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 ――上月 奏輔。  亜玲の異母兄で、上月の正当な後継者である男。  奏輔の母は、奏輔を産んで半年後に亡くなったらしい。そして、新しく上月家に嫁いできたのが亜玲の母だった。  世間一般の異母兄弟はどんな関係なのか。俺は知らないけど、上月家に関しては昔は悪くなかったと思う。  小さなころは亜玲と俺と奏輔で遊んでいた。しかし、成長するにつれ、亜玲は奏輔を疎むようになった。  気づくと遊ぶのはいつだって俺と亜玲だけ。そして――俺と亜玲も、疎遠になった。  幼少のころ仲が良かった三人は、いつの間にかバラバラになっていた。  運転する奏輔の横顔を眺める。真剣な面持ちの奏輔は、見る人が見たらとてもかっこいいんだろう。モテるはずだ。  けど、俺にとって奏輔は――。 「祈、俺のことじっと見て、なに?」 「……あ」  信号が赤になったタイミングで、奏輔が俺に視線を向けてくる。  慌てて窓のほうに顔を向けた。 「別に、今話さなくてもいいよ。今日はたくさん時間があるわけだし」  余裕たっぷりの奏輔は、なにを考えているのだろうか。  今も昔も、俺には奏輔の考えがなに一つわからなかった。 (奏輔はすごく優しかった。理想のお兄ちゃんだった)  俺にとっても、奏輔は『お兄ちゃん』だった。優しくて、頼もしくて。それが変わったのは、いつからだろう。 『――俺は奏輔を兄だなんて思ったことは一度もない!』  頭の中でいつかの亜玲の叫び声がこだまする。  瞳に憎しみを込めて、奏輔をにらんでいる。俺は二人の光景をどこか遠くから眺めていた。 『お前にとって俺は、相手にもならないレベルなんだよな。……いつも余裕たっぷりで、俺のこと見下してる』  亜玲のこぶしが震えている。唇をわなわなと震わせた亜玲が、吐き捨てる。 『――お前なんて、大嫌いだ』  地を這うような低い声だった。  あれはいったい――いつだったっけ。 (あのときの俺は、頭のどこかで楽観的に考えていて。どうせすぐに仲直りするって思ってた)  でも、数日経っても数週間経っても、数カ月経っても。なんなら何年経っても。二人の仲はこじれたまま。  その間に大学まで卒業した奏輔は、事業を手伝うために海外を転々とする暮らしになったのだ。  雨が降ってきたみたいだ。ぽつぽつと落ちてくる雨粒は、窓ガラスに落ちて視界を歪ませていく。  その光景をぼうっと見つめていると、頬になにかが触れた。 「奏輔」 「なにか考え事?」  奏輔がにこりと笑う。 「なにかあるなら、お兄さんに話してごらん。解決するかもよ?」 「……奏輔にだけは、話さない」  突き放すように冷たく言い放つと、奏輔は「ちぇ」と声をあげて、また運転に戻った。  先ほどまで奏輔の指が触れていた頬に触れる。感触を消すように軽く揉むと、運転席から笑い声が聞こえた。 「そんなに俺に触られるのがいや?」 「嫌っていうわけじゃない」 「嘘言うなって。思い切り顔に『いやです』って書いてあるから」  眉間にしわを寄せた。いやだってわかっているなら、触れなくてもいいじゃないか――という意味だ。 「そんな風に拒絶されたら、寂しいな。俺と祈の仲なのに」 「……どういう仲だよ」  なんてつぶやくと、車が右折し、コンビニの駐車場に止まった。 「深い意味はないよ。俺たちは幼馴染、それだけだろ?」  意味ありげに笑った奏輔が、ブレーキをかけてエンジンを切った。  そして、俺のほうに乗り出してくる。 「本当、お前ってバカだよねぇ」 「いきなり罵倒かよ」 「ごめんね。……けど、本当にバカだなって思って」  頭のどこかでこの状況が危険だと警告音が鳴っている。  それだけうるさく鳴らさなくてもわかっている。わかっているが……逃げる方法はわからない。 「俺がなにかするって思わなかったの?」  可愛らしく小首をかしげられた。しかし、全然可愛くない。むしろ、悪寒がするほど不気味だ。

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