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30話 3人集まれば失敗はしない! 旭の告白。お前が諦めきれない?!

 ーー翌日  如月はずっと朝まで付き添ってくれて。如月に委ね、溺れた身体は凄く怠い。でもやっと帰れる。玄関扉の前まで来ると、如月がにこっと笑い、開けるのを促してきた。なんだろう。  ガチャ 「「退院おめでとうーー!!!」」  パンパンと爆ぜた音と共に、卯月と旭が玄関で出迎えてくれた。細長いキラキラとした紙が自分にかかる。 「ありがとう~~」素直に嬉しい。 「さ、中に入って~~ケーキもあるよ!!」玄関を上がり、リビングへ行く。  最初に目に入ってきたのはケーキではない。  汚部屋。  ぐちゃあ……。  うわぁ、すごい。短期間でよくこんなに汚く出来るな。ケーキどころではない。床に捨てられた洋服。これは如月だろう。脱いだら洗濯機へ入れろ。机の上は食べたら食べっぱなしのゴミ。この上でケーキを食べるというのか。おぞましい。片付けろよ。  キッチンを覗く。溜まりに溜まった食器や調理器具。ボウルにはベトベトと濡れた小麦粉みたいなものがついている。卵の殻が無造作に置かれていることに、また腹が立つ。  何これ? なんか作ったの? すごい洗い物の量なんだけど。何か作ったのなら洗えよ。洗うまでが料理だろ!!! そしてくさい!!! イライラ。  ゴミ捨ては行かなかったのか、出前などのゴミでいっぱいになった可燃ゴミの袋が溜まっている。 「お兄ちゃん退院パーティしよ~~」退院パーティどころではない!!! 「退院パーティは中止されました!!! 今から、大掃除を始める!!!」フライパンを取り出し、お玉で叩く。  カーーン!! 「ぇえ~~~~」1番汚したであろう|如月《本人》が1番怠そうな反応だ。 「如月は自分が放置した洗濯物を全て回収して、洗濯機へ!!! そして洗濯機回して!!!」毎日愛用しているエプロンをつけながら指示をする。 「はぁい……」如月は渋々一枚一枚拾い始めた。 「卯月は机の上を綺麗にして」可燃ゴミの袋と布巾を渡す。 「ちゃんと後でケーキ一緒に食べてよ?」卯月は口を尖らせながら、受け取った。 「もちろん。みんなで食べよう」卯月の頭を軽く撫で、和室を見に行く。  家を出たっきり、敷きっぱなしであろう、布団。もう!!! 布団くらい畳め!!! 天気良いし、シーツ洗って全部干しちゃお!!! 「旭~~ちょっと手伝って~~」布団からシーツを剥がしていく。1人じゃ3人分は大変だ。 「はーーい」  ぱたん。  襖が閉まる。 「なんで閉めたの?」襖を閉め、入ってきた旭を訝しむ。 「2人きりの方がいいからー?」旭は布団のそばに座り、シーツを剥がし始めた。  うーーん。気まずいと思っているのは俺だけなのかも。心なしか旭は嬉しそう。早く終わらせて部屋から出よう。  シーツを剥がすのも中々大変。寝てばっかりだったせいで身体は鈍り、シングルとはいえ、中々の重労働。布団からシーツを剥がして、一息つく。  ばふ。  顔だけ出て、白いシーツに身体が包まれた。 「あ~~さ~~ひ~~!!!」距離が近い!! 「むっちゃん雪ん子みたい」シーツでよく見えないが後ろから抱きしめられているのは間違いない。 「やめて旭!!!」シーツが邪魔で動けない……。 「可愛いよ? 雪ん子みたいで」そこじゃない!!! 「如月ぃ~~! 助けてーー!!」大きな声で如月を呼ぶが返事がない。 「弥生さんは卯月ちゃんとジュース買いに行きましたー」なんだそれ!!! 俺も行きたい!!  ってことは旭と2人きり!!! なんというデッドゾーン!!! 危険過ぎる!!! この前、何かあるのか如月にも関係性を疑われたばかり!! 誤解を招きたくない!!! 「もう何?! やめて?」旭の顔を見ると、神妙な面持ち。  何かあるのかな。急に大人しくなる旭に戸惑う。何か悩み事があるなら力になりたい。旭に声をかける。 「どうしたの?」 「好き……むっちゃんが好き」  まさかの告白。如月のことが好きだったのでは? その気持ちには答えられない。真剣な眼差しで話す旭に目線が下がる。 「俺……むっちゃんのこと諦めないから」 「いや……俺……如月と付き合ってるし……それに今後別れる気とかないし……なんていうか……」 『そんなの辛いだけじゃない?』『他の誰かを好きになった方が……』が言えない。誰を好きになろうと、個人の自由。前々から俺のことを好きだった旭に、そんなことを言うのはあまりにも酷い。続く言葉が見つからない。 「むっちゃんは優しいね。そんなんだからつけ込まれるんだよー?」こつん。頭と頭がぶつかる。 「……気持ちには答えられない……」旭の目が見れない。 「そんなの分かってる。それでも今はまだ、諦めきれない。俺を見て」ゆっくり視線を旭に向ける。俺を見る目が優しい。その眼差しにドキッとする。 「…………」  何を言っていいのか分からなくて、言葉が出ない。黙って見つめ合うのがまた気まずい。シーツの隙間から頭を撫でる手が優しくて、まるで好きだよと言われてるように感じた。 「むっちゃん、キスしよ」旭がニカッと歯を見せて笑った。同時に、抱きしめられていた腕が緩んだ。 「やだ!!!!」包まれたシーツを、脱出し、洗濯するシーツを全て回収する。 「むっちゃんのけちー減るもんじゃないのにー」旭は立ち上がると襖を開け、シーツを取った布団を持ち上げてベランダへ向かった。 「減る!!! 如月からの愛が!!!」  シーツをまとめて抱え、脱衣所へ行く。 「全く……もう……変に意識するわ……はぁ……」  脱衣所で洗濯機の中身をカゴへ取り出し、シーツを選択機に突っ込む。洗濯機に手をつき、ため息を吐くと、肩に顎が乗った。 「……意識するって? 誰を?」肩に乗った如月を見る。目を細め、ムスッとしている。  旭が俺に好意をまだ持っていることは話すべき? 隠したところで、旭は積極的にボディタッチしてくる。いつかはきっと分かること。いっそ、打ち明けてしまった方がいいのかもしれない。 「……旭。まだ俺のこと好きだって」 「そんな見れば誰でも分かることに今気づいたんですか? ばかじゃないの」呆れたような、ため息が耳元で聞こえ、腰に腕が回り抱きしめられた。 「……気付かなかった」 「それで意識してるの?」  耳元で感じる吐息、身体が密着しながら、絡みつく腰回りの腕。如月に触れられると、旭と比べものにならないくらい、鼓動が早くなる。  洗剤を洗濯機へ入れ、スイッチを押す。ガタガタと音を立て回り始めた。 「如月の方が一緒に居てどきどきする」 「そんなことばっかり言って。浮気したら許しませんよ」耳を甘噛みされ、少しの唾液音に頬が染まる。 「別れるって言わないの?……前、他の人とえっちしたら別れるって言ってた」じぃ。如月を見つめる。 「言わない。そう簡単には許さないけど。それ以上に失いたくない。何? 旭さんとえっちしたいんですか?」如月の目の色が冷たくなる。 「そんな訳ないでしょ。如月、最近やきもち妬きじゃない?」  やきもちを妬かせるくらい、如月を不安にさせているということ。自分の行動を改めなければ。でもやきもちは、如月からの強い愛情の裏返しでもある。ある程度の天邪鬼な言動は怒らないで、受け入れる。 「……如月、キスしよ」如月の方へ体を向け、頬に触れる。 「してもいいけど、今から洗濯物を干すんじゃないんですか?」如月は足元の洗濯カゴを指差した。 「あれ? そんなこと気にするタイプだっけ?」  如月の顔を引き寄せ、口付けする。柔らかく、少し湿った唇の感触に体の内側が少し熱くなる。 「ん……」 「……ん……睦月さん、洗濯物干して、ケーキ食べないと」すごい洗濯物推す!! 「……雰囲気!!!」如月の頬を少しつねる。 「いたぁい~~だって卯月さん頑張ってケーキ用意したからぁ~~」如月は洗濯カゴを持ち、脱衣所を出た。 「え、用意したって?」なんだか嫌な予感がする。 「え? 一緒に作ったんです。ケーキ」 「…………そうか」睦月の目は白く濁った。  そう言えばまだあのきちゃないキッチン、片付けてないや……。  *  ーー遡るほど1日前。  睦月が入院中、卯月、如月、旭で帰った日、3人で佐野家へ帰り、退院お祝い用のケーキを作ることにした。 「材料は買った!! さぁ作ろう!!!」スマホを見ながら、ケーキを作る準備を始める。 「今日作って、明日食べれるんですか」如月は丸いスポンジケーキを手に取り、見つめた。 「え? 食べれるんじゃない? 冷蔵庫に入れておけば」 「なるほど」如月はボウルを取り出し、台所の上に置いた。 「卵を卵黄と卵白にどうやって分けるの?」如月に訊く。 「いや……私に訊かれても」如月が目を逸らすので、旭を見た。 「カパってやって、こう、片方の殻に黄身を入れて、とぅるんって」言ってる意味が分からない。 「ネット? とかに卵を割って分別すればよくないですか? 黄身だけ残って白身だけ落ちる的な。知らんけど」 「ネットって何……」旭は顔を顰め、卵を手に取り、打ちつけた。  コンコン 「こうやるんだって~~」旭はドヤ顔で卵を半分に割った。  とぅるん。  卵は黄身と白身に分かれることなくボウルへ落ちた。 「卵、ボウルに落ちましたけど」白い目で旭をみる。 「あっれ~~おかしいなー」旭は頭を掻き、卵の殻を流しへ捨てた。 「そもそも分ける必要あるの?」如月と旭に訊く。 「…………」 「…………泡が立つならいいのでは?(知らんけど)」如月は泡立て器を取り出し、卯月へ渡した。 「メレンゲを作ります!!」砂糖をボウルに入れ、泡立て器でこしを切るようにかき混ぜる。  がしゃがしゃすること30分。 「……さっきと変わらん!!!!!!! いや変わったけど!!! 卵の原型はなくなった!!! 誰もこれが元は卵とは分からぬだろう!!!」がしゃがしゃ。 「いや、分かるでしょ……」 「……やっぱり卵白と分ける必要があったんじゃねーもうこれ失敗でしょー」  旭は呆れて、戸棚からホットケーキミックスを取り出し、飲料用のココアスティックと一緒に卵白の入ったボウルへ入れ混ぜ合わせた。

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