9 / 9

第9話

 俺と……  執事さん……  ふたり  俺と〜?  執事さん〜?  ふ・た・り 「エェェエエエーッ!!」  ちょ、ちょちょー!!  待ってくれ。 「秘技・国語辞典」  勇者装備には国語辞典が付いている。  えっと、たちつてと…… (あった)  トキメキ…… 「トキメキとは、胸がドキドキする事である」  胸がドキドキ。  俺も胸がドキドキするけれど。 (このドキドキはトキメキではない。断じて絶対) 「ヒイロ様」 「ひゃい!」  このドキドキは紛れもない!生命の危機だ。 「ヒイロ様は、私めを好きだと言って下さいました」 「ちょっと待って。俺が言ったのは……」  顔がきれい→顔だけが好きじゃない→(中略)→ひっくるめて……  好き。 (言っているー!)  好きって言っちゃているー!  いやいやいやいや!  好きは好きでも、 「LOVEじゃない!」 「らぶ?……らぶとは何でしょうか?」  そうだ、ここは異世界。異世界ゆえに、時々元いた世界の言葉が通じない。 「美味しいのでしょうか?」 「……美味しくはないです」 「では?」 「えっと。う〜」  どう説明すれば…… 「それでは、ヒイロ様がお考えをまとめていらっしゃる間に、私から少しよろしいでしょうか」 「どうぞ」 「初めてなのです」  闇の中、柔らかな光が帯びた。 「初めて好きだと言われました。私を好きだと仰って下さったのは、ヒイロ様、貴方様だけでございます」 「その好きなんですが」  細めた黒曜の玲瓏の優しさに、俺は言葉を止めてしまった。 「私はずっと孤独でしたので、ヒイロ様の想いに救われました」

ともだちにシェアしよう!