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誕生日会

 テーブルの上には、京介の好きな唐揚げとその他料理とワインが置かれている。  今日は京介の誕生日会ということで、少し前に京介母の眞知子さんに教わったやり方で、てつやが1人で作った唐揚げがメイン。  唐揚げのお皿は二つあって、量が多いのではなく一つのお皿は真っ黒い塊が5つ乗っていて、もう一つはそこそこ綺麗な色で揚がっているやつが盛られていた。 「失敗しちった」  申し訳なさそうに笑うてつやは、こっちは自分で食べるからと引き寄せるが、京介は一緒に食おう、と自分の取り皿に2.3こ取ってしまう。 「いいって〜お前はこっちの取り敢えず美味そうにできたやつ食えよ〜。主役なんだから」  他は惣菜のサラダとか、発注した唐揚げ抜きのオードブルセットとかが並んでいて、意外にも豪華な誕生日料理だ。 「失敗作もお前の手作りだろ?取り敢えず食わせて」  と京介は、てつやの前のグラスにワインを注いでやる。 「お〜い〜、それも俺の仕事〜。お前先にやりすぎ!」  もう!と瓶を渡してもらって、京介のグラスに赤ワインを注いだ。  6月18日は京介の誕生日だ。  ド平日だったために、前倒しで15日の土曜日に「お誕生会」をすることになり、てつやは午後から買い出しなどで忙しそうに動き回っていた。  まあ一緒には出かけていたが、家の中では1人キッチンに籠り(オープンだけど)、眞知子さんに教わった時のメモを見ながら何やら始め、その間京介はその姿に微笑みながら部屋の片付けなどをやっていた。 「乾杯」  グラスが鳴って、ワインを一気に飲み干す。 「くぅ〜、効くね。俺最初の一杯がワインって初めてかも」  てつやがグラスを置いて、でも美味え、と手酌で注いだ。 「あまり初手がワインってないよな。俺らには」  京介がグラスを置くと、今度はすかさずてつやが注ぐ。 「誕生日おめでとうな〜。これ、使って」  どこから出したのか、大きなショッパーを取り出してテーブルの脇から京介へと誕生日プレゼント、と笑って手渡した。 「うわ、でかいな。なに?」 「会社用のコート。お前私服はこだわるくせに、会社用はスーツ以外こだわってないだろ。クリーニングから返ったのみたら結構くたびれてたからさ」  時期的に6月の今では買えない冬物で、ずっと前から準備していたのだろうことが伺える。 「まあ、今じゃないけどな。冬に着てくれ」  どことなく照れて、てつやは京介のお皿に綺麗にできた方の唐揚げを乗せた。 「食ってみてくれよ。味見はしてない」 「マジで?おっかね」  コートに感動していた京介は、そんな言葉に笑って一口齧ってみた。 「美味い。お前ほんとに初めて1人で作ったのか?美味いよ」  残りを口に放り込んで、美味しそうに咀嚼する京介に満足して自分も一個齧ってみる。 「え、しょっぱくね?うわ、しょっぺえ!それに硬い…」  多分眞知子さんに教わった漬け方で少し長く漬け過ぎた様だ。 「美味くねえだろこれ…」  やらかした顔で箸で摘んだ唐揚げを見つめながら、唐揚げ越しに京介をみると、京介は美味しそうに2個目を摘んで 「お前が作ったからだとかは言わねえけど、俺、歯応えあるの好きだし、味も濃いめ好きなの知ってるじゃん」  と、美味しそうに2個目も頬張った。 「お前がいいならいいけどさ…」  まあ、ご飯と食べれば中和されて美味しい感じではある。 「とりあえず眞知子さんに報告しとこ、写真撮るべ」  京介の隣に移動して、スマホで撮ろうとすると京介がほっぺにキスをしてきた。 「お前ね、理解あるご家族だとしたってだな、そんな写真送られたら嫌だと思うぞ」  不意打ちに戸惑って、京介から身を離すと肩を引っ張られべろちゅーされてしまう。 「だから!」  離れた隙に、京介が一枚。 「そんなん送れないからな。いいから唐揚げもって俺のスマホ見ろ」  全く!とスマホを構え直してカメラに向かい一枚。  キャプションは『ちょっとしょっぱくなりました』 「言わなきゃわかんねえのに」  京介に言われて、それもそうだなと自分の場所に戻る。 「まあ、食えなくはない程度にはできたんで、いいとしよう」  どんどん空くグラスにワインを注ぎ、次はビールだなんだとお酒が進んだ後はケーキはシャンパンでということで簡単にテーブルを片付け、ケーキ用の皿とフォークを用意した。 「チョコプレートにさ『お誕生日おめでとう。きょうすけくん』って書いてもらおうと思ったけど、言うのが恥ずかしくてできんかったわ」  切り分けながらそう言うてつやに、ーその恥じらいは大事にしてくれーと真剣に見つめて、京介は切り分けられたケーキを受け取る。 「まあ、大台に乗る時とかは洒落でやってやるわ」  自分用にケーキを取り分けて、てつやが『乾杯』とシャンパンを掲げると 「是非やめて」  と変な日本語で京介は返した。 「27歳か…結構歳食ったな俺らも」  6当分に分けたケーキを3口で終わらせたてつやが、おかわりをしながらしみじみと言ってくる。 「まあなぁ…26のお前もケーキ食うの早過ぎだけど、27になった俺も変わんねえか」  と、おかわりを自分で持って笑う。 「まっさんなんかとっくに27だけど、あんま変わんねえよなー」 「1歳増えた途端に早々変わるもんじゃねえだろ」  主役の特権でイチゴを2個もらった京介は、その一個を食べて酸っぱい…と顔を歪めた。 「あいつら上手くやってんのかね」 ーケーキの苺はわざと酸っぱいの選んでるって聞いたぞーと、また一つ京介のさらに苺をのせる。ー俺酸っぱいの苦手なんでー 「まっさんと柾哉?」 ーふざけんなーと苺をてつやの皿に戻して、京介は残りのイチゴを口に入れる。 「うん」  今年の2月に、晴れてカップルになった親友のことを、2人は結構気にしている。 「もうヤッたかな…」〈『好きの気持ち』参照〉  心配の元は、まっさんの溜まった性欲の捌け口で、そう言う言い方はお相手にも失礼なので言わないが、図らずも相手が男性になってしまった手前その発散がうまく行っているのかと言うのは心配になるところ。 「見当もつかないんだよな〜」  シャンパンを飲みながら京介も思案顔。ノンケのまっさんに男に手練れの柾哉〈受〉だ。色々想像はつくのだが、実際に…と考えるとあまり現実味を帯びない。 「ん〜〜」  2人は同時に唸ってしまい、おかしくて吹き出した。 「まあ、2人に任せるしかないけどな」  結局はそこなんだと収まるのだが、この話も2人の間で何回も論じられている。 「でもあれだな、柾哉がやってた仕事のこと黙ってるとさ、丈瑠とか稜と一緒に会えないんだよな〜不便だわ」  何かっていうと割と集まっている昔の同僚たちだが、柾哉も同じ店にいたというのはまっさんに内緒になっているから、丈瑠たちと柾哉が知り合いなのはまっさんには言えないのである。 「やっぱ嘘っていうか言わないでいるのは難しいかもなぁ…」  京介もその事には結構頭を悩ませていて、『嘘』ではないにしろ隠し事を仲間にしているのは少し後ろめたいのだ。 「まあ俺みたいに店だけやってたって言えたらいいけどな。そうすればまあ…隠し事はなくなるけど」 「それまで黙ってたことをまっさんが気にしなければだけどな。黙ってたということは…ってなんねえかな」  話しながらケーキはどんどん減ってゆく。 「ま、その辺はまっさんの寛大な心に賭けるしかないんだけどな」  結果論でしかないから。  そんな話をしながらも、話はマンションの話になってゆく。 「そういや昨日建設現場行ってきたけどさ、アパート跡形もなくて残骸も無くなってたわ」  少し寂しそうにいうてつやに目だけを送って、先を促す。 「まあ、壊す時はばあちゃんと立ち会ったけど、結構早く後片付けされて少し寝かされてるみたいだな。土地が。現場の人に聞いたら、8月頃から基礎工事始まるらしい。その前に地鎮祭か」  自分たちが小学生の頃から通った『イノウエ』の駄菓子屋、高校一年から住んだイノウエの上のアパート。てつやには思い出がありすぎる。 「ばあちゃんが割り切ってんだから、お前もそろそろ切り替えろな。気持ちはわかるけど」 「いや、切り替わってはいるんだけどな。あそこが更地になったのを見ると、やっぱ思うとこはあったわ」  へへっと笑って、ケーキを放り込む。 「まあな。俺も中学からだけど行ってたしな」 「うんうん。あそこがまさか自分の持ち物になるなんてその頃思いもしなかったけど、そこもなんか変な感じでさ」  最後のピースずつを取り分けて、シャンパンと共に再びケーキにフォークを刺した。 「だろうな。あ、そうだ話ちょっと変わるけどさ、話があったんだった」 「ん?」  京介が立ち上がって自分の部屋から何かを持ち出してきて 「これさ、使って欲しいんだ」  京介が持ってきたのは通帳で、それをてつやの前に置く。

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