1 / 25

◇◇◇

 俺たちの関係を一言で表すと、まさしく『セックスフレンド』――すなわち、『セフレ』である。  ソイツは俺の元に酒を持ってふらっとやって来る。俺の住むアパートで二人で酒を飲み、抱き合って終わり。  朝になるとソイツは必ず姿を消していた。まるで、初めから存在しないかのように。  ソイツの態度を寂しいと思ったことはない。俺もアイツも、本気になることはないから。両方にとって『都合のいい存在』でしかないから。  欲求不満。性欲処理。  アイツが俺を抱く理由はいくつか考えることが出来るが、結論はいつも同じで『都合のいい存在』というだけ。  そもそも、俺は――ソイツの本名一つ、知らないのだから。  この日も、ソイツは俺のアルバイト先である花屋にやってきた。その手には先ほど購入したのだろうか。袋に入った酒がある。 「適当に花を一本くれ」  ソイツの言葉に、俺は桃色のバラを差し出した。これが二人の約束。  「適当に花を一本」の言葉は『お前の家で待ってていいか』という問いかけ。  俺が桃色のバラを差し出すのは了承の意味。都合が悪いときは白色のバラを差し出すことになっている。 「じゃあな」  アイツは桃色のバラと引き換えとして、代金を俺に渡して立ち去った。  男の後ろ姿を眺めていると、俺はいつも同じことを思う。  ――恐ろしいほどに、美しい歩き方の男だ、と。 (ルーは、一体なにを考えているんだろう)  あの男は俺に本名を教えてくれることはない。代わりとばかりに「ルーと呼べ」と命じてきた。  だから、俺は今日もアイツを「ルー」と呼ぶ。 (今夜は退屈せずに済みそうだ)  ひっそりとつぶやいて、俺は仕事に戻ることにした。
8
いいね
5
萌えた
0
切ない
0
エロい
5
尊い
リアクションとは?
コメント

ともだちにシェアしよう!

この作品を読んだ人におすすめ

もしも――おれだけを選んでくれていたら。ずっと傍に居たかった
11話 / 67,602文字 / 24
2019/5/29
貴崎駈、加納雄大、伊集院祥太、各々の恋ごころと愛と執着の形。
三井晄、芹生楓。彼らのアフターストーリー。本編完結後にお読みいただくことをお勧めいたします。
5話 / 3,822文字 / 83
2019/6/14
完結
執愛
R18 弟×兄
119話 / 105,661文字
2020/5/21
ひとくせもふたくせもある愛すべきヨコハマの刑事たちと過ごす、濃厚で爛れた不正義の平和という日常
6話 / 21,819文字 / 1
2020/10/17
城前と宮田は殺し屋だ。城前はクソビッチですぐ客と寝る。モブ攻めしかありません。
3話 / 9,628文字 / 0
2023/11/30