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第18話 魔王の晩餐会

 ライアが厨房に入ってから10分は経っただろうか。真後ろから、急に声をかけられる。 「いま、帰ったよ」  ふわ、と華やぐアプリコットの香りに包まれる。僕の後ろからジスが腕を回してきたのだ。 「お、おかえりなさいっ」  今朝のあんなことやこんなことを思い出してしまい、頬が林檎みたいに紅くなってるに違いない。ジスは着ていたローブを脱いで、僕の正面の椅子に座る。 「……」  ジスが机の上に両肘を付き、手に顎を乗せて僕を見てくる。吹き出しがあったら、音符マークがついていることだろう。るんるんな様子なのが見て取れる。 「ジス様、おかえりなさいませ」  ライアが料理を台車に載せて運んでくる。 「うん。ライア。特に変わったことはなかったかい?」  ライアが配膳の手を止めて、ちらと僕の顔を見ている。すると、その間に違和感を覚えたのかジスが表情を曇らせる。 「なんだ。何かあったのか?」 「その……メビウスが阿月様に無礼を……」 「ふむ。メビウスが」  やや思案顔のジス。 「後でわたしのほうから躾ておこう。せっかくライアが作ってくれた料理を冷ましたくないからね」 「ジス様……」  ぱぁぁあと、ライアの表情が明るくなる。  ジスのこういうところ、尊敬する。見習わなくちゃ。 「本日のディナーは、きのこと生クリームのボロネーゼ、コールスローサラダ、パンプキンポタージュ、プディングでございます」  次々に机の上に並べられる料理はどれもできたてで、湯気が出ているものも。  すごいなあ、ライア。僕はこんなに本格的な料理はしたことがないや。 「いただきます」  ジスが手をそろえるのを見て、僕もすかさず 「いただきますっ」  ライアにお辞儀をしてから、スプーンを手に取った。ライアは台車を運び、厨房に戻るらしい。食事をしながら、僕は今日ジスに聞きたかったことを聞いてみることにした。  2人がプディングを食べ終えた頃。 「あの、1つ聞いてもいい?」  おずおずとジスを見上げる。するとジスは、「うん?」と優しい眼差しで僕を見てくれる。 「どうしてジスは僕を召喚したの?」  ジスは軽く微笑みを口端に浮かべながら。 「その話はわたしのベッドの上でするのはどうだろうか?」  紳士的な提案に、僕はほっとする。コクン、と頷けばジスが僕の手を引いて3階に連れていく。 「じ、自分で階段登れるっ」 「いいや。許さない。そなたにはわたしの筋トレの一助になってもらう」  階段を登ろうとしたらジスに抱っこされた。それも、お姫様抱っこだ。じたばた暴れても全く動じることのないジスの腕と体幹。僕は諦めて身体の力を抜くことにした。  城を探検した時には気づかなかったが、隠し扉があるらしい。ジスが僕を片手に抱っこして、部屋を開ける。  僕のことを広い部屋のベッドの上に下ろしてから、隣に座った。  ずし、とベッドが軽く傾く。

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