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大切な彼女2
宮子に会えたのはサーバーダウンした日から半年が経とうとしていた頃である。宮子の会社と共同で行っていた事業が大波に乗ったため飲み会が開かれることになり、最初に商談を成功させた裕司は参加必須であり、飲み会の当日に宮子と会うこととなった。相手側の参加メンバーを知らなかった裕司は、端の席に座る宮子を見た瞬間舞い上がる。そっと傍により、お久しぶりですと声をかけると宮子は驚いた顔をして相良さん!お久しぶりです!と笑いかけてくれた。久しぶりに見た宮子は相変わらず美しいが、少し疲れているように見える。
『なんか、疲れてます?大丈夫ですか?』
『…すみません、こういう場って少し苦手で』
目を移すと宮子の前には烏龍茶が置かれていた。酒は苦手なようだった。それに宴会も苦手らしい。
隣いいですかと聞けば、どうぞ、と言ってもらったためそのまま座る。
『いつもトークアプリで話してるので久しぶりって感じしませんね』
『ふふ、ほんとですね』
朗らかに笑う彼女に、久しぶりに会うせいか、その美しさに目が釘付けになる。栗毛色の髪は艶やかに波打っていて、小さな口に赤いリップ、少し大きい手が特徴的だが、誰がどう見ても美人だ。
普段トークアプリで話すように他愛のない話をしていると、酔った男が間に入ってきた。彼は宮子の会社の人間らしく、宮子に肩をもたれさせてはわざとらしく「おっとっと」などと言う。上司なのか、宮子は逆らえない様子だった。そのような行為の度が過ぎてきて、さすがにやめさせようと口を出したところ、男は裕司をなんだお前と睨んできた。
『お前…ああそうか、お前、安倍に惚れてんだなぁ?そうかそうか、じゃあこれ知ってるかぁ』
男が何かを言おうと口を開いた瞬間、宮子が立ち上がりやめてくださいと大声を出した。その声に周りは驚き、何事かとこちらを見てくる。宮子は自分のしてしまったことに自分自身でも驚いたようで、すみませんと言うとそくささと居酒屋を出て行ってしまった。裕司もすぐにそれを追いかけると、入り口の前で座り込む彼女を見つける。駆け寄って安否を確かめると、宮子が顔を上げた。
『大声出して、すみません』
『大丈夫ですよ。僕も、すぐに助け船だせなくてすみません』
『相良さんは悪くないです』
悪いのは自分です、と俯く彼女。どう声をかけようかと悩んでいると、店の中から女性が1人出てきた。彼女は裕司と同じように宮子に駆け寄ると、大丈夫?あいつほんとくそだねと宮子を庇う発言をする。その後の2人から察するに、さっき宮子にもたれかかっていた男は真島といい、2人の上司らしい。当の本人は今さっき出てきた女性ー紗枝ーの先輩に今怒られているらしい。宮子は紗枝の存在に安心したのか彼女の手を握りしめありがとうありがとうと感謝を述べている。
自分の出番はなさそうだし戻ろうかな、と思い立ち上がると紗枝が引き留めてきた。
『みや…宮子を追いかけてきてくれてありがとうございました。』
『いえ、逆に僕の存在が火に油を注いだようなものでしたから…』
『でも庇おうともしてくれましたよね。この子あんまり強く言えない方なので』
この時裕司は初めて宮子の下の名前を知った。
宮子は気まずそうに立ち上がると戻ると言った。
『もう帰りなよ。先輩も帰っていいって言ってたよ』
『え、でも、謝らないと』
『いいから!明日でいいよ!』
紗枝は宮子の背中を押して通路に押し出そうとする。しかし途中でくるっと振り返り、すみませんが送ってくれませんかと裕司に言った。
『え、僕ですか?!』
『タクシー代は預かってるので。男性がいると安心ですし…お願いします』
ぺこりと頭を下げられてしまうと何も言えなくなってしまう。頷けばありがとうございます!と紗枝礼を言い、宮子にポケットから出した万札を押し付けた。今度は裕司側に宮子が押されてくる。宮子はえ、だか、ちょっだか声を出しながら裕司に押し付けられた。ふわりと香る、宮子のにおい。紗枝はお願いしますと再度言い、店に入って行った。残された裕司は抱きとめる形になってしまった宮子をとりあえずそっと離し、帰りましょうかと言った。
この一件から、宮子とは急激に距離が近づくことになる。食事に誘われたり、誘ったり、どこかに遊びに行くこともあった。そのうちに裕司は本気で宮子を好きになり、告白することになる。
そうして2年。裕司は宮子に触れないでいた。そして冒頭のパソコンを眺める裕司の姿に戻るのである。
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