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26話 涼しくないと燃えるものも燃えやしない!

 ーー次の日 「エアコンが付かない!!!!」  何度、冷房のボタンを押してもリビングのエアコンが一向に付かない。これではリビングで勉強が出来ない。部屋の窓が全て開けられている。窓からは熱風が入ってきて、暑い。汗が止まらない。  ーーエアコンはお年を召していたのに関わらず、如月が来たことにより、日中も早い段階でフル稼働させられて、限界が来たのであった!! 「お兄ちゃんエアコンが死んでる!!!」兄にリモコンを渡す。 「みたいだねー。古いし、壊れちゃったみたい。」睦月は黒いタンクトップ姿でうちわを扇ぎながらリモコンを受け取った。 「そんな楽観的な!!! 如月は?!?!」睦月は和室を指差した。  和室のエアコンは生きている。和室の襖を開けて、覗いて見ると、如月はエアコンの効いた部屋で黙々と執筆をしていた。うわぁ。ずる。私も和室で勉強したい。 「なんで急に壊れたの?!」兄を見つめる。 「分かんない~~まだイケると思ったんだけどなぁ~~はぁあつ~~」ぱたぱた。 「お兄ちゃん!! 今すぐ買い換えよう!!」このままじゃ生きていけない。 「いやぁ、金が。寝室のは生きてるし、なんとかなるでしょ」暑そうにうちわを扇ぎ続けている。 「ならん!!!!」  なんてけちくさ!!! せめて涼しくなる何かを食べたり、涼しくなるような何かしたり、この暑さ、乗り切りたい!!!  和室の襖を思いっきり開け、如月の元へ行く。  ーースパン!!! 「!! びっくりした……」目を大きく開け、こちらを見ている。 「今から納涼祭を行う、参加して」如月の手を引っ張る。 「絶対暑いでしょ」嫌そうに如月は立ち、和室から出た。 「あっつ!!! なにこの灼熱地獄!!! 暑すぎ!!! 無理!!!! しぬ!!!」如月は速攻和室へ戻った。 「戻るなし!!」如月の首根っこを掴み、引きずりながらリビングへ連れていく。 「やだぁ~~~~!!!」ずりずり。  立ち止まり、首の後ろを掴んでいる手を離し、如月の前へしゃがみこんで、話しかけた。 「お兄ちゃんがかき氷作るって」 「行く」アホだな。  如月は立ち上がり、リビングへ向かった。  * 「睦月さんが居ない!!!」リビングの机にはかき氷機とメモ紙が置かれていた。メモ紙を手に取って見る。 「『シロップなかった。買い物行ってくる。睦月』ぇえ……今から食べれる訳じゃないんですか……騙された」ポケットから扇子を取り出し、広げて扇ぐ。あつ。 「先にかき氷つくろうよ」卯月は冷凍庫から氷をボウルに入れ、リビングへ持ってきた。 「いいですね、そうしましょう」  フタをあけ、氷をかき氷機の中へ突っ込む。かき氷機に器をセットした。これであとはボタンを押すだけだ。これくらいなら私にも出来る。 「押すね~~!」卯月はボタンを押した。  細くてふわふわとしたかき氷があっという間に器へ積もった。美味しそう。もうひとつ作成し、卯月に渡して一緒に頂く。 「「いただききまぁ~~す」」しゃりしゃり。  「……………」 「……………」味がない。ただの氷だ。 「氷ですね」スプーンで掬い、口へ運ぶ。 「氷だね。もっと、こう、清涼感とか欲しい。暑いから」卯月はかき氷を食べながら、冷蔵庫へ向かった。 「これはどうだろうか?」睦月特製きゅうりの浅漬け。 「え? いや、それかき氷に乗せるつもりですか?」持っている器を咄嗟に後ろへ隠す。 「うん、素麺って、きゅうり乗せたり氷入れるんだから、逆にかき氷にきゅうりが乗っていても同じ原理。器よこせ」卯月は如月の腕を引っ張った。 「逆にとは?!?! どういう理屈!!! なんで!!!! イヤ!!! やめて!!! 自分のかき氷に乗せれば!!! 離して!!!」腕が引っ張られ、後ろに隠した器が前へ出る。  敢えなく、自分の器の上に乗せられる睦月特製きゅうりの浅漬け。睦月さんのきゅうりの浅漬けは美味しいけど、これはどうなの!!! 「早く食べろし」卯月を薄目で睨む。 「…………」躊躇いながら、口の中へきゅうりの浅漬けとかき氷を運ぶ。 「なんていうか、ただの冷たいきゅうり浅漬けです。私、思ったんですけど、納涼祭なので、卯月さんにはもっと清涼感を感じて、スースーして欲しいなぁって」  お菓子の入っている戸棚を開け、ミントタブレットを取り出す。 「とても冷たく感じると思いますよ。夏にピッタリですねぇ~~」笑顔で卯月の器にミントタブレットを振りかけた。 「そうだねっておぃいいぃいいぃい!!! 何してんだぁああぁあ!!!!」 「ラムネが入ってるアイスと同じ原理です。これも氷なので、ラムネが乗っていても同じである。早く食べてくださぁい」扇子で扇ぎながら優雅に煽る。 「一緒のワケあるかぁあぁぁあぁあ!!! んぐ」スプーンで掬い、無理やり口の中へ入れる。 「…………バリボリします。ミントタブレットを口に突っ込まれたのと同じ。氷が生かされてない。私はスースーを生かし、尚且つ氷が生かされる食べ方を思いついた!!!!」 「え? あ、ちょっ」卯月は如月の器を奪い、新たにかき氷機に氷を追加してかき氷を作り、脱衣所へ向かった。 「え? どこいくんですか?!?! 私の器返して!!!」  卯月を追いかけ、脱衣所へ行くと、卯月の手には歯磨き粉が握られていた。それをかき氷に? いやいやいや!!! スースーするけど!!! 清涼感あるけど!!! それは無理!!!!! 「それは違うと思います」歯磨き粉をかき氷にかける卯月を見つめる。 「チョコミント的な感覚と同じです。それにいつも食べてるじゃん」 「食べてはないです。使ってはいますけど」そっと、脱衣所のドアに手をかける。 「出来たよ、如月」満面の笑みで歯磨き粉かき氷を差し出される。 「要りません」満面の笑みで脱衣所のドアを閉めた。 「ちょっとぉおおぉおお!!! 開けてよ!!!! 暑い!!!」ガタガタガタ。絶対に開けない!! ドアを押さえつける。 「あるじゃないですかぁ、そこに清涼感のあるスースーするいい食べ物が」ガタガタガタ 「食えるかぁあぁあぁあ!!!」ガタガタガタ。力強! 「ぇえーーっ!! 自分食べれないのに!!! 私に食べさせようとするなんて残忍な!!!!!」すごいパワー! 押さえきれない!  バン  力負けした。10代恐るべし。 「ふはははははは!!! よくも閉じ込めたな!!! 如月ぃいぃいい!!! うーばー卯月でぇええぇす!!! お届けに参りましたぁあぁあぁあ!!!!」  卯月は溶けかけの歯磨き粉かき氷の器を片手で持ち、如月の顔に押し付けた。  びちゃ。イラ。  歯磨き粉が髪の毛にべたべたとまとわりつく。ミントの香りが漂う水滴が毛先を伝う。とても不快。こんのがきぃいいぃーーーー!!!!  キッチンへ向かい、冷凍庫にある全ての氷をかき氷機へ突っ込み、ボタンを押し新たに作る。出来たかき氷にハバネロ、鷹の爪、豆板醤をたっぷりかける。 「お客様~~お待たせしました~~!!! 如月弥生特製、夏の暑さを上回るハバネロかき氷でぇええぇえす!!!」器ごと卯月の顔に当てる。 「ーーっ辛ぁあぁぁあぁあ!!!! 水っ!!!! 如月みず!!!!!」 「水? お客さまぁ入ってますよぉ、その器の中に!!!」  卯月を後ろから抱きしめながら座り、ハバネロ氷の器を卯月の口元へ運ぶ。 「あ~~確かに…って違ぁあぁあぁあ!!! 流し込むなぁあぁあ!!! なんたる客への対応!!!! 辛ぁあぁぁあぁあ!!! 店長呼べぇぇええぇえ!!! 店長ぉおぉおぉ!!!!」卯月は口元を手で押さえた。 「何やってんの?」睦月が冷たい目で見てくる。 「あ、店長」卯月は睦月を見つめた。 「誰が店長だ……」 「店長、新作ハバネロかき氷です」にっこり笑いかけ、どろどろになったハバネロかき氷を睦月へ渡す。  睦月は辺りを見回した。かき氷でびしょびしょに濡れた床。謎に散らかった自分の作った浅漬け。そして赤く染まった床にへばり付く歯磨き粉。わなわなわな。怒りでハバネロ氷を持つ手が震える。しかし睦月は堪えた。 「これはキミの賄いだよ、ほら食べたまえ」睦月は全ての怒りをハバネロかき氷に込め、器を如月の顔に押し付けた。  佐野睦月論、全て如月がわるい。 「からぁあぁあぁああい!!! 睦月さぁあぁん!!! ひどぉおぉい!!!」辛さが目に染みて涙が出る。 「やっぱりお兄ちゃんは私の味方…」 「俺は片付けないから!!! ちゃんと片付けるまで店長のかき氷なし!!!!」睦月は布巾と雑巾を2人の頭に被せ、キッチンへ向かった。  致し方なく散らかした、かき氷を卯月と掃除する。ふきふき。  掃除が終わり、一度シャワーを浴びて、髪の毛についた歯磨きを落とす。よし、これで一旦全てリセット。着替えを済ませ、キッチンにいる睦月の元へ向かった。     睦月の後ろから何をしているのか覗き込む。苺を半分に切っている。様々なフルーツがある。これをかき氷に? 美味しそう。 「これをかき氷に乗せるのですか?」苺をひとつ、つまんで食べる。 「あ~~っ! 食べないでよ~~! 折角だから美味しいかき氷作ろうかなって」  いつものように肩へ顎を乗せようとしてやめた。ついでに抱きしめようとした手も引っ込める。そう、あることに気づく。ハバネロかき氷の時点で気づくべきだった。  Tシャツじゃない!!!! 肩むき出し!!! 黒タンクトップ~~?!?! 薄っす!!! 生地、薄っす!!! 謎ネックレスも今日は映え!! 黒が逆にえっち!!! 無自覚誘惑テロ!!! 「如月? ぎゅーしてくれないの?」振り返り、眉尻を下げ、上目遣いで訊いてくる。目線を逸らすと、胸元に目がいく。タンクトップが薄すぎて突起の位置が分かり頬が染まる。 「あ……いや…ただでさえ暑いのに…くっついたら余計に暑いかなって……」その甘えたような表情と色っぽい上半身に緊張して、余計、抱きしめられなくなる。 「まだぁ? 早く後ろからぎゅーして」  これはずるい。ドキドキしながら後ろから抱きしめ、顎を肩に乗せる。一枚しかない薄いタンクトップは、ほぼ素肌に近い。むらむらする。抱きしめている手を胸元でクロスさせる。 「っん……如月、だめ。俺今、包丁使ってる」  指先が少し突起に触れただけで反応する睦月さんは本当に可愛い。まぁでも危ない。我慢我慢。一旦離れよう。抱きしめている腕を離す。 「よし、出来た!! あとは適当にトッピングして食べよう!!」  睦月は冷凍庫を開けた。だが、冷凍庫に氷は1つも存在しなかったーー。

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