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第1話
一切の光がささない闇に包まれて、スマホをとりだしたくなるも耐えて息を殺す。
洞窟内、入り口からつづく本道のような長い穴があり、その横穴に身を潜めてどれくらい経ったか。
本道の穴が仄かに照らされ、人の足音と息づかいが聞こえるように。
岩を隔ててしずしずと人の列が通りすぎていき、また真っ暗になるも、しばらくしてきた道をもどっていった。
明かりと足音と気配が消えてから、岩から顔を覗かせてあたりをうかがい、本道の穴へとでて奥へとすすむ。
そのうち天井が高く広々とした空間に踏みこみ、行燈の明かりが揺れるなか、中央でござの上に正座する白無垢の彼女に「クルミ!」と接近。
ふりかえったクルミは涙で化粧を剥がしながら「ウラくん!」とすがってきたから抱擁を。
その温もりに触れて胸を撫でおろすも、すぐに引きはなし「急いで!俺と着ているものを交換だ!」と脱ぎながら急かす。
俺は白無垢、彼女はぶかぶかの男物の服に着替えて、あらためて見つめあったなら「ウラくんは、だいじょうぶなの?」と心配そうに。
「神城屋の思惑や目的は分からないけど、生け贄が男だと知ったら抱きようがないしあきらめてくれるだろう。
そりゃあ、めちゃくちゃ叱られるだろうし、村では肩身が狭くなるだろうとはいえ、どうせ駆け落ちをするんだ」
「抜け穴の近くの通りに車があるから。町のホテルで待っていて、なるべくはやく合流する」と口づけをすると、彼女は涙目で名残惜しそうな顔をしつつ、本道の穴へと走っていった。
その背中が闇に消えてから、あらためてあたりを見回すと、行燈に照らされる奥に棺桶のような木の箱が。
「儀式に使われるのか?」と訝しげに見ながら、これまでの経緯をふりかえり、つかの間、物思いにふける。
俺が住むのは村なれど、今の時代にあって過疎化を免れ、なんなら輝かしい発展と繁栄を。
それを支えているのが、かけがえのない貴重な鉱石。
奈良時代のころから採掘され、昔は装飾品として、今はIT機器を製造するのに欠かせない素材として高価格でとりひきされている。
鉱石の採掘、加工販売を一手に担うのは、老舗の神城屋。
独占的に鉱石を扱っているとはいえ、莫大な利益を惜しみなく村のために費やし、おかげでインフラが整えられ、交通の便がいいし、生活がしやすいし、運輸の拠点になっているし、大型スーパーや全国チェーン展開する有名店が誘致され軒を並べて、遊園地や映画館を含む商業施設などの遊び場も盛りだくさん、おかげで就職先にも困らない。
昔から、そうして神城屋が村を栄えさせてきたから、地元民の多くは子孫代々、住みつづけ、移り住んでくる人も多く、人口は増えるばかり。
過疎化の危機と無縁でいられるのは神城様様とあり、地元民も移住民も彼ら一族をありたがって尊敬し、また彼らが祀る神を崇めた。
いくら掘っても枯渇しないような鉱石を、その神がもたらしたとのいいつたえがあるからだ。
昔々、オオミカミの怒りを買い、出産を司るという神が地上へと堕とされた。
肉体をなくし、霞のような魂となって山奥をさ迷っていたところ子供と遭遇。
近くの村から山菜をとりにきていた子供で、思わず神はその子に憑依。
天界にいたころから人間の営みに興味があったのと肉体ほしさに体を乗っとり、その意識の主体は神となって子供の魂は深い眠りに。
村にもどると、子供の一生を奪うことになったのを詫び、この肉体が滅べば、また村の子に憑依させてほしいと頼みこみ、見返りに金の鉱脈のような鉱石の採掘場を与えると提案。
了承した村では、宿主が死ねば、村の子供が一人選ばれて新たに魂が宿されるという形で、奈良時代から神は生きつづけ、今も俺たちにまぎれて生きているという。
ちなみに神としての記憶があったのは初めて子供に憑依したときだけ。
以降は宿主を代えるたびに記憶がリセットされ、新たに宿った子供の記憶を引き継いでふつうの人間として生きるので本人は自覚がないし、俺たちにもだれが神の入れ物なのか分からないのだとか。
知っているのは選ばれし子供の家族、儀式をする神城屋の人間だけ。
まあ、あくまでいいつたえだから現代において丸々、信じられないが、それでも俺らは幼いころから「こいつが宿主かもしれない」となんとなく思い、お互いを尊重しあって生きてきたわけだ。
宿主の死によって儀式は執り行われるが、年に一回の祭りで、それを模した神楽を舞う。
村に代々住む子供が一人選ばれ、新たな宿主として紹介されて身を清めてから神々しく優雅に踊るのが名物。
が、そうした「神は子供に宿る」とのいいつたえは表むきであり、裏の面というか、真の宿主の交代は現代社会らしからず、血も涙もない惨たらしいもの。
そのことを恋人にふりかかった災いによって思い知らされたもので。
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