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 俺たちの関係を一言で表すと、まさしく『セックスフレンド』――すなわち、『セフレ』である。  ソイツは俺の元に酒を持ってふらっとやって来る。俺の住むアパートで二人で酒を飲み、抱き合って終わり。  朝になるとソイツは必ず姿を消していた。まるで、初めから存在しないかのように。  ソイツの態度を寂しいと思ったことはない。俺もアイツも、本気になることはないから。両方にとって『都合のいい存在』でしかないから。  欲求不満。性欲処理。  アイツが俺を抱く理由はいくつか考えることが出来るが、結論はいつも同じで『都合のいい存在』というだけ。  そもそも、俺は――ソイツの本名一つ、知らないのだから。  この日も、ソイツは俺のアルバイト先である花屋にやってきた。その手には先ほど購入したのだろうか。袋に入った酒がある。 「適当に花を一本くれ」  ソイツの言葉に、俺は桃色のバラを差し出した。これが二人の約束。  「適当に花を一本」の言葉は『お前の家で待ってていいか』という問いかけ。  俺が桃色のバラを差し出すのは了承の意味。都合が悪いときは白色のバラを差し出すことになっている。 「じゃあな」  アイツは桃色のバラと引き換えとして、代金を俺に渡して立ち去った。  男の後ろ姿を眺めていると、俺はいつも同じことを思う。  ――恐ろしいほどに、美しい歩き方の男だ、と。 (ルーは、一体なにを考えているんだろう)  あの男は俺に本名を教えてくれることはない。代わりとばかりに「ルーと呼べ」と命じてきた。  だから、俺は今日もアイツを「ルー」と呼ぶ。 (今夜は退屈せずに済みそうだ)  ひっそりとつぶやいて、俺は仕事に戻ることにした。

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