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第82話

  ……だから  声が響いた。  柔らかく、けれどどこかに薄氷の不安を潜めた声が頭上に…… 「そんなふうに自分を卑下するのは思い留まってくれないか。君は、君自身が思う以上にかけがえのない存在なのだから」 「王様……」  手の平が髪をすくって、頭を撫でた。  静かに、静かに、言葉で埋められなかった心の場所を埋めるように。 「すみません。俺、ビックリして」 「いいんだよ、謝らなくて。さぁ、顔を上げてくれないか」 「はい」  ゆっくり顔を上げた。手袋越し、頬を優しい体温が頬を包んだ。 「勇者様の顔になったね」  声はどこか感慨深げに……  懐かしい、と思ったのは、五年ぶりの王都帰還を今更ながら噛み締めたからなのだろうか。 (王様と話して、ほっとしたのかも) 「からかわないで下さい」 「からかってなどいないよ。君は誰にもできない功績を積んだ。真の勇者として立派になったのだと思うと、誇らしく...…どうしてだろうね。ほんの少しだけ、寂しくもあるんだよ」 「そんな……フフ」 「どうした?おかしな事を言ったかな?」 「いえ。王様がお父さんみたいだな……って」 「そこは『お父さん』ではなく『お兄さん』だろう」 「えっ、そうなんですか?」 「君……傷つくよ...…」  あわわっ!  俺、王様を傷つけてしまったー!

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