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第142話

 右腕だけ消えている!  ヒュンッ  刹那に空気が避けた。 「……ほう」  あの声だ。  少し前まで聞いていた声音。そして、もう聞く事はない。そう思っていた。  彼は、首から落ちたのだから。  しかし、この声は紛れもない…… 「ほとんどの人間は今の一撃で死ぬのだがな?」 「相国!」 「意図して避けたか」  声は響く。 「それとも、まぐれか」  ヒュンッ  再び空気がうなった。  鉄扇だ。  それを持つのは、右腕がふわりと宙に浮いている。胴から消えた右腕が…… (《スキル》!)  魔力は感じない。  詠唱もない。  固有能力《スキル》が発動したのだ。 「お兄様!」 「分かっている。《スキル》だな」  ぽたり 「……えっ」  ぽたり、ぽたり……  お兄様の体から赤い…… (血が) 「怪我してる!」  鉄扇を避けたけれど、避けきれていなかったんだ。 「大したことない」 「でもっ!」  血はたちまち黒装束に染み渡っていく。 「私は軍人ではない」  相国の声だ。 「戦いは専門外だ。ゆえに……」  ヒュン  右手が鉄扇を振り下ろすと同時に、風圧が舞う。扇に魔力付与が施されている。 「楽には殺さぬぞ」

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