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第6話 「にげる」ボタンを押しすぎて壊れた

 ローションを纏わせた指が、ぬるりと入り込んでくる。指が太いためか、一本でも結構な圧迫感を感じた。 「はっ、あ! う、やめ。うごかさな、いで」  制止も虚しく、芋虫のように蠢く指が徐々に奥に進んでいく。 「ああ、ああ、ああ……」 「痛くないか?」 「う、う。い、たくは、ない」 「そうか。もっと力抜け。力んでいたら痛い思いをするだけだぞ」  それは嫌だ。痛い思いをしたくなくてなんとか力を抜こうとするも、強張った身体は言うことを聞かない。  不慣れな童貞を哀れに思ったのか、やわらかな内側をほぐすように指を回しだした。 「んん……」  不快な異物感が凄まじく、身を捩る。けれど片腕にしっかりと腰を支えられていては、彼の指から逃げることも出来ない。 「んあっ?」  伸一郎の指が、とある一点を擦る。乳首を吸われた時の比ではない衝撃が駆け抜け、背中を大きくのけ反らせた。 「ッ! いやだ。そこ、いや!」 「ん? ああ。ここがお前の気持ちいいところか」  指を曲げ、くりくりとそこを擦られる。 「ああっ、ひゃああ!」  その度に、びくんびくんと身体が面白いように跳ねた。 「やめて! ひゃめてぇ。ばかっ、いや、だ。ああっン」  ろれつが回らなくなる。 「藤行お前。胸ではそんなに感じないのに、ナカはえらく感度良いな」 「ああ、ああっ」  チカチカと視界が白く光る。クーラーも入っていない部屋の中。一気に汗が吹き出し、ソファーに落ちる。 「あつい……あついぃ……」 「クーラーのリモコン見つかんねえわ」  腰を掴んでいた手を離し、伸一郎が腕を伸ばして扇風機のスイッチを入れる。そよそよと、やる気のない風が身体を滑っていく。無いよりマシだが、まったく涼しくない。  伸一郎が耳に唇を寄せてくる。 「なんか飲む?」  今? 「のみ、たい……」  正直早く終わらせてほしかったが、脱水症状にはなりたくない。太い指が引き抜かれる。 「んぐ……」 「なんか飲み物あったかな?」  ぱたっとソファーに倒れる藤行を見もせず、旅館などで見かける小型冷蔵庫を開けている。いかにもこういったことに慣れています、といった伸一郎の顔がムカついてしょうがない。  眉根を寄せ、目を向ける。 「伸、一郎、さん」 「ああ?」 「彼女とか、いるの?」  整った顔がこちらを向く。 「いや? 特定の相手は作らねぇ。めんどくせえし」 「……モテるの?」 「ああ。だからお前も俺に惚れたりするなよ? だるいんだよ。一回抱いただけで彼女彼氏ツラされるの」  足で冷蔵庫の扉を閉め、ペットボトルを二本持ってくる。 「緑茶とほうじ茶、どっちにする?」 「ポカリ下さい……」 「茶しかねえっつってんだろ」  ほうじ茶を放り投げられる。 「……俺、ほうじ茶飲めない」 「……」  かちっと緑茶の蓋を開け、藤行に差し出す。 「少しずつ飲めよ?」 「……。伸一郎さん。ちょいちょい優しいのなんなの?」 「虐めてほしいならそうするが、お前初めてなんだろ?」  そろそろと縛られたままの腕を伸ばし、ペットボトルを受け取る。幸いにもしっかりと冷えていた。うつぶせのままちまちまと飲んでいく。 「おいしい……」 「良かったな。そのまま飲んでろ。挿れるから」  吹き出すかと思った。 「も! もうやめない? 疲れてきたし」 「お前がアニメ三十分も見てるからだろうが」  逃がすまいと抱きしめられ、閉じてきた尻の穴に再び指が押し入れられる。 「うっ!」  粘度の高い水音が響き、身体を震わせて耐える藤行の穴を念入りにほぐしていく。 「あ、あ……もうやめてぇ……」 「ほぐしきれてないのに挿れたら辛いのはお前だぞ。もうちょい我慢しろ。童貞」  ぺちっと尻を叩かれる。ナカに異物が入っている状態で叩かれ、イイところに当たってしまう。 「んあっ」 「そうそう。お前はここが気持ちいいんだったな」  先ほどの、身体が燃えるように熱くなる箇所をぐいっと押され、視界が白に染まる。 「ん! ……そこ、やだぁ……。あつい、変になる……って」 「お前はもう変だから気にすんな」 「はあ……は、あ、ああ」  内壁をほぐしていた指が引き抜かれ、不快感が消える。  終わったのかと安堵のため息をもらした藤行だが、両手で尻を左右に開かれそれどころではなくなる。 「えっ? あ、えっ⁉」  穴の入り口に熱の塊を感じ、どうしても逃げ腰になった。当たってる。伸一郎の凶器が。尻に。  いよいよやってきたその時に、きれいだと褒められた顔が音を立てて青ざめていく。 「あ、ああ、あぁ……」  だが、逃げられるはずもなく。しっかりと尻を掴んでいる彼は躊躇いもせずに腰を引き寄せ、灼熱の杭で貫いてきた。 「う、あああぁ―――」  瞳から涙がこぼれる。許容できない衝撃に眼球が落ちそうなほど目を見開き、激しく身体を震わせる。  苦しいや息が詰まるどころではなく、意識が飛びそうだ。ぎゅっと力が入り、ソレを締め付けてしまう。  伸一郎は鬱陶しそうに片目を閉じかける。 「キッツ……。全部は挿いらねえな」  限界まで穴は広がるが、ソレを途中までしか包み込めず突っかかる。 「―――」  動かれるたびに声にならない悲鳴を上げる。痛みか何なのか分からない火花に、汗と涙と涎でぐちゃぐちゃになる。 「ああああッ! っめて。やめ、てええ!」 「……」  惨めだと思ったのか、前に手を伸ばし痛みで委縮してしまったソレを握ってくる。 「―――っ。――ぁあ、あ……」  先端を擦られ、快楽の痺れが激痛をわずかに中和していく。 「あ……ぁ……」  はくはくと口を開け閉めする。 「しっかり呼吸しろよ」  伸一郎が何か言うが、脳が理解しなかった。そんな余裕がなかったのだ。  指先で責め立てられ、快感が湧き上がっているのに藤行はどこか他人事のように感じていた。甘声を上げる自分をどこか冷めた目で見つめる。 「あ、はっ、あ、ぁ……」  固く張りつめたソレが吐精に向けて脈打つ。 「イキそうか?」 「……っ」  返事することなどできないのでこくこくと頷く。背後で笑い声がした。  何度かしごかれて、待ちわびた快感に脳天から震える。 「んっ、はぁ……!」 「藤行」  背後から優しく抱きしめられるが、二度目の精を解き放った藤行は意識を失っていた。 

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