しいと思うのはどうしてだろう。
たった一回。
たった一回のセックスだ。
それなのに私の体は彼の…?
いや。そんな事は無い。
新鮮なセックスに体が過剰反応しただけだろう。
『もし良かったらまた…』
「……多分もう会う事は無いかと。私ももう55歳ですし、同じ位の人間の女性と結婚して余生を過ごすつもりです」
『…そう、か。今回は有難う』
「いえ。私も気持ち良かったです。労ってくれて有難う御座いました」
最後のは本心だ。
優しいセックスに心惹かれないでもないが…淫魔と結婚すると言う事は毎日のセックスに浮気や性関係においていくつも許容しなければならない問題がある。
私は生涯を過ごすのであればまったりと愛し合える関係が良い。
~~~~~
「ま こ と に 申し訳御座いません!
当方の手違いによりまして淫魔と人間とのお見合い会場へご案内してしまったらしく…」
「お陰で大変だったんですよ…」
あの後、他にも色々と淫魔の相手をしなくてはならなかった。
一度淫魔を受け入れたのだから俺、僕、私とも体の相性を確かめさせろと、そういう事らしい。
中にはお見合いパーティーを食欲性欲解消に利用してるような淫魔もいた。
「お詫びに別のお見合いを無償で参加可能に」
「当たり前です」
別のお見合いパーティーに参加したらもうこの結婚相談所には来ないぞと私は固く決意した。
~~~~~
「あっ、あっ、ああっ、あっ!!♡♡♡♡♡」
ガンガン攻めるいつものパートナー淫魔のセックス。
それにどうしてか違和感を感じている。
「あぁっ♡♡♡♡♡あっあっ♡♡♡♡♡あああ━━っ!♡♡♡♡♡」
何か…何か違うのだ。
あの淫魔とのセックスが頭にチラつくせいか。
あのセックスは本当に気持ち良かった。
まったりとして、しんどくなくて。
とても居心地が良い…。
…私は何を考えているんだ。
淫魔とは結婚しないのだろう。
それなのに体は求めるのか、と。
「あぁああ…っ♡♡♡♡♡あんッ…ああああああ━━━…!!!♡♡♡♡♡♡」
いつも通り気絶寸前まで抱かれた後、パートナーがニヤニヤとした笑みを浮かべながら話し掛けてきた。
『お前の穴、なんか違ったな。もしかして別のヤツに抱かれたのかぁ?』
「そろそろ契約が満了になるので、人間のお見合いパーティーに行ったつもりでしたが手違いで淫魔とのお見合い会場に通されまして…」
『くはははははっ!!!なんだそりゃあ!!それで他のヤツに抱かれちまったのか』
「面目ありません…」
『まーいーけどよ。もう同じ手違いは無いんだろ?』
「あったら困ります」
もう淫魔はこりごりなのだ。
パーティー会場の強引な淫魔しかり、パートナーしかり…。
早くパートナー契約が終われば良いのに。
そう願わずにはいられなかった。
~~~~~
翌朝、スマホを確認すると、あの結婚相談所から電話が来ていた。
人間のお見合いパーティーについての事かと思い、かけ直したら「佐原さん、ある方から連絡が届いています」と言われた。
ある方?と聞き返せば、相手は淫魔からとの事。
詳しく聞けば手違いで参加したパーティーで最初に出会った淫魔からだった。
ドキリとする。
あの淫魔の事を考えた翌日にそんな電話が来るなんて。
“『もう一度会いたい』”…
そうメッセージを伝えてくれと頼まれたらしい。
なんてタイムリーな…。
だが、それならそれで構わない。
私ももう一度会って心のモヤモヤを確かめたくなった。
相手が望んでいるのであればと私はあの淫魔に再び会う事を決め、伝えて貰うように頼むと、電話が切れて数分後、すぐに電話が掛かって来た。
“『今すぐに会えるか』”
との事で、会う気があるのならと向こうに直接伝えるように電話番号を教えられた。
…困った。
もう一度会って…もやが晴れたらもう会わないつもりなのだ。
電話番号を知られるのはあまり良くない。
なので公衆電話を探し、そこから電話を掛ける事にした。
“『もしもし』”
「あの…」
声を発した瞬間、向こうが微かに息を飲むような気配がした。
“『もう一度、会って頂けると聞いて居ても立っても居られなかった。今からは会える?』”
「今日は、はい。大丈夫です」
“『良かった…!では迎えに行くよ。今どこに?』”
「いえ、こちらから向かいます」
住んでる場所の近くに来られるのも後々面倒になりそうな気がした。
が、相手は気にしなかったのか、“『それじゃ、○○喫茶という所で待ってる』”とだけ話し、電話が切れる。
待ってるという事は急いだ方が良いだろう。
スマホで場所を確認しつつ向かう。
彼はどうしてもう一度私に会いたいと思ったのだろうか。
セックスの後しっかり断った私に。
それも気になり、私の足は自然と早くなっていった。
喫茶店の前に着き、彼の姿を探す。
彼は淫魔の中では落ち着いた感じの人なのですぐに分かった。
『…会いたかった』
彼は顔を綻ばせ、私を抱き締めた。
「それで、私に会いたい理由は?」
私は要件が気になり、すぐに話を聞いた。
淫魔は少し思案していたが、やがてゆっくりと口を開いた。
『単刀直入に言うけど。…もう一度、君を抱かせてくれないかな』
「… …!」
淫魔の言葉に体の方が反応する。
『今度は長く。君を味わってみたいんだ』
「わ、かりました」
反射的に了承の返事を返していた。
後でハッと口を抑えるも、モヤモヤとしていたものがそれだったのだから問題無いとすぐ冷静になる。
『少しここでコーヒーでも飲んでから行く?』
「いえ。すぐに向かいましょう」
『…えぇと、ごめんね。君って意外とせっかちだったりする…?』
カッと顔が赤くなる。
私はせっかち…なのだろうか。
パートナーがせっかちなのは分かっていたが、自分がまさかせっかちだと言われるとは…。
『急ぎたい事があるのかな』
「…そうではない、ですが」
今日、パートナーは別の相手とヤるはずだ。
だから私には時間がある。
のだが、あまり一緒にいる時間は長く無い方が良いと感じていた。
相手からの長いセックスをしたいという言葉に即答する辺り説得力は皆無だが。
『僕も君を早く味わいたい気持ちはあるから。
君が望むなら今すぐ行こう』
気を使わせてしまった?
いや、どうやらそんな事は無いらしい。
私の手を握った彼の手が熱いのだ。
『…君の体を忘れられなかった』
彼が歩き出しながらポツリポツリと呟く。
『もっと早く、君に出逢いたかった』
「… … …」
私も、という言葉は飲み込んだ。
パートナーでは無く、彼が私の相手だったなら。
契約が終わった先も一緒にいたいと思えたのだろうか。
まだ会って二度目だというのに、心が惹かれていきそうで困る。
もう一度、確かめる。
何故私はもう一度確かめたいと思ったのだろう。
確かめてどうしたいのだろう。
確かめた所でどうにもならないというのに。
『こっち』
ラブホテル。
淫魔と同伴でしか入れないホテルだ。
昔パートナーが強引に私を連れてきた事がある為、あまり良い思い出は無い。
『大丈夫?』
「…大丈夫です」
そんなラブホテルも彼と一緒だとそんなに悪くないような気がしてくるから不思議だ。
彼が部屋の鍵を受け取り、廊下を歩く。
ふと彼のパートナーである人間はどれだけいるのかと気になった。
「あの。パートナーの人とは…?」
『気になるよね。
僕、体の相性が合う人がいなくて1ヶ月から一年ごとにパートナーを変えてるんだ。
あ、勿論パートナーは知り合いの淫魔に引き継いで貰ってるから心配しないで』
こうも人間に配慮してくれる淫魔は珍しい。
淫魔から契約解除された人間は一年猶予期間が与えられる。
が、それを過ぎても淫魔とパートナー契約を結べなかった場合は今の仕事を辞めさせられ、強制的に風俗で働かされる事になる。
風俗は24時間ずっと客を取らされ続け、助かる道は客に身柄を購入して貰う事位。
その為、人間はパートナー契約を切られる事を異常に嫌い、必死に淫魔へ媚を売らなくてはならない。
セックスもどんな事をすれば喜んで貰えるか、自分の体の感度を高め、体を磨く。
…私もかつては悪ふざけでパートナーに契約を切ると脅された事がある。
その時の恐怖は今でも覚えている。
『さぁ、どうぞ』
彼が部屋に促し、私は上着を脱ぐ。
彼も何も言わず、部屋に鍵を掛けて服を脱ぎ始める。
どうも気が急いてしまう。
心臓が妙にドキドキとうるさい。
『前みたいにすぐに挿入しても…?』
「はい」
パートナーは慣れていない頃から即挿入ばかりだった。
お陰で当時は常に切れて傷んだものだ。
パートナーが来る前に慣らしておく事を覚えてからはそんな事は無くなったが。
お互い裸になり、ベッドに寝転ぶ。
彼は前と同じように私の体を横たえ、正面から挿入する。
「ぁ…ッ…」
やはり正面からのセックスは少し恥ずかしい。
お互いの顔と体が見えてしまうせいだろう。
だがそれも彼が私の体を抱き、顔を見えないようにしてくれれば。
「んはッ…♡♡」
お互いに抱き合ってのスローセックス。
体が包み込まれた状態で奥をマッサージされるように突かれ、ゆるゆると揺らされるセックスに、前と同じように体が蕩けてしまう。
「ぁ…ッは…ッ♡♡♡」
私の理想のセックスがここにある。
やはり前の時に感じたこの体の心地良さは新鮮なセックスだからで片付くようなものでは無いようだった。
『ああ…』
淫魔の彼が熱い吐息を溢す。
耳に掛かるそれに体がゾクゾク震えてしまう。
『この体…やっぱり、この体だ…』
彼が私を強く抱き締めた。
『この体、そして味。味わえば味わう程に離れがたい』
ドキリとした。
前回私が感じた寂しさを彼も味わっていた…?
『君しか、いない』
彼が私を熱い眼差しで見つめた。
どうしようもなく胸が高鳴る。
こんな気持ちは生まれて初めてかもしれない。
『これからの余生、僕と生きてくれませんか』
淫魔と顔を会わせたのもたった二回。
抱かれたのも今回で二回。
それなのに。
「よ、ろこんで」
私はあっさりと彼と生きる事を決めてしまった。
「ッあッ!♡♡♡」
『あぁ、これほど気持ちが逸るのはいつぶりだろう。
今夜だけは強く抱いてしまうのを許して…!』
どうしてか、嫌だとは思わない。
「い、い…」
私は彼の体を強く抱き締めた。
「もっと…強く、抱いて、下さい…」
セックスありきの結婚など、嫌だと思っていた。
淫魔との結婚はあり得ないと、人間と結婚するのだと。
それがなんの間違いか、淫魔と人間のお見合いパーティーに参加する羽目になり。
彼と出会ってしまって……世界が変わった。
「あぁッ!!♡♡♡」
『佐原さん…』
彼とのセックスは激しくても苦しくない。
むしろ体に掛かる負荷でさえ、心地良い。
『佐原さん…っ』
「ふあっ…ぁああん!!♡♡♡♡」
もっと、もっとと体が彼を求める。
自分の腰が動き、更なる快感を得ようとしている事に気づくも止められない。
まったりとしたセックスがしたいと思っていた。
だが、体の相性が良いのなら激しいセックスも悪くないのだと知った。知ってしまった。
「ぁッ、奥…ッ…奥を…ッ♡♡♡強くぅ…ッ♡♡♡♡」
『はッ…、はッ…奥、突くよ…ッ!』
彼の言葉と同時に最奥が突かれる。
その甘い衝撃に体の奥深くが悦び、全身がぶるぶると震えてしまう。
「ぁああああ━━━ッッ…♡♡♡♡♡」
彼の熱いそれがどくり、と中に放出される。
私の体は益々悦び、自分のモノからも精液が飛び出すのが分かった。
『はぁッ…♡♡♡もう一度……続けても、良い…?』
「来て、くださ、い…♡♡♡」
まだこのふわふわと浮かぶような心地を味わっていたい。
私は彼の首筋に顔を埋めた。
彼が息を飲み、そして再び律動を開始する。
えもいわれぬ快楽。
私はとろとろと微睡むまで彼の甘いセックスを享受していた。
~~~~~
『僕の家に一緒に住んで欲しい』
セックスが終わり、しばらく抱き合っていた時。
彼が不意に希望を口にした。
「…ご一緒したいのは山々なのですが…パートナーとの契約がありますから、まだ無理だと思います」
むしろ今すぐ彼とパートナー契約を結びたいのだ。
それほどに彼の体は私にとって最上のものだった。
だがパートナーはそうすぐに私の契約を切ってくれるか…怪しい。
『それなら向こうのを切って貰って僕と契約を結び直そうか。
向こうの淫魔と話し合いをしたいんだけど間を取り持ってくれたら嬉しい』
「……でも、パートナーは…すんなり契約解消してくれるか…」
『構わない。こちらが横取りという形で契約を切るのだからそれなりに準備はしていくよ。いつ頃パートナーと会うの?』
「明日の夕方頃に」
パートナーが私とのセックスの為に家に帰ってくる。
その時に話が出来るかどうかだが…。
『分かった。僕も明日には用意を済ませておく。
家と連絡先教えておいて貰えるかな?』
「分かりました」
あれほど警戒してわざわざ公衆電話から掛けたり迎えを断ったりしていたのに、それが無くなった途端に家も連絡先もあっさり教えてしまうのだから心というのはわからない。
『近くまで送って行くよ』
「有難う御座います」
もし明日。
彼とパートナー契約を結べたら。
あまり期待しないようにと思えども、胸が熱くなる。
どうか上手くいきますよう。
それだけを願いながら。
~~~~~
パートナーが家に帰って来た。
いつもは雑談もせず私の服を乱暴に剥がすのに今日は珍しく話し掛けてきた。
『よぉ。人間とのお見合いはどうだったんだ?それともまだやってないのか?』
「あ、それは…」
言い掛けた時、パートナーが私の体の匂いを嗅ぎだした。
『… …お前、なんか淫魔臭いな』
「ああ…すいません」
風呂にはしっかり入っていたのだが、淫魔だとすぐに分かるらしい。
『また抱かれたのか』
「はい」
『なんで断らなかった。パートナーがいると』
「えっと…」
何故急にそんな事を聞くのだろう。
『まぁ良い。ヤんぞ』
「え、あ、待って…!!」
『待たねぇ』
服を剥がされ、組み敷かれる。
話し合いの仲介をするつもりだったのに…。
やはりという気持ちが強かった。
パートナーは私の話をまともに聞いてくれない。
性欲解消と餌の為に私とパートナー契約をしているに過ぎないのだ。
尻を剥き出しにされ、パートナーのそれが突っ込まれるかと思ったその時。
『契約の書き換えに来た』
玄関から彼が踏み込んで来た為にパートナーの動きが止まった。
『なんだお前は…?
いや…コイツから漂う匂い…お前だな』
『そうだ。僕が佐原さんを抱いた』
『気に入らねー匂いだ…今から上書きしてやろうとしてたんだ。邪魔すんな』
『契約の書き換えに来たと言っただろう?その手を離して貰おう』
無理やり抱こうとしたパートナーの腰を彼が掴み、行為に及ぼうとするのを止めた。
『何すん……チッ!!なんだお前…くそッ!』
『話を聞け。こっちは無理矢理契約解除しても構わないんだが?』
『……くそが…テメー何者だ…?』
あの乱暴なパートナーを片手で止めるなんて。
彼の力はパートナーよりも強いらしい。
『僕はこういう者でね』
彼が名刺を差し出すとパートナーの顔色が少し変わった。
『…それで?俺のパートナーが欲しいって?上級淫魔の社長様がわざわざ俺のような低級淫魔のパートナーを欲しがるとはね』
社長!?
私は耳を疑った。
顔が広いのは話ぶりから分かっていたが、まさか社長だとは夢にも思わなかった。
むしろそんな人が参加するお見合いパーティー…。
会場が広いとは思っていたが、まさか偉い立場の淫魔ばかりだったんじゃ…?
『僕のパートナーになれる人間はなかなかいなかったんだ。僕の体が悦ぶなんて初めての経験だったよ。
だから君に彼を譲って貰うよ。勿論代わりの者は用意した』
私の代わり!?
それはまるで身代わりのようで非常に居たたまれない気持ちになる。
止めるべきか思案するが、彼が私に微かにウィンクをしたので信じてみようと思った。
『代わりの人間…?』
『気になるかな?』
『見せてみろ』
『良いよ』
彼が手を鳴らすと玄関からぞろぞろと五人程の男女が現れた。
いずれも美男美女ばかりだ。
『佐原さんの代わりに彼ら五人を譲ろう。どれもこれも見た目だけじゃなく技も体液も一級品だ』
パートナーは舌舐めずりをし、私をチラリと見て彼を見た。
『本当に譲んのか?低級の俺によ』
『勿論。誓約書もある』
『………なるほど』
パートナーはペニスからだらりと涎を垂らし、ニタリと笑った。
『良いぜ。交換してやるよ』
『成立だね』
彼が裸の私を抱き上げた。
驚く私に彼がクスッと笑い、私の肌を軽く撫でた。
『おら、さっさと出ていけ。俺はこれからこいつらと乱交すんだからよ』
元パートナーが私達を部屋から追い出す。
彼が自分の着ていたコートで私の体を包み、家から出た。
「か、彼らは…大丈夫なのですか…!?」
私の代わりに元パートナーに抱かれる彼らが不憫だと思い、彼に確認を取る。
『大丈夫だよ。彼らは淫魔を相手にするのが好きな淫魔だから』
「…え?」
『淫魔が人間だけを餌にすると思った?中には変異種がいてね。人間にもいるだろう?変わった趣向を持つ人間が』
家の中から悲鳴が聞こえた。
それは悦びのようでも恐れのようにも聞こえた。
まさか淫魔だったなんて。気が付かなかった。
『変異種は人間に化けて淫魔を食うからね。君は彼の話をする時顔が曇っていたからこういう趣向を凝らしてみたんだけど…嫌だったら止めさせるよ』
「え!?いえっ!」
止めさせようとは思わなかった。
早くパートナーを解消したいと思っていた位だ。
むしろスカッとしてしまった。
『てっきり止めさせると思ったから意外だな』
「…まぁ…思うところが色々ありますから」
『ふふふっ』
彼が噴き出したように笑った。
「え、なんですか?」
『君には意外な面が沢山ありそうだな。
これからそれを一つ一つ見られるのだと思うと楽しみで仕方ないよ』
細めて私を見る穏やかな目に耳が赤くなる。
それはこちらのセリフだと思ったが言葉に詰まり、口には出せなかった。
【その後のお話や補足】
パートナー契約解消し、人間との結婚までに後5年…と思っていたら別の淫魔とフォーリンラブしていた。
まさに何が起こったのか未だ少し混乱中の受け。
この後はパートナー契約をして毎日ラブラブ…はまだ恥ずかしいのでそこそこセックスをする。
一年経つか経たない内に結婚すると思われる。
途中、元パートナーが恨んだり受けへの未練から襲撃して来たり人波乱ある模様。
攻めは実は結婚相談所の社長。
受付のお姉さんはまだ仕事に慣れていない新人でした。
淫魔婚を推奨していればいつか自分の元にも相性抜群の人間が来るかもしれないと期待していた。
~~~~~
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