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9話 愛情は止められない!お風呂じゃなくて愛欲に溺れろ?!
「ただいま帰りました」
「ただいまぁ」
「おかえりぃ~~お兄ちゃん、お腹空いたぁ」
差している傘を閉じ、家へ上がると、卯月が玄関まで迎えにきてくれた。
2人でひとつの傘に入っていたため、肩が雨に濡れ、冷たい。その代わりに幸福感に満たされている。睦月は家に着くなり、早々と着替えを済ませ、夕飯の準備に取りかかりにキッチンへ行ってしまった。
「お風呂、洗っといたよ~~」
「ありがとうございます……?」
卯月さんが私へ風呂掃除の報告? 何故に? 何かもの言いたげに見つめてくる。何かあるのだろうか?
少し疑問に思いつつも、出来上がった晩御飯を食卓に並べ、三人で食べる。
食べ終わると、卯月が急須で暖かいお茶を淹れ、目の前に湯呑みが置かれた。卯月さんがお茶を淹れてくれるなんて益々怪しい。淹れたお茶を訝しげに思いながらも口を付ける。
「如月、一緒にお風呂入ろう」
「ぶっ」
卯月の言葉に、飲んでいたお茶を思わず全て吹き出す。
「如月、汚い」
背後から強烈な殺意を感じる。
「な、何故……睦月さんと……入れば……」
怖くて振り返れない。背中が恐ろしくて、声が震える。
「それは流石にキモい。ねぇ、せっくすってどうやるの? 色々気になるんだけど」
「え?」
ーーパリン
床に食器が落ちて割れる音がした。音がした方を振り返って見る。驚きのあまり、皿を落としたようだ。言葉を失った睦月が立っていた。
「……小学校で習いませんでしたか?」
「覚えてない」
「なるほど。ネットで調べては? いや、良くないのかな」
色々言われていることと自分の考えがまとまらず、自分の毛先を指でくるくる回す。う~~ん。
15歳かぁ。兄と二人で過ごし、誰も教えてくれなかったと。間違った認識で行動を起こして、取り返しがつかなくなるよりは、きちんと性教育をした方がいいのかもしれない。
洋室へ向かい、鞄の中からコンドームを取り、ポケットに入れる。
「ねぇ、だから一緒にお風呂入ろう?」
「う~ん……いいですよ。卯月さんが望むなら……一緒に入っても。多分、大丈夫です……」
体にも興味があるのかな。
誰かを好きになることに性別は関係ない。でも性的欲求はある。卯月に対してそういう類の欲求は一度も抱いたことはないが、やっぱり不安だ。
心の中で、もう一度自分に『大丈夫』と言い聞かせ、安心を得ようとする。
「俺とは入らないのに卯月とは入るわけ?」
睦月さんの私への嫉妬心と独占欲は相当だ。そもそも、妹が得体の知れない男 と風呂に入ろうとしている点に怒りを感じてほしい。
わりとフランクな人間関係を築く私には少し愛が重い。
「また今度、機会があれば(一緒になど入らないがな)」
「それは楽しみだな(愛欲に溺れさせ、俺以外見えなくしてやるよ)」
「では睦月さんまた後で。(愛憎の念が入り混じって、もがき狂ってしまえ)卯月さん、15分後に入ってきてくださいね」
コンドームをひらひら睦月に見せ浴室へ向かった。
「わかったぁ~~(2人の愛がこわいよーー)」
「ちょっと! 浴室で何する気?!」
「べつに~~」
慌てふためく睦月を無視して、脱衣所で服を脱ぎ、浴室へ入る。15分後に入ってくることを考慮し、急いで全身を洗い、シャワーを浴びる。浴槽に浸かって卯月を待った。
もう一度考える。本当にいいのか、これで。そんなこと考えても今更だけど。
「入るよう」
浴室の折れ戸の向こうで声がする。
「どうぞ……って体を隠すとか私への配慮はないのですか」
「何も隠してない人に言われてもなぁ~~」
入ってきた卯月から思わず目線を逸らす。なんか恥ずかしい。相手が中学生にも関わらず、頬が染まる。卯月がバスチェアに座り、シャワーで体を洗い流し始めた。
色白で、もちもちしている肌に美しいボディライン。胸も大きすぎず、小さすぎない。卯月さんは綺麗だ。でも性的欲求は感じない。卯月さんが望んだことだ。問題はない。
このカオスな状況に、居てもいい口実を探す。
「私も、は~~いろ」
「え」
湯船に入ろうとする卯月に、私は固まる。
「いいでしょ、寒いんだから」
私の膝の上になんの躊躇もなく座る卯月の純粋さに恐怖する。
「そう…ですね……」
「はぁ~~これでゆっくり話せる」
卯月はそう言い、私の胸元にもたれかかってきた。こちらとしては、ここまで来たらヤケクソである。
まぁ確かに、お風呂はリラックスできるし、ゆっくり話をするには良い場なのかもしれない。この際、卯月さんとのお風呂を楽しみたい。
「で、なんで急に私とお風呂に入りたいなんて言い出したのですか?」
「お兄ちゃんたち見てたら、なんか色々知りたくなっちゃって。せっくすシてみたいなぁとか思ったりもする。でもあんまり詳しく知らないし」
「なるほど。あ、先に言っておきますけど、私で試したいとかはナシですからね」
とりあえず、釘を刺す。
「それはないっ」
ぱしゃ。
湯船のお湯を顔にかけられた。一応の釘刺しだってば!!! 顔にかけられたお湯を手で拭う。
一通り、必要であろう性の知識と避妊法を説明する。とても真剣に話を訊くので、私も真面目に話す。
「性行為だけでなく、手を繋ぐとかそういったボディタッチにも、セクシュアルコンセント は必要だということを忘れないでください」
卯月の頭を優しく撫で、話し続ける。
「その相手との性行為を望んでいるのか、お互いが性行為をしたいと思っている、適切な場所、正しい避妊方法をお互い認識していることが大切ですよ」
「無理強いはだめってことだね!」
「そういうことです~~睦月さんに言っといて」
浴槽に頬杖を付き、ため息をつく。はぁ。
「お兄ちゃんとはお風呂入らないの?」
「入りたくないです。今の私は保存食用に育てていたペットが実は肉食獣で、食べられそうになっている件です」
「何それ~~」
ニヤニヤしながら睦月さんとのことを訊いてくる卯月の肩に、顎を乗せ少し抱きしめる。
「セクシュアルコンセントを無視して近寄ってくるあの強靭メンタル。どうかしてますよ」
「あれはもはや溺愛~~私はこんな状況でフツーに抱きしめてくる如月もどうかしてると思うけどね~~」
「え? ただの愛情表現でした」
「お兄ちゃんにしてあげなよ……」
ゆっくり話しながら湯船に浸かっていると、心も体も温まり、いつの間にかリラックスしていた。はじめに感じた不安はいつの間にかどこかへ消え去り、自然とぼんやりタイムに突入する。
睦月さんが私のことを意識するようになり、自分からスキンシップを取ることが出来なくなっていた。
傷つけたくないという気持ちが先行し、どんな距離感で触れて良いのか、分からなくなる。恋人ってどんな感じだったかな。中々思い出せない。
「暑いからそろそろ上がるね」
「はーい」
卯月が立ち上がり、浴槽から出て、折り戸を開けた。
「お兄ちゃん呼んでくるね」
「はーい……て、呼ばなくていいですって!」
「そんな愛しそうな顔で考えごとされても説得力ないよぉ~~お先ぃ~~」
行ってしまった!!! 早く出よう、危険だ!!!
浴室を出ると体育座りをした睦月が待っていた。話を聞いていたのか、呼ばれてきたのかは分からないけど。
だが、今の私はリラックスしている。そして最高に気分が良い。
水滴のついた体を拭きあげ、着替えを済ませた。後ろから睦月を抱きしめて座る。近づいたことで、首元から睦月の甘い匂いを感じ、気持ちが昂る。口を尖らせ拗ねたような表情を浮かべる睦月に顔を近づけた。
「あ~~ムラムラしてきました」
「へ? ーーっあ」
後ろから首筋にキスをする。ほんのり赤く染まる頬と驚いて体をうねる姿が可愛くて、何度も首筋に唇を付けていく。
ちゅ。ちゅ。
「~~っ 卯月みてる! ダメだってばぁ~~」
「まだよそ見する余裕がありそうですね。あーー、愛欲に溺れろでしたっけ? 私以外見えなくしてあげますよ」
片手をTシャツの下へ忍ばせ、肌に触れる。
「セクシュアルコンセントはぁ」
「そんな顔で言われてもねぇ、同意してるとしか思えませんね」
睦月の体が熱を帯び、目がとろんとしている。まだ何もしてないのに早いですよ、睦月さん。顎を掴み顔の向きを変えさせ、唇を重ねる。
「あぁ、もう~~んっーー」
ここから先は、卯月さんには見せられないな。
脚で脱衣所のドアをそっとスライドさせ、閉めた。
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