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第10話 魔王様の戸惑い(ジスside)

 ああ、なんということだろう。このように儚い青年を我が城に迎え入れることができるなんて……。  己の腕の中でうとうとと眠る阿月の髪を撫でる。黒髪の艶々としているそれ。匂いをかげば、ふんわり香る甘い蜜のような。手離したくないと思った。こんなにかわいい生き物を、他の誰にも渡すものかと。  珍しく、何百年ぶりの独占欲に驚いたのは紛れもなく自分だった。おそらく、側近のライアも勘づいているだろう。  阿月を目の前にすると心の波が凪いで、落ち着くのだ。その結果、おっとりとした雰囲気で会話をすることができる。  阿月のかわいらしさといったら、たまったものではない。容姿のかわいらしさはもちろん、言動が小動物のように愛くるしいのだ。しかも礼儀正しい。慌てふためくときの、おろおろ具合がまたいい。わざといじめてしまいたくなる。素直な子なのだなーー 「……っ」  何かが、頭を痺れさせる。まさか、これはーー  オメガのフェロモンか? 「まずいな……」  阿月も悩ましい声を上げて、今にも目が覚めそうになっている。己を律することはもはや叶わない。いくら魔王といえでも、目の前にあるオメガのフェロモンに抗うことはできない。 「阿月……すまない」  今この時だけの謝罪ではない。今後起きるであろう出来事に対しての謝罪だった。 ーーそなたには辛い思いをさせるな……。  しかし、今はそんな哀愁にふけっている余裕などない。  わたしは阿月の首筋に向けて、甘噛みする。 「ふぇ?」  目を覚ました阿月の目を覗き込む。まだ眠たげなとろんとした瞳。それがわたしの性をさらに加速させる。

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