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1-21 懐かしい顔ぶれ

 時は少しばかり前に遡る。  一行が光焔(こうえん)の地に辿り着き、宗主である蓉緋(ゆうひ)たちから鳳凰の儀のことを聞き、珊瑚宮で逢魔(おうま)が鳳凰の儀が"神子争奪戦"であると告げた後。  無明(むみょう)は例の通霊符を応用した鏡、通霊鏡(つうれいきょう)白冰(はくひょう)を呼び出した。 「無明と、白笶(びゃくや)も! 身体はもう平気かい? 今は光焔(こうえん)かな? 碧水(へきすい)から一番遠い地だが、どうやら問題なく通霊できているようだね、」  白笶は無明の横で、相変わらずな白冰に対して「問題ありません」とひと言だけ答える。  清婉(せいえん)は興味津々な眼差しで、鏡に映る白冰の姿をふたりの後ろで控えめに見下ろしていた。それとは真逆の逢魔は、まったく興味がないのか、花窓の外を頬杖を付いて眺めている。 「白冰様、こんにちは! あ、今、大丈夫?」  無明は周りが少し騒がしい感じがしたので、座学中かと思い、念の為に話が可能か訊ねてみる。 「ああ、今、蔵書閣で新しく寄与された書物の整理をしているんだけど、別に問題ないよ、」  と、言った矢先、椅子に座って作業をしていた白冰の背中越しに、ちらりと映り込んだ者たちがいた。 「あ、白冰様がサボってる」 「もう、白冰様、またですか? 遊んでいないで手伝ってくださ······あっ!? 無明殿に白笶様······清婉(せいえん)殿も!?」  聞き覚えのある声に、清婉は無明の後ろで鏡を思わず覗き込んだ。白冰の後ろに、懐かしい双子の姿が映り込む。 「雪鈴(せつれい)殿、雪陽(せつよう)殿!」 「久しぶりだね、ふたりとも」  ええ、どうなってるんです!? と雪鈴は両手に抱えていた資料を落としそうになるも、雪陽が迷わず支えてくれたおかげで無事だった。落ち着いて資料を広い机の上に置き、改めてふたり並んで、礼儀正しく腕を前で囲って同時にお辞儀をした。  薄青の羽織を纏う白冰とは違い、蓮の紋様が背中に入った白い衣を纏う雪鈴と雪陽は、双子だが顔がそれぞれ違う。 「これは通霊鏡(つうれいきょう)と言ってね、私と無明の知の結晶さ。まあ、試験中なんだけどね」 「白冰様のガラクタが役に立つ日が来るなんて、驚きだね」  雪陽は「驚き」と言いつつもまったくの無表情であったが、雪鈴にはそれがとても興味津々な表情が映っていた。 「大事なお話のようなので、私たちは席を外しましょうか?」 「あ、大丈夫! むしろ、頼みたいことがあるんだ」  気を遣った雪鈴の言葉に、無明は首を振った。蔵書閣にいるなら、好都合だった。知りたいことを知れるかもしれない。 「ひと月後に光焔(こうえん)の地で行われる"鳳凰の儀"について、調べてもらいたいことがあって。お願いできるかな?」 「もちろんです。調べ物は得意ですよ、雪陽が」  う、うん?と無明は首を傾げる。 (そういえば、竜虎(りゅうこ)が言ってたっけ······雪鈴は細身で優し気な見た目や性格に反して、細かい作業が苦手だって)  代わりに、雪陽は雪鈴より体格もそれなりに良く、背も高いが、その見た目に反して武芸は苦手で、どちらかといえば符術や陣の方が得意だとか。清婉が教えた大根の飾り切りも、すぐにできるようになったらしい。  いつもどこか眠たそうで、のんびりした口調なため、つかみどころがない。 「二年に一度、宗主を決める鳳凰の儀か。まさか、また良くないことに巻き込まれているんじゃないだろうね?」 「そうなる前に、ちょっと知っておきたくて。白冰様、それに関する書物ってあるかな? 古ければ古いほどいいんだけど」 「······そういうことか。君は、鳳凰の儀の根源が知りたいんだね」  さすが、白冰様! と無明は、話しの早い白冰に笑顔で答える。    ちょっと待ってね、と白冰はその場を少し離れ、蔵書閣の膨大な量の管理帳の棚の中から、ぶ厚い重たそうな三冊を積み上げて片手で持ち運び、再び無明たちの前に映り込む。 「雪陽、二十五の十番の棚から()の一族の資料、五十一の三番の棚から各一族の儀式の資料、七十の十四番の棚から四神朱雀についての資料を持って来てくれるかい? 雪鈴は運ぶのを手伝ってあげて?」  ぱらぱらと捲る音がしばらくし、白冰はすらすらと読んで指示を与える。わかりました、とふたりは一緒に並んで蔵書閣の棚が並ぶ方へと駆けて行く。  少しして、雪鈴が見つかった資料から順番に運んで持ってくる。その間に探すを繰り返し、大して時間をかけずに資料は白冰の前へと積み上げられた。  それらをものすごい速さでぱらぱらと捲り、白冰は「お待たせ」と微笑を浮かべた。先程の捲り方で大丈夫なんです? と清婉は怪訝そうに鏡を覗き込む。  こちらから見ている分には、ただぱらぱらと適当に書物を捲っていただけだったので、それで何がわかるのかと疑ってしまう。 「鳳凰の儀の根源は、神子が巡礼をするようになった頃から始まったみたいだよ。本来は朱雀の陣を強化するために行われていたようだね。二年に一度、神子は光焔(こうえん)の地の守護のため、朱雀と共に舞を舞うことで、陣の効力を保っていたらしい。そこが他の地とは少し違うようだ。他の地、例えばこの碧水(へきすい)ではそのような儀式は存在していない」  無明はなぜこの地にだけそんな儀式が存在するのか気になりつつも、元々の儀式の意味を知ることができたので十分だった。 「鳳凰の儀が、今の形になったのは、やはり神子が彼の地で烏哭(うこく)を封じた後からのようだ。元々()の一族は血気盛んな一族で、宗主争いは昔からあったらしい。常にその座を狙われていた宗主が思い付いた、苦肉の策って感じかな? 二年の間は安泰ってやつだね」  白冰は肩を竦めて、どこか皮肉めいた口調でそう言った。  無明は何か考えるような仕草をし頷くと、ありがとう、と礼を告げる。  その後、簡潔にこれまでの出来事を報告して、白冰たちとの通霊は終了するのだった。

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