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33 溺れる *R18
すぐに噛まれると思ったら、シャツのボタンを外された。
あ、もう吸血だけじゃないんだ──そう思いながら抵抗しない俺も俺だなと思う。
素直に脱がされていく。
ベッドへ押し倒される。ズボンのふちに手をかけられたのを見て、腰を浮かせるとすかさず脚から引っこ抜かれた。
脚の間に彼が割り入ってきて、視界の端で黒い霧が揺らぐ。香油の匂い。──あの時の甘やかな地獄を思い出してしまう。
「っ、ジェード、今日はそんなに長く、しなくて大丈夫だから……。いれるなら、早く入れてくれ……」
生殺しに感じるほどの前戯はもうたくさんだ。思わず釘を刺し、片手を伸ばして自ら尻たぶを緩く開く。
幸か不幸か、スライムのおかげで後孔はほぐれていそうだし、前とは違ってすぐに受け入れられそうだ。
「……私以外にそういうことをやるなよ」
ジェードは妙に真顔だった。
あんた以外とする機会なんかない。
腰ベルトを外す音がして、俺の太ももにジェードのそれが当たる。
見なくてもわかるくらい、バキバキに硬い。なんでもうそんななんだ。吸血行為と性欲ってそんなにイコールだったか?
香油を垂らされ、指で軽く確かめられた窄まりへ性器を押し当てられる。
相変わらずの規格外サイズを受け入れるのだと思うとやはり緊張した。
注射を待つときのように、天井の隅を見つめて意識をなるべく遠くへやった。
「──~~っ!!」
襞がいっきに押し広げられ、体内にジェードが入ってくる。
すさまじい圧迫感で息の仕方も忘れてしまう。
「はっ、は……っ! っぅ、……ぁ……っ!」
"串刺し"という表現が一番似合う。
のけぞらせた背の根っこのあたりから、じんじんと痺れるような快感が広がっていく。
これが始まりに過ぎないことを知っている俺の性器は、興奮した犬みたいに我慢汁 をあふれさせていた。
そんな中で上半身を抱き上げられ、座位の体位になってジェードと向き合う。
落ち影で見えなかった彼の表情が見えそうだったが、恥ずかしくて直視できなかった。
ジェードの腕に体重を預けながら、目を閉じて集中しているフリをする。
ネックレスのチェーンが指先で退けられ、首筋にがぶりと噛まれる。
「んぅうっ……あぁ……っ!」
求めていた痛みだ。ゾクゾクと快感が駆け上がり、密かに甘イキしてしまう。
無意識にナカを締めてしまい、ジェードが短く息を乱すのを耳元で聞いた。
緩いピストンが始まって身体が揺れる。
身体の奥の性感帯を優しくノックされ、わかりやすく身体が熱く蕩けていく。
「あっ、ぁ……っ、は、ぁっ……あっ……!」
傷口を広げる牙の痛みも忘れてうっとりと喘いでいた。
……あれ? 前までは噛まれて身体をおかしくされて、変なふうになってたのに。
今回の俺、噛まれる前から……。いや、気のせい……気のせいだ。
「あ、ぁぁあ……っ」
首筋にかぶりついて血を啜っていたジェードが、ふいに口を離した。じいっと俺の顔を見ている気配がある。
あまり見ないでほしいから、ずっと血を吸っててくれないかな。
……一体、どんな顔で。
ほんの少しの怖いもの見たさがわく。
薄目を開けて、すぐに後悔してまた目をつむった。
とっさのこととはいえ、叱られてバレバレなたぬき寝入りする子供みたいなことをしてしまった。だって、あんな怖い目で見られていると知って、どんな顔をしたらいいんだ。
「んあぁあっ!?」
寝た子を起こさんとばかりに、強く突き上げられた。
首筋からあふれる血が、細い線を描いて鎖骨に垂れている。それをもったいなさそうに舐め取られながら、さっきとは打って変わって激しく揺さぶられる。
「んっ、ぅ、う…っ、は、あ、ぁっ……!」
「はっ、く……っ」
時折聞こえるジェードの息遣いが、いやらしくて変な気持ちになってしまう。
普段聞くことのない余裕を失った吐息を、聞きたくて耳を澄ませる俺もおかしい。
目を回しそうになりながら快楽に身をゆだねる。
いつの間にかジェードの肩に手を置いて、なぜか俺のほうが腰を振らされていた。
恥じらいが消えたわけではないが、欲望に従ってしまう。
「あぁあ……! ジェードっ……!」
もう少しでイきそう、そう夢中になっていた矢先、窓の外──遠くで雷が落ち、その轟音に驚いて動きを止めた。
「っ!?」
ざあああ……。
雨の音がする。曇天はいつからか雨模様に変わっていたようだ。まったく気付いていなかった。
窓のほうを見る俺の頬を、ジェードが撫でた。汗の粒を拭ってくれたらしい。
「この屋敷は雷が落ちても問題ない」
「……子供じゃないんだから、雷が怖いとかないよ」
「なら私に集中しろ」
「ん……」
とはいえ、ちょっと冷静になってしまった。
ほとんど仰向けに寝そべったようなジェードに跨 るこの体位、恥ずかしい。
気付かないうちに繋いでいた手を緩める。
察した彼にまた押し倒される。
ジェードの長い黒髪が、枝垂 れてカーテンのようだった。
乾きつつある首の血にキスされる。
「おまえの血はますます……おそろしいくらいに美味いな」
「……健康になったから、ってこと?」
この世界に来てから、社畜時代が嘘のように栄養や睡眠をとれている。トラブルは多いが、とてもストレスフリーだった。
「説明していなかったか」
「何を……?」
「吸血鬼の"噛み"に高揚作用があるのは、捕食しやすくするためだけではない。吸血鬼 に対する感情が強いほど、血が美味に感じるようにできているからだ」
ん?
それってつまり。
「……俺の、感情が味に……影響してる?」
「はじめておまえの血を飲んだとき、バウの反応を見ていなければ私のほうが惑わされるところだった。あれで通常時の味などと、どんな吸血鬼も信じまいよ」
「そ、そうだよ。バウもロコも、俺の血は美味しいって言ってるんだから、この味は最初からだ。俺は別に……」
「その上で、いまのおまえの味は美味くなっている と言っているのだ。──最近の振る舞いを見るに、味が薄くなっていてもおかしくないと思っていたのだが……そうか、私のことがそんなに好きか」
「……適当なことを言ってからかうなよ」
「そう思うか?」
「う」
にわかには信じられない。
何かの間違いなんじゃないか。
百歩譲ってそうだとして、それはやっぱり、きっと、吸血のせいでおかしくなっているだけだ。
ジェードのことは好きだけど、恩人としてであって。
俺にそんな趣味ないし、変な意味での好意とは違う……はず。
身体がこんなに熱いのもぜんぶ、吸血の作用だ。そうだろ?
「ふむ。私の勘違いならすまなかったな」
俺がもごもごしながら黙っていると、ジェードは腰を引いて繋がりを解こうとした。とっさに脚を絡めて引き留めてしまう。
「……」
「この脚はなんだ?」
「……、……やめないでくれ」
ジェードだって、こんなところで終わらせるつもりなんかないくせに。──彼のぎらぎらとした目は、一度もよそ見することなく俺を捉えて離さない。獲物を食い尽さんとする恐ろしく美しい獣の目だ。
俺が欲しくてたまらないと、まっすぐに伝わってくる金色の眼差し。
「加減できないぞ」
何も言えなかった。
とにかくいまは、続きが欲しい。
ぐいと両脚を持ち上げられ、尻の位置を高くさせられる。
抜けかけていたそれを一気に押し込まれた。
「~~~っ! あぁあっ!」
体勢のせいかさっきよりも深い。腹の底を突き上げられる衝撃で声が抑えられなかった。
両脚が宙に浮いているせいでふんばれないから、ジェードが腰を打ちつけるたびに身体がベッドの上を滑る。すがりつくように彼の首の後ろへ両手を回した。
ほのかに汗の匂いがする。
さっきの激しさとは違う、ジェード自身の快楽を追うピストンだった。
俺はそれに振り回されながらあっけなく射精する。
俺がイったことに気付いていながら、ジェードはお構いなしだ。敏感になっている身体をがつがつと食い散らかされていく。
「ッふ、ハヤトキ……っ……!」
「あぁあっ、ジェードっ! あぁっ、く、あぁっ、あっ!」
また射精させられて、でも休む暇もなく追い立てられる。
(また、イくっ! 突かれるたびにイってる気がするっ! 頭溶けるっ……も、わけわからな……っぅ、ああっ……、もうっ、精液出ないっ、なのにっ、何回でも勃つのっ……噛まれておかしくなってるせい……だよなっ……!? っ、んぐ、ぁあ……っ、いいトコばっかっ、ごりごり突き上げられててやばいっ……またっ……イ……ッ!!)
「~~~~──かはっ!?」
強烈な絶頂感で腰が跳ね上がる。経験したことのない恍惚に頭を殴られたみたいだった。目の前がチカチカする。声も出ない。
確実にイった自覚があったのに、射精していないことに気付いた。蕩けた頭のまま混乱する。
じゃあこれはなんなんだ? 今もずっと、魂を焼かれてるみたいに気持ち良いのに。
「あっ、はぁ、ぁっ……! 待っ、て、ジェード……っ!」
激しいピストンは途切れない。揺さぶられていると余韻が去るのも待たずにさっきの感覚が再び降りてくる気配がある。
「なんか、おかしい……っ、い、イきかた、おかしいからっ……!」
「苦しいわけではないのだろう?」
「でもっ……あ、あぁぁっ! ん、くっ、~~~んあぁあああぁっ!」
ビクッビクッと大袈裟に身体が跳ねる。閉じ方を忘れた唇の間で舌が震えて、よだれも出るし、みっともない声が止まらない。
「あぁぁっ! あっ、あ、あぁあ!」
「ハヤトキ……っ、出すぞ……!」
そのうちにピストンの調子が早まったかと思うと、ジェードがペニスを俺の中に押し込み、射精していた。
やっと揺さぶりが止まって、俺は身体が狂ったのかと恐怖するような連続イキから解放される。
「ぁ……、ぁ……っ! ぁ……!」
彼の熱が腹の奥に流し込まれているのを感じながら、余韻の快感にさえ悶えてピクピクと痙攣していた。
嫌な予感がするのは、ジェードがいつまでも挿入を解かないことだ。
射精してある程度落ち着いたはずなのに、俺の中にあるそれはまだ芯がある硬さを残している気がする。
潤んでよく見えない目で、ゆっくりとジェードの顔を見上げる。
──すぐに目が合った。彼の瞳の奥から発せられている願いが、手に取るようにわかる。
これは、許可を求められている。
一応俺の意見を聞いてくれるんだな。
さっきまで、好き勝手するつもりしかない目をしていたくせに、急に聞き分けのある飼い犬みたいに機嫌をうかがってくる。
それはずるい。
「は──……っ……、は──……っ……」
この男を甘やかしたいと思ってしまう。
……けれど、何事にも限界はある。
これ以上はダメだ。健康診断をした直後なのに身体が壊れる。
「ジェード……っ、も、むり……っ!」
子犬のような顔をしながらもがっしりと腰をつかんでいるのが怖くて、力の入らない腕に鞭を打ち、上体を起こして這って逃げた。
ずるりと繋がっていた性器が抜け出る感覚に、改めてなんというサイズのものを身体に押さえていたのかと震える。
途端に、腹の下から掬うように後ろから抱き上げられた。
あっという間にジェードのほうへ引き寄せられてしまう。
あ、死んだ。と思った。
「すまない、ハヤトキ。そうひどくはしないから」
彼の空いているほうの手が、俺のシーツを握る拳を包む。
彼の手がじっとりと汗ばんでいて、ひどく生々しく感じた。
うつ伏せの俺の尻に、凶悪なそれが擦り付けられる。
喉の奥から声にならない悲鳴が出た。
身構えたが、いつまでも挿入されない。
……この男もしかして、俺が良いと言うまでこうしているつもりなのか。
血が出ないほどの加減された力で、がぶがぶと頸 や肩を噛まれた。昂 ると噛むのは、吸血鬼の本能なのかも知れない。
甘噛みだからか吸血されるときの鮮烈な酩酊感はないが、刷 り込まれた条件反射でくらくらしてしまう。
「足りない。ダメか?」
後ろから耳を食まれて、肩が震えた。
ちゅ、ちゅ、と音を立ててあちこちにキスされる。
やめろ、後頭部の匂いを嗅ぐな。
「うぅ……」
飲んで抜いて終わりのいままでとは明らかに違う。
こんなの食事じゃない。
なぜ。
──なぜ、俺は仰向けに寝返って、ジェードに身を預けようとしてる?
どうして、その目で見つめられると、俺は彼が欲しくなってしまうんだ。
■ ■ ■
イキ癖がついた身体はやっぱりおかしくなっていて、自分から求めたくせによがり狂って命乞いをした。
「あっ! あぁあ! むりっ、やっぱむりぃっ! は、ぁっ、あぁぁっ! っ、また、へんなイきかたするっ……!」
ベッドの軋む音が俺の声でかき消されてるのがわかる。声を抑えたいのにどうにもならない。
さっき断っておけば身を引いてくれていたであろうジェードも、スイッチが入ってしまったように俺を逃してくれなかった。
いや、無理だと喚 くわりに俺がしがみついて離れないから、止めるべきかわからなかったのかも。
なんにせよ、ジェードが最後までやったのか俺は知らない。気絶したから。
「ジェードっ……も、あ、あぁああっ!」
硬さの維持もできなくなった性器から、透明な汁を吹き上げる。それが何かもわからず、漏らしてしまったと後悔しながら意識が遠退くのを感じた。
「……やはり、私の理性が保たんな」
気絶する直前、そんな独り言が聞こえた気がした。
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