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本田八雲
唐突だけど自己紹介をしよう。俺は本田八雲 。職業は大学生で、年齢は21。
好きなものはらーめん、気ままに散歩すること、昼寝、そしてタバコ。
そう、俺はタバコが好きなのだ。自他共に認める愛煙家。
吸い始めたきっかけは4つ上の姉さん。
彼氏にフラれた腹いせにタバコを吸い始めた姉貴を見て、興味本意でもらったのが最初。たしか大学に入学したばかりのときだったから、2年前か。
そこからなんとなくで吸い続けて、今ではもう手放せないものになってる。ベランダに出て、ぼーっとしながら吸うのが俺のリラックス方法。
そして俺は今日もまた、徹夜で終わらせた課題のレポートを提出したご褒美に愛煙しているタバコを――
「あ!」
「……」
吸わない。
いや、吸えなかったのほうが正しい。
「ちょっと八雲さん!また吸おうとしてたでしょ」
「してないよ。気のせい」
「嘘だ、オレちゃんと見てましたよ」
俺のことを半目で睨むこのクリーム色で少し癖がある髪をした少年は、南悠太(みなみはるた)。16歳の高校2年生で、俺の可愛い恋人。
猫目の瞳が半目になってて本当に可愛い。南は可愛い。
南がこんなにタバコを吸うなってうるさいのは、俺の身体を心配してのことだ。
どうやらクラスメイトの女子たちが「タバコを吸ってる彼氏を、身体に悪いから禁煙させたい」という話をしているのを聞いていたようだ。
南は今まで「タバコ吸ってる八雲さんかっこいい」と言われていたんだけど、俺の健康のことに頭が回らなかったと反省したらしい。
まあ俺もいいかげん吸いすぎかなと思ってたし、この機会に禁煙してみるかと軽い気持ちで禁煙宣言をしてしまった。
その結果、俺がタバコを吸おうとするたびに怒られるようになってしまった。
奥さんの尻に敷かれてる旦那さんの気持ちがわかった気がする。
「南のジト目可愛い」
「オレも八雲さんのゆるいタレ目好き」
「俺のほうが好きかな」
「いやいや、オレのほうが…って話逸らさないでください」
あー怒ってる南もかわいいなと思いながら、ごめんごめんと謝る。
「あのな南」
「はい」
「禁煙するって言ってもすぐにできるわけじゃないんだ」
「はあ」
「すぐにはできないけど、南のためにもタバコはやめたいって考えてる」
「オレのため?」
「付き合うようになってからよくうちに来るだろ?」
「八雲さんの部屋落ち着くんですよ」
「副煙も怖いからさ。俺より南の身体のほうが心配だから」
「もうやだ八雲さんかっこいい、好き」
南が背中に手をまわし、胸に顔をうずめて抱きついてくる。
俺は南の背中と頭に腕をまわして抱きしめ返した。
そして2人の顔が自然と近づき、触れるだけのキスをする。
「んっ…。でも、キスしたときタバコの味がすると、八雲さんだって感じるから好き」
「……お前はなんで俺の決意を簡単に揺るがすの」
ふにゃりと笑う笑顔が、徹夜明けには眩しすぎた。
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