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 天は二物を与えず、なんて嘘だ。嘘っぱちだ。  だって、俺の幼馴染はなにもかもを持っているんだから。 「あのさ、|祈《いのり》」 「ん? どうした?」  にっこりと笑って、とぼけた。けれど彼――俺の恋人――の言いたいことなんて、手に取るようにわかる。  だって、そういう時期だから。この後、この恋人の口から出るのは――。 「ごめん、俺、他に好きな奴が出来たんだ」  少し頬を染めた恋人が、俺からそっと視線を逸らす。  あー、はいはい。何度も聞いた決まり文句。それからの言葉は、大体理解している。 「だからさ、その……別れて、くれないか?」  予想通りだった。  ついでに、奴の好きな奴も把握済み。  それは別に俺が恋人、いやこの場合は元恋人のストーカーをして突き止めたとか、そういうことじゃない。  だって、これは何度も聞いた『お決まりの流れでテンプレート』なのだから。 「……いいよ」  俺が笑って、そう言葉を返す。すると、元恋人はホッとしたように胸をなでおろしていた。 「でも、ひとつだけ聞きたいんだけど」  表情を真剣なものに変えて、問いかける。  元恋人は頷いてくれた。きっと、一方的に別れを告げたことに対し、多少なりとも罪悪感を抱えてくれているのだろう。 「――お前の、新しく好きになった奴って――」  そこまで言うと、俺の肩にとんっと手が置かれた。その手は元恋人のものじゃない。  もっときれいで、傷一つなくて。綺麗に整えられた爪は、まるで女みたいだ。でも、俺は知っている。  この手の持ち主は、男だと。 「二人でなにを話しているの? 俺も混ぜてよ」  場違いなほどに明るい声だった。  その声を聞いた瞬間、元恋人の頬に朱が差す。  ……あぁ、全部、嫌だな。 「こ、こ、|上月《こうづき》くん……!」  元恋人が、上ずったような声でこの男の名前を呼ぶ。その目はまさに恋する人間のものであり、本当に悔しかった。  そっと男のほうに視線を向ける。少しうねった明るい茶色の髪。目元は優しそうな印象を醸し出しており、驚くほどに整った美貌を持つ男。  上月 |亜玲《あれい》。それが、この男の名前だ。 「あっ、キミ、確か祈の恋人だったよね。もしかして、邪魔しちゃった?」  ニコニコと笑って、わざとらしくそう言う亜玲。が、俺は知っている。  ――こいつが、確信犯であるということを。 「いや、もう別れたから。……じゃあな、亜玲。……|寿々也《すずや》」  最後に。もう二度と親しげに呼ぶことがないだろう名前を口にして、俺は立ち上がった。  振り向くことはない。亜玲と元恋人の楽しそうな姿を見る余裕が、心にない。  そのままキャンパス内のカフェテリアを出て、ハッとする。……あぁ、そういえば。 (アイスコーヒー、残ったままだったな……)  飲みかけのアイスコーヒー、片づけるのも忘れていた。……ま、それくらいあいつらがやってくれるか。  だって俺は、恋人を寝取られたいわば被害者なのだから。

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