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22話(4)
ベッドに一緒に寝転がりながら、如月は本を読み、俺はスマホでゲームをして、まったり過ごしている。
そろそろ夕飯の時間っぽい。一階が騒がしくなってきた。また手伝った方がいいのだろうか? でしゃばりすぎかな? いや、もっと手伝って好感度を上げるべき!! ベッドから上半身を起こす。
「どこいくんですか?」引き止めるように、腰回りへ如月の腕が来る。ドキ。
「夕飯のお手伝いしようかと思って」
「そんなのやらせておけばいいんですよ」ごそ。ズボンの中に手が入ってくる。
「っ……な…なんか……欲求…不満……?」スキンシップがいつもより激しい気がする。恐る恐る如月の顔を見る。
「え? う~~ん。昨日からずっとむらむらはしてます」真顔で言うな。
「さようですか……」じーーっと如月を見る。
ここに居たら襲われる気がする。シたくない訳じゃない。あんまり激しいのは今はちょっと……。この後、まだ如月家の方々とコミュニケーション取りたいし。体力は取っておきたい。よし、逃げよう。
「お、俺やっぱり手伝ってくる……っあ……握らないでっ…夜ね! っん…夜!! 俺手伝ってくる!!!」えいっ。如月の手を抜き、逃げるように立ち上がり、部屋を出る。
「あっ、ちょっ! ぇえ~~!」いいんだ、これで。うん。
急いで階段を降りて、キッチンへ向かう。今日の如月はヤバい。本能がそう訴えている!! 自分がむらむらするのは良いけど、むらむらされるのは困る!! どうせ俺が受けなんだから!!! 毎回付き合ってたらしぬ!!!
キッチンへたどり着き、遠くから冷蔵庫に群がるお姉さま達の様子を窺う。
「香澄帰った」
「誰が料理するの?」
「小春」
「私に出来るとでも?」
「逆に私に出来るとでも?」この家系は料理が出来ないの?
「お母さんは?」
「料理したくないから逃げた」
……俺が作ろう。はぁ。
「あの~~俺が作ります」和かに笑って見せる。
「助かる~~あと全部よろしくね」丸投げか~~い。キッチンに立ち、手を洗う。
もう全ての調理器具の場所は把握した。冷蔵庫の中身も分かっている。来客のはずなのに、もはや家政婦に来ているも同然!! 良いけどね!! 別に!!
生姜千切り! 大根乱切り!! 豚バラ肉も包丁でカットぉおおぉお!!! くそがぁあぁぁああ!!! 誰が家政婦だぁあぁあぁあ!!!! とんとんとんとん。
「だぁあぁあぁあぁあっ!!!!」
フライパンインごま油で炒めたるわ!!! 醤油! みりん! 砂糖! 味噌! しょうが! 顆粒だし! おらぁあぁあぁあぁあ!!! 煮詰まれ!!!
「あ、水ちょっといれとこ」落とし蓋をする。柔らかくなれ。
メインはこれでいいでしょ。味噌汁は面倒くさいので大根と揚げの味噌汁。同時進行中。副菜いるかな? 任されているし、失礼のないようにはしたい。
まな板と包丁を洗いながら考える。もう副菜も大根でよくね? オール大根。ダメか。暑いし、きゅうりを鶏がらスープとごま油で揉んで出しとこ。きゅうり水で洗ってっと。
「おらぁあぁあぁあぁあ!!!!」きゅうりにストレスをぶつけながら手で割る。
「なんでさっきから叫んでるんですか」如月は小春に訊く。
「知らん。だけどこれだけは言える。弥生の彼氏めっちゃ面白い。私は千早ちゃんより好きだよ」小春は口元に笑みを浮かべた。
大根良い感じ。米は炊いてあったから、もうこれで出来上がり。おっけー。後ろを振り返り、口を開く。
「出来ました!!」なんか全員集合してる。
「どうも~~」見てないで手伝ってよ。
リビングへ行き、机を見る。
ぐっちゃあ~~
あ? お菓子食べっぱなし。飲んだら飲みっぱなし。レシート置きっぱなし。本読んだら読みっぱなし。これ俺が片付けるの? それぐらい料理している間に片付けろ!!
イライラしながら、机の上を片付け、濡らした布巾で綺麗に拭く。ふきふき。ぴかぴか。よし、料理を運ぼう。
「なんか、ごめんね?」如月が謝ってきた。
「そう思うなら手伝ってくれる?」お玉とお椀を押し付ける。
「うっ」如月は面倒くさそうに、お椀に味噌汁を入れ始めた。
「弥生ちゃんが尻にひかれてる……」傍観する琴葉へ近づく。
「お姉さんはこれお願いします」しゃもじと茶碗を渡す。
「は、はぁい」琴葉は茶碗に白米をよそった。
全てが食卓に並び、みんなが席へ着き始める。ひとつだけ、席が空いている。そういえば、お義父さんは見ていない。今から来るのかな?
「えっと、甘辛味噌の豚バラ大根と無限きゅうりです」一応料理を紹介してみる。
「ありがとうね」お義母さまの目が優しい。
「ただいま」リビングに現れたダンディな男をみる。これは……お義父さま?! いけおじ! 如月と顔似てる……!
挨拶しなきゃ!! 慌てて、立ち上がり、お義父さんに近づき、頭を下げる。
「初めまして、佐野睦月です!! よろしくお願いします!!」
「はいはい」意外とあっさり。
全員が席に着き、食事が始まった。「美味しい」って如月家の皆さんが食べてくれることにホッとする。折角みんな揃ってるんだ。きちんともう一度挨拶をしよう。食べている箸を止める。
「や…弥生さんとは、5月頃より良い交際をさせていただいています。いつも一緒に過ごす中で、俺のことや妹のことを気遣ってくれたり……俺も妹も支えになってます。本当に感謝しています」これで良いのかな?!
「待った!!」お義母さんに止められる。
「え?」お義母さんを見る。
「うちの息子は同棲してるの?」え? そこ?
「同棲……? 居候……? う~~ん」なんだろう。訊かれるとよく分からない。
「睦月さんの家に住んでます。睦月さんと睦月さんの妹と3人で住んでます」如月は箸を置き、しれっと答えた。
「は? 自分の家は?」義母が怪訝な顔になる。
「1週間に1回は(えっちしに)帰ってるよ。誰とどこに住んでも良いでしょ」
「妹いくつ?」言っていいの? これ。
「じゅ…じゅうご……」汗が出る。
「はぁ? いいのそれ」
いいかと聞かれても、そもそも拾ってきたのは妹であり、その辺あまり深く考えたことはない。妹からすれば、如月は、もう家族みたいなもんだし。今更ダメとかない。
「妹にとっては弥生さんは家族です」これ以外の言葉は見つからない!
「ふ~~ん」とりあえず乗り切った?
「えっと……弥生さんが少しでも、楽しく安心して過ごせるように日々努力したいと思っています。今後も責任を持ってお付き合いを続けていきたいです。どうぞよろしくお願いいたします」軽く頭を下げる。
「見た目に反して、意外としっかりしてるね」そうかもね……。
「今度、睦月くんのお宅行ってもいいかな?」如月の母は真面目な顔で睦月を見た。
「そんなに綺麗なところじゃなくてもいいならぜひ……」これで認めてもらうことが出来るのだろうか?
「何もしない世話ばかり焼けるバカ息子だけど、うちの子をよろしくね」お義母さぁあぁあぁあん!!!!
「はい!! こちらこそよろしくお願いします!!」嬉しい~~っ!
「佐野家ではちゃんとお手伝いしてるもん」如月は小さく口を尖らせた。
夕ご飯が終わり、如月家の食べた食器をさも当たり前かのように俺が片付ける。誰も手伝ってくれない。いいけどね。食器を洗い、キッチンを掃除していく。
リビングで話し声が聞こえた。
「睦月ちゃん、良い子だね」小春お姉さん……。
「私には勿体ないくらい。このまま付き合い続けることに良いのかなって思ったりもする」え。布巾を持つ手に力が入る。
「ここまで来て引くなよ」掃除する手が止まってしまう。
「だって、睦月さんは誰とでも上手くやれるタイプでしょ。交際相手が私である必要なんて……」あ?
もう聞いていられない。布巾をIHの上に置き、リビングへ行く。ソファに腰掛け話す如月の前に立った。
「何を言ってるの?」如月を睨む。
「あ……いや……ちょっと色々現実的になって……責任とかね……なんか不安に駆られたというか……」目を逸らされた。
「何? 別れたいの?」イライラ。
「違う……」
「まぁまぁ、睦月ちゃん。急に『結婚を前提に付き合ってます』って言われたら誰だって不安になるよ?」小春は睦月を見つめた。
「母さんも佐野家に来る話になったし……この先、パートナーになることを見据えたようなリアリティが……」如月は俯く。
如月もきちんとまだ向き合えていないのかな? そこを急かすのは違うな。今すぐどうこうなるつもりはないし、これ以上はやめよう。
「『今は』ただの恋人同士だよ。詰め寄ってごめんね。はい、この話終わり~~」如月の手を握り、笑いかける。やっと目が合った。
「ごめんね。ありがと」如月は顔を近づけ睦月の額にキスした。お姉さんの前で恥ずかしい。頬が少し染まる。
「あ…あぁああ!! 俺まだ掃除残ってるんで!!!」この場を逃げるようにキッチンへ向かい、掃除の続きを始める。
「見られると恥じて、燃えるのかな」如月は睦月の背中を見つめて呟いた。
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一通りの家事が終了し、如月のいる部屋へ向かう。俺のこと、来客で来ているのをみんな忘れているのではないかと思う。ドアノブに手をかけ、如月の部屋へ入る。
「お疲れさま」如月は読んでいる本を置き、とんとんとベッドを叩いた。
「ありがとう」隣に座り、肩に寄りかかる。はぁ、疲れた。
「ちょっとだけいちゃいちゃしよ?」如月に見つめられる。
「お風呂からあがったら……ん」頬を手で押され、唇が重なる。
唇が離れて、また重なる。如月の手が腰に回ってくる。顔を傾け、また唇を重ねる。腰へ回ってきた手に押され、抱え込まれるようにそのまま如月と一緒にベッドへ倒れ込んだ。
如月は妖しく微笑み、覆い被さった。
「お風呂が沸くまでだから……ん」またさっきのキスの続きが始まる。唇の隙間から舌が差し込まれる。
「……ん……はぁ……ん…ふ……ん…はぁっ…」
お互いの呼吸を合わせ、舌を奥深く触れ絡める。最近濃厚にキスしていない気がして、久しぶりの感覚に顔が熱くなる。ゆっくり、唇が離れた。まだ、風呂は沸かない。
「ちょっとだけ先に慣らしていい?」如月は指先にゴムをつけ始めた。
「なんで?」その様子を見つめる。
「慣らし時間の短縮かな」指先に付けたゴムの上からローションを付け、睦月の下着をずらした。
「なんでゴム……?」
そのドロっとした見た目がいやらしくて、あれが自分の中へ挿れられると想像すると下半身が疼く。お風呂へ入る前に、イッちゃったりしない? 体がおかしくなる前に、早くこの状況を止めて。
まだお風呂は沸かないーー。
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