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第2話 ホットサンドとナポリタン

「お待たせしましたー」  ハイトーンボイスに華やかな笑顔を添えて、アルバイトであろう若い女の子が、コーヒーと料理の皿をテーブルの上に並べていく。 「好きなだけ食べなよ。食べたかったんでしょ? ナポリタンとホットサンド」  彩葉に言われて、問い返す。 「なんで分かったんですか?」 「あんだけメニューの写真をガン見してたら、誰だって分かるでしょ。まぁ、和葉は気付いてないみたいだったけど。あいつは筋金入りの鈍感だからね。これから一緒に暮らすんだから、覚えといた方がいいよ。和葉には『察して欲しい』とか『言わなくても分かって欲しい』とか、そういう以心伝心なことは絶対に期待しちゃダメだから。あいつには、態度に出すだけじゃ通じない。これでもかってくらいハッキリ言葉にしないと、全然伝わらないからね」  そう言ってから、彩葉はコーヒーを一口飲んで、こう付け足した。 「あと、うちの住み込み家政夫になるんなら敬語はやめてくれる? 家にいる時まで気を使いたくないから」 「分かりました」 「って、敬語じゃん」 「急にはちょっと……。それに、和葉さんの意見も聞かないと」  和葉の名前を出したところで、本人が戻ってきた。 「すみません、話の途中で席を外しちゃって」  謝る和葉に、彩葉が仏頂面で話しかける。 「どうせ梨花(りか)からでしょ? あの女、いっつも邪魔してくるよね」 「おい、そういうこと言うのやめろよ」  和葉が眉間に皺を寄せる。 「で? あいつ、何だって?」 「……新しい同居人が決まったんなら、会っておきたいから家で待ってるって」 「はあ? なんで梨花に会わせる必要があるんだよ。大体、赤の他人に合鍵なんか渡すなって言っただろ!」 「もうすぐ家族になるんだから、いいじゃないか。結婚して家を出て行く時は、梨花に渡してある合鍵もちゃんと回収するから」  どうやら、和葉は梨花という女性と婚約中で、もうすぐ結婚するらしい。 「あの……お話し中にすみません。和葉さんが結婚して家を出て行った場合、家政夫として雇われた僕は……どうなっちゃうんでしょうか……?」  不安そうに問いかける智樹の言葉に、彩葉が笑顔で答える。 「雇い主は俺だし、智樹が再就職先を見つけて出て行くまでは面倒見るつもりだから、心配いらないよ」  そう言ってから、彩葉は和葉の方へ顔向け 「それでいいよね? あと、一緒に暮らす相手が敬語だとリラックス出来ないから、タメ口で話してくれって智樹に頼んだんだけど、和葉もその方がいいでしょ?」  と尋ねる。 「そうだね。年も近いし、佐藤さんがそれでいいなら敬語はやめようか」  和葉が同意すると、彩葉はさらに注文をつけた。 「苗字で呼ぶのもやめようよ。みんな下の名前で呼び合えばいいじゃん。ね、智樹」  彩葉から呼びかけられた智樹は、反射的に(うなず)く。 「それじゃあ、これからよろしくね。智樹くん」  和葉から差し出された右手を、智樹は一拍遅れて握り返した。 「よろしくお願いします」  智樹の言葉に、すかさず彩葉がツッコむ。 「敬語やめろってば!」 「えっと……じゃあ、これからよろしく」  言い直した智樹に、彩葉は満足そうな笑みを浮かべた。

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