11 / 44

第40話 創世の惟神クイナ

 ケーキを食べてひとしきり楽しんだあとは、地図を広げての授業になった。  瑞穂国を知らない蒼愛へ、神様たちが色々教えてくれるらしい。  淤加美が広げてくれた地図は紅優が見せてくれたものより大きく、古いように感じた。 「まずは瑞穂国の地形について教えよう。この国の地図を見るのは、初めてかい?」 「月詠見様と日美子様の宮に行く前に、紅優が見せてくれて、説明してくれました」  大雑把な国の全体図と、神様の宮の場所は聞いた。  明るくて広い町や城がある場所の上空に日ノ宮があったり、暗がりの上に暗ノ宮があったりと、神々の宮の下の大地には、それぞれの属性に近い自然が広がる。  淤加美の水ノ宮の下には巨大な湖と大きな滝がある。 「ならば、臍の場所も聞いたかい?」  淤加美に問われて、蒼愛は地図の中央付近の小さな社を指さした。 「このお社の中に臍があって、そこに紅優の左目があるって。色彩の宝石の代わりに均衡を保っていると黒曜様に聞きました」  社は国のほぼ中央、暗がりの平野寄りに建っている。  臍と言っても真ん中じゃないんだなと思った。 「瑞穂国の全体図はちゃんと理解できていそうだね。じゃぁ、均衡を守る役割が、具体的にどういうものかは、聞いている?」  首を傾げる蒼愛に、淤加美の目が紅優に向いた。 「本当に話していなかったんだね」 「すみません。話すタイミングがなくて」  言われてみれば、霊元が開いてから紅優と番になったり色彩の宝石の話があったりと盛りだくさんで、紅優の役割まで話が至らなかった。 「僕が知らないことばかりで、他の話を説明してもらっていたから、聞けませんできた。ごめんなさい」  ぺこりと頭を下げる。  上がった頭を淤加美に撫でられた。 「蒼愛にとっては初めての経験ばかりだ。現世とは勝手も違うだろう。知らねばならない事柄ばかりだから、仕方がないね」  蒼愛の場合、理研で過ごした生活が現世の総てだ。  きっと普通の現世とは違うのだろうと思う。  初めて知るという意味では、幽世も現世も蒼愛にとって大差ない。 「つまりは、この国が壊れないように維持する役割だよ。結界を張って外部の衝撃から守ったり、現世に近付き過ぎて飲まれないように維持する」 「飲まれちゃうんですか? 瑞穂国が?」  月詠見の説明はわかりやすかったが、ちょっと物騒だと思った。  日美子が付け加えて説明してくれた。 「瑞穂国は現世の人間が作った幽世だ。他の幽世より存在自体が現世に近いんだ。規模も小さいから、飲まれたら現世の一部になって消滅しちまうのさ」  消滅というのは、穏やかでない。  今の蒼愛にとっては、瑞穂国がなくなってしまうのは困る。  紅優や黒曜、優しい神様たちが生きる国だ。 (ここは僕が生きられる場所。僕と、僕の大事な皆が生きる場所を、僕が守る。そういうことなんだ)  じんわりとした使命感が、蒼愛の胸の内に広がった。 「臍はね、この国の(かなめ)。この幽世に備わっている力を国内に放出する場所だ。色彩の宝石は、幽世の力を全体に満遍なく行き渡らせるために必要な鍵であり、幽世の持つ潜在的な力を増幅する役割も担っている。その代わりをしてくれているのが、紅優の左目だ」  淤加美の説明を聞きながら、蒼愛は紅優の左目を眺めた。  普段は幻術で赤い双眼を補っている。だが本当は紅優の左の眼窩に眼球はない。  暗い空洞が広がる左目を見ていると、何故か悲しい気持ちになる。 「もう千年も、紅優の左目は、紅優の中にはないんだね。この国を守っているんだね」  紅優の左の目尻に触れる。  蒼愛の手に紅優が手を重ねた。 「千年ていうと長く感じるけど、只そうやって生きてきた。俺にとっては、それだけかな。妖怪にとって千年は、特別に長い時間でもないからね」  妖怪にとって長い時間ではなくても、紅優にとってはどうだったのだろうと思った。  月詠見や淤加美に人間に感覚が近いと指摘される紅優にとって千年は、本当に長くなかったんだろうか。 「蒼愛が色彩の宝石を作り出せれば、二人で守れるよ。これからは二人で生きられるんだ」  紅優に微笑まれて、蒼愛は頷いた。 「どんなに長い時間でも、これからは二人で生きられるね。二人で幸せを探せるね」  紅優が蒼愛の髪に口付けた。  蒼愛の頬を、淤加美の指がするりと撫でる。  振り向くと、ニコリと微笑まれた。 「話を続けるよ。色彩の宝石はね、実のところ、総ての力を把握できていないんだ」  蒼愛は首を傾げた。 「何せ、瑞穂国ができてすぐに盗まれちまってるからね。均衡を維持する以外にも、備わっている力があるんだろうが、わかってはいないのさ」  日美子は前にも、そんな風に教えてくれた。   「最初の色彩の宝石を作ったのは、誰なんですか?」  そういえばと、ふと疑問に思った。  存在した以上、誰かが作っているはずだ。 「この幽世を作った現世の人間だよ。勿論、只の人間ではなくてね。神と強く結ばれた神のような力を持った人間、そういう人間を惟神(かんながら)と呼ぶんだ。名はクイナといった。クイナは死んでしまったけれど、今の現世にも同じ神を内包する惟神の人間はいるんだよ」 「惟神……」  淤加美の言葉を繰り返す。不思議な響きの言葉だと思った。  神様を背負う、神様のような人間。  そんな存在が現世にいるのが不思議だった。 (理研で何度か妖怪は見たけど。神様に会ったのは、瑞穂国に来てからが初めてだ。現世にも、そういう存在がいたんだ。だからあの所長は、強い術者を作ろうなんて、本気で考えたのかな)  理研に居た頃、所長の安倍千晴がやろうとしていた実験を、蒼愛は馬鹿らしく感じていた。  それはもしかしたら、蒼愛が強い術者や神様を知らなかったからなのかもしれない。  そういう存在が実現すると知っていたから、安倍千晴は自分の手で、強い術者を作ろうと考えたのかもしれない。 (今でも、違う意味で馬鹿らしいと思うし、腹が立つけど。今なら荒唐無稽な夢物語だとは思わない)  身勝手な理由で命を作り出し、殺し、捨てる。千晴の行為には今でも怒りが込み上げる。  ただ、憧れる気持ちは、理解できる気がした。 (今の僕は、強くなりたいって思ってる。守る力が欲しいと思う。力を欲するって、こういう気持ちなんだ)  強い力が欲しいと願う気持ちは、危ういし怖いと少しだけ思った。 「その、今でも現世にいる惟神の人間には、色彩の宝石は造れなかったんですか?」  淤加美が首を横に振った。 「惟神には本来、そういう力はない。クイナが特別だったんだ。それ以降は宝石の人間が六色揃った時だけ。けれど、それも一度きり。できた宝石は百年もしないで、また盗まれた。それ以降は、宝石の人間は六色揃っていない」  蒼愛は呆気にとられた。  宝石の人間の希少さを再認識した。  同時にクイナが神様以上に神様のような人間だったのだと思った。 「クイナが生きていた頃はね、今より神様と人間と妖怪の距離が近くて、世の中も今ほど明確には分かれていなかった。世界も世の中も、昼と夜も、天と地さえ、まだまだ曖昧な時代でさ。今の現世風に表現するなら神代の頃の話だからね」  きっと月詠見はわかりやすく説明してくれているのだろう。  だが、話が壮大すぎて、理解が追い付かない。  理研で読んだ日本の神話を説明されている気分だった。 「幽世も宝石も、今よりずっと作るのが簡単だったって話さ」     日美子のすぱっとした説明が、とてもわかりやすかった。 「蒼愛が色彩の宝石を作り出せるのが、どれだけ希少か、理解できたかい?」  淤加美の問いには、頷くしかない。   「色彩の宝石の力の全容がわかっていないから、盗んだ相手の目的も、よくはわからないんだけれどね。最初の宝石も二度目の宝石も盗まれている以上、蒼愛が作った宝石もきっとまた盗まれる。だから……」 「皆が幸せになれる力……」  ぽつりと呟いた蒼愛に、淤加美が言葉を止めた。 (妖怪は人間を喰うから。瑞穂国に妖怪を押し込んで隔離して、人間を守りたかったのかな)  幽世に隔離してしまえば、妖怪は人を喰えずに餓死する。   人間の住む場所から妖怪を一掃して絶滅させて、喰われる危惧を失くしたかっただけかもしれない。  だが、蒼愛にはそんな風には思えなかった。 (瑞穂国は、妖怪にとってはきっと住み良い国だ。そんな国を作った人が、妖怪を隔離して殺そうとするかな。違う手段を考えたんじゃないのかな)  クイナが人間と妖怪の棲み分けのためにこの瑞穂国を作ったのなら、人間も妖怪も幸せになれる世界を作りたかったんじゃないかと思った。  紅優や、月詠見や日美子は、割と自由に現世と幽世を行き来している様子だ。  人間を喰う妖怪が狩りに行けるように結界を緩くしていたのかもしれない。 「紅優も、月詠見様も日美子様も自由に現世に行ってますよね。この国に住む皆が、自由に現世に行けるんですか? この国ができた頃から、現世とは自由に行き来できたんでしょうか?」  蒼愛の問いに、月詠見が頷いた。 「神様は好きに行き来できるよ。時々、観光気分で出掛けたりしているよ」  月詠見は、そうだろうなと思った。  日美子と二人で現世を観光する姿が目に浮かぶ。 「妖怪もね、瑞穂国から出るのは自由だよ。現世側から入るには許可が必要だから、出る前に黒曜に通行手形を申請するんだ。幽世(こちら)側から行く分にはそれ以外の縛りはないよ。現世側から入るのは、難しいけどね」  紅優の説明に、蒼愛は首を捻った。  現世側から瑞穂国に入っても、人間にメリットはない。  瘴気に中てられて死ぬか、妖怪に喰われて死ぬ。 「現世から瑞穂国に移り住みたい妖怪がいたら、どうするの?」 「その手のコンタクトを取る窓口が黒曜なんだよ。瑞穂国に入る妖怪や人間を調節している。それもまた、均衡を守るために必要な役割だね」  淤加美の話を聞いて、ニコの話を思い出した。  女は子を孕むから、人間の女は勝手に喰ってはいけないが、自由にもしない、と話していた。 「前に、ニコに聞いたんだ。人間の女は幽閉されるって。現世に、戻すの?」  蒼愛の問いを聞いた紅優が返事を戸惑った。 「人間は繁殖力が強いからねぇ。瑞穂国に人間の女を放ったら、一気に増えて第二の現世になる。それじゃぁ、瑞穂国が在る意味がない。だから、瑞穂国では人間を繁殖させるのは禁止なんだ。現世に戻す場合もあるけど、食料にする場合が多いかな。人間の女を主食にする妖怪も多いからね」  きっと月詠見は、皆が話しずらい説明をしてくれた。  この国では、それが普通で、珍しい話でもないんだろう。  人間の価値は食料か奴隷か番だと、前に紅優も話してくれた。 「中央で管理して、孕ませない条件付きで卸すんだ。個人で現世から買うのも禁止されてる。黒曜の所に売られてきたり、間違って迷い込んできちゃった程度しかないから、数は少ないよ」  紅優は蒼愛に気を遣ってくれているんだろう。  確かに怖い話だと思う。  しかし蒼愛は、来てすぐに紅優におねだりした牛肉を思い出していた。 (人間だけが喰われないのって、自然なのかな。喰われたくないけど、それはどんな生き物だって同じはずだ。クイナは、どんな風に考えたのかな)  クイナがどんな思いでこの国を作り、色彩の宝石を作ったのか。  それが知れれば、色彩の宝石の力がわかる気がした。 (まだ霊元が開く前、もし霊能が使えたら僕は、皆が辛くない力が欲しいって、思ったんだ)  辛くないの定義はきっと人や環境で異なるんだろう。  あの頃の蒼愛は楽に死にたいと思っていた。  今は、幸せに生きたい。 「淤加美様、僕、クイナをもっと知りたい。淤加美様はこの国を作るのに関わった神様なんでしょう? なら、クイナを知っていますよね? どんな人間だったか、僕に教えてください」  突然の問いに、淤加美が驚いた顔で頷いた。 「良く知っているよ。どんな、か。美味そうな霊力を持っていたから、いつも人喰いの鬼に追いかけられていたね。他の生き物を守るために、自分を餌にして鬼と追いかけっこしていたよ」 「追いかけっこ……」  あまりにも命懸けの追いかけっこすぎて、絶句する。 「だけど、悲壮感がなくてね。いつも笑って鬼を巻いてる変わり者だったよ。そんなクイナを見兼ねた或る神様がね、力を貸してやったのさ。それで惟神になって力を得たってわけ」  月詠見もクイナを知っているらしい。  呆れた話し振りだが、月詠見もきっとクイナが好きだったのだろうと感じた。 「クイナは元々、妖怪と仲が良くてね。人を喰わない鬼とも、仲良くなってた。人にも妖怪にも神にも好かれちまう面白い男だったよ」  日美子が懐かしそうに笑んだ。 「日美子様もクイナを知っているんですね」 「私に瑞穂国の神様になってくれって頼んだ知己はクイナだからね」  つまり淤加美と月詠見と日美子は、この国の創世から関わった神様ということだ。 「クイナは、妖怪と人間の棲み分けのために、この幽世を作ったんですよね。一体、どんな思いで作ったんでしょうか?」 「どんな思い? クイナの気持ちかい?」  日美子の問いに、蒼愛は頷いた。 「蒼愛は、どう思う? クイナは、どんな気持ちだったと思う?」  淤加美に問われて、蒼愛は悩んだ。 「人間が喰われないように守るためかなって、最初は思ったけど、ちょっと違う気がして。この国は妖怪にとって棲み良い国だと思うんです。淤加美様たちがそんな風に造ってきたんだとしたら、クイナがそういう国にしたかったから、妖怪も暮らしやすい場所を作りたかったのかなって。だけど、それだけじゃない気もして」  考えが上手く纏まらなくて、蒼愛は黙り込んだ。 「蒼愛はさ、さっきの話をどう思うの? 人間の女が幽閉されて喰われるの、怖くないの? 腹が立ったりはしないの?」  月詠見が突然、ストレートな質問を投げた。 「……正直にいえば怖いし、嫌です。助けたいとも思います。だけど、食べないと妖怪も死んじゃう。もし紅優が番になっても人を喰わなきゃ死んでしまう妖怪だったら、僕は紅優が人を喰うのを止められない。それに、僕だって、牛や豚のお肉を美味しいと思って食べてる。だから、簡単に妖怪だけを非難とかは、できないと思って」  蒼愛はニコや芯を思い出していた。  妖力が枯れて死にかけていたニコも、病気で余命が一カ月もなかった芯も、紅優の妖術で辛くなく逝けた。  それが蒼愛には救いや弔いに映った。  ただの食事ではないと感じた。   「それに、紅優みたいに優しく喰ってくれる妖怪も知ってる。喰われるのが、ただ辛いばかりじゃないんだって、紅優が教えてくれたから」  蒼愛の髪を撫でる紅優の手が止まった。 「番になると、妖怪は食事が必要なくなる。それって、とっても大事な気がするんです。クイナがどんな気持ちでこの国を作ったのか、色彩の宝石を作ったのかわかれば、人間と妖怪はもっと、今より良い関係になれるんじゃないかって、思って」  自分の中に在る考えや思いを上手く言葉に出来なくて、もどかしい。  顔を上げたら、月詠見に頭を撫でられた。 「そうか、そうか。蒼愛はやっぱり賢いな。賢いし、優しいね。どうして蒼愛が色彩の宝石なのか、わかった気がするよ」  賢いという言葉の後には、決まって不穏な言葉が続くのに、今日の月詠見の言葉は全部優しかった。 「クイナがどんな気持ちだったのか、私にも仔細はわからない。けれど、良い国にするために力を貸してほしいと頼まれたのは事実だよ。人間と妖怪が、理を崩さずに、良い距離感で生きられるようにと、この幽世ができたんだ」 「理を崩さずに……」  淤加美の言葉は難しくて蒼愛には充分には理解できなかった。  けれど、とても大事な話なんだと感じた。 「もし興味があるのなら、書庫の本を読んでみるかい? この国の歴史や成り立ちが書かれた本や、この国に住む妖怪について書いてある本もある。蒼愛が知りたい真理が見つかるかもしれないよ」 「良いんですか! 読みたいです!」  淤加美の提案に、蒼愛は一も二もなく食いついた。 「あ……、でも僕、まだ読めない漢字も沢山あって。難しい本は、読めないと思います」 「俺が一緒に読むから、大丈夫だよ。漢字の勉強にもなるよ」  紅優がくれた提案で、しゅんと丸まった背中が、ぴんと伸びた。 「本当? 紅優、ありがとう。本が読めるのも漢字を覚えられるのも、すごく嬉しい」  まだ読んだことがない本を読めるのは、蒼愛にとって何よりの贅沢だ。  紅優の屋敷の書庫で、芯と本を読んでいた時も、とても楽しかった。  淤加美の書庫に行くのが楽しみで、とてもワクワクした。 「蒼愛が本を読める時間を作ろうね。ただし、試練も受けてもらうよ。まずは神々への御披露目だ」  淤加美が優しく厳しい話を始めた。 「御披露目が試練なんですか?」  試練とは、つまり悪巧みだろう。  嫌な予感が過った。 「御披露目から始まる試練だよ。蒼愛には、しばらく私の側仕をしてもらう。蒼玉の蒼愛が水ノ神の側仕になるのは不自然ではない。そういう名目なら、この水ノ宮で守ってやれるからね。本も、たくさん読めるよ」  本がたくさん読める、という言葉で、前半の淤加美の話は吹っ飛んだ。 「はい! 頑張ります! 紅優、本、たくさん読んでいいって。漢字もいっぱい教えて」 「まずは御披露目を頑張ろうね」 「うん! 頑張る。どんな本があるのかな。楽しみだなぁ」 「蒼愛、本で頭がいっぱいだね。大丈夫かな」  紅優が困った笑みで呟いた。 「御披露目では、蒼愛が色彩の宝石を造れる事実をあえて話す。その上で、それぞれの神々の宮に挨拶に回ってもらおうと思うんだよ」  淤加美の目が暗く光った。 「全員、ですよね」 「当然だよ。でなければ意味がない。更には加護をもらってきてくれると、尚良いね」  さらりと流れた淤加美の提案に、紅優の顔が引き攣った。 「六柱の神、総ての加護を蒼愛に授けてもらうおつもりですか?」  淤加美がニコリと笑んだ。 「色彩の宝石である蒼愛になら、可能だ。蒼愛には、その価値がある」 「そうではなくて! 加護を受けるのは、あまりに危険ではないかと」  言い淀む紅優の目が蒼愛に向く。 「そのための、私の側仕だ。蒼愛は既に三柱の神の加護を受けている。心配ないよ」  淤加美の言葉でも、紅優の表情は険しいままだった。 「蒼愛は紅優が思うほど弱くないさ。もっと信じてあげないと可哀想だよ。ねぇ、蒼愛」  月詠見に頭を撫でられるも、どう返事していいか、わからない。 「わからないけど、でも、紅優が一緒にいてくれたら、僕はきっと大丈夫だって、思うよ。神様の温かい力は、僕の中にちゃんとあるし、紅優の妖力はいつも流れてきているから」  紅優が眉を下げて蒼愛を抱きしめた。 「蒼愛と二人で幸せに生きたい。だから、守るよ。蒼愛、急にいなくなったり、しないでね」  紅優が耳元で小さく囁いた。 「いなくならないよ。紅優を一人にしないよ」 「うん……。そうだね。わかってるんだ。けど、俺の手が届かない場所に、行ってしまわないでね」 「約束するよ。ちゃんと側にいる」  蒼愛は紅優を抱きしめ返した。  いつも紅優がしてくれるように、包み込みたかった。  どうして紅優が不安になるのか、今の蒼愛にはまだ、わからなかった。

ともだちにシェアしよう!