26 / 158
2.Idiot~名前
静かになった空間で、男が言ったそれは名前だっていうことはすぐにわかった。
だからオレは、右手人差し指をズイッとヘサームに向けた。
だって、こいつ、正真正銘の阿呆だ。
「……おまえ、ほんっとに馬鹿だな!!」
ヘサームは、オレが何を言っているのかわからないという顔をしている。
「だあああああっ、もうっ!! 名前は親が付けてくれる、自分にとって意味がある大切なものだろう? 刃物やらが普通に飛び交う、こんな物騒な世の中なんだぞ? 出会ったばかりの奴に、ホイホイと軽々しく自分の名前を口にする奴があるか?」
バッカじゃねぇ?
そういう気持ちで、両手を腰に置き、怒鳴った。
だけどさ、相手が名前を名乗ったのに、自分が名乗らないのは不作法だよな。
しかも、相手が命の恩人なら尚のことだ。
だからオレは、静かに口を開いた。
「……アティファ」
ともだちにシェアしよう!