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夏だ!海だ!終幕

 んん、と背伸びをする。一足先に着替えも終わって、ぼんやり海を見つめた。  体には適度な疲労感が広がって、今日はよく眠れそうだ。 「なんやかんや、もう夕方か……」  人も、少なくなってきた。夕陽がゆっくりと水辺線へ沈んでいく。海鳴りに混じった人の声も、昼よりは大人しい。  茜色に染まる空と水面は、なんだか切ない気持ちになる。それは、楓真たちと遊べた今日という日が──ひいては、夏休みが終わってしまうことを感じさせるからだろうか。 「茂部くん、どうしたの」  楓真の声に振り返る。どうやら着替え終わったらしい。タオルで髪を拭きながら、ビーチサンダルで砂浜を踏みしめ歩み寄ってくる。 「……なんか、寂しいなって。優真さんとも、陽真くんとも遊ぶの楽しかったから。また一緒に遊べるといいな……」  ──これが最後になっちゃうかもしれないけど。  惜しい気持ちが混じる声色で言えば、夕陽に照らされた楓真は、ぽかんと呆けた顔をしている。 「あれ……言ってなかったっけ? お祭りも行くし、なんなら遊園地も夏休みに行くよ?」 「……え?」  面食らうのは、こちらの番だった。 「絶対ついていきたいって言ってるし。今日で最後じゃないよ」 「っあはは、なんだ、そっか!」  ひとりで勝手にセンチメンタルな気持ちになってしまった。 「……茂部くん、兄さんたちと遊びたいと思ってくれてるんだ」 「……うん。良い人だし」  向こうが俺のことをどう思っているかは置いといて。彼らと関わるのは、嫌いではない。いいや、むしろ好ましい。俺が楓真への言動に気をつける点が増えるとはいえ──彼らとの交流も、なんやかんや楽しいのだ。 「っえへへ、嬉しい! 俺、いっぱい計画立てるからね!」 「あ、いや、迷惑にならないくらいにな! 優真さんとか受験勉強で忙しいだろうし!」 「うんうん、大丈夫! ちゃんとそこも考えてるから!」  本当にちゃんと聞いているのか、不安になる。  今日は終わってしまうけれど。新たな波乱の予感と、交流の機会に──へらりと、だらしなく頬が緩んだ。

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