42 / 104

第42話 騒つく心

 クリームソーダを飲みながらボードゲーム観戦をしていた僕の隣に、キヨくんがコーラを片手に座った。 「…委員長、アレさっきやってたでしょ。勝った?」  僕がそう尋ねると、前を見ながらニヤっと笑って言った。 「ああ、楽勝だ。」  僕の反対隣にやっぱりコーラを手にした背の高い長谷川君がドスンと座って僕に言った。 「本当、平野はソツがなくて可愛げないから。こんな冷酷な男なのに、女子には大人気なの解せないよなぁ。さっきもドリンクバーで、他の客の女子大生たちに声掛けられてるんだぜ?狡くない?俺にも声掛けろっての。」  すると他のクラスメイトが長谷川君に、お前はいかにもガキくさいからなと揶揄いが入って、長谷川君はそっちへと移動して行った。僕とキヨくんが取り残されて、僕は思わず尋ねてしまった。 「…声掛けられたの?」  キヨくんは僕と目を合わせて小さな声で言った。 「…気になる?」  僕は顔を背けて、黙ってクリームソーダをズルズルと飲んだ。 「…俺は女子は眼中に無いからさ。」  僕にだけ届く声で囁かれたキヨくんの言葉は、僕の心臓をドキドキさせた。やっぱりキヨくんて僕のこと好き…?  動揺した僕は、思わず手に持っていたクリームソーダを膝に溢してしまった。 「ああ、まったく!ほら、洗わないとベタベタになるぞ。」  僕はキヨくんに促されるままにトイレへと連れて行かれた。キヨくんの濡らしたタオルハンカチでしっかり拭き取られたズボンを手で払いながら、僕はキヨくんにお礼を言おうと顔を上げた。  キヨくんは僕をじっと見下ろして、何も言わずに手を引っ張って奥の個室へと連れ込んだ。僕はなぜか何も言えなくて、何ならこうやって二人きりになれるのを期待していたかも…。キヨくんは小さな声で囁いた。 「さっきから、そんな顔されたら、俺我慢出来ないよ。キスしたい。ダメ?」  僕は一気に身体が熱くなって、多分顔も赤くなっているに違いなかった。でも僕が十分に逃げ出せる時間を掛けて、キヨくんの唇が僕に触れた。  三度目のキスは僕に初めての感触を連れてきた。啄む様なキスの後、唇をねだる様に舐められて、思わず緩めた僕の口の中にキヨくんの柔らかな舌がぬるりと入ってきた。僕はもういっぱいいっぱいになってしまって、キヨくんの服にしがみついた。  それから直ぐに離れて行ったキヨくんを、追いかける様に突き出ていた僕の舌を凝視したキヨくんが、ボソリとエロいと呟いたので、僕は一瞬で現実に戻ってきた。 「トイレでこれ以上はちょっと。続きは帰ってからな。」  そう言って先に出て行ったキヨくんの少し後で個室を出た僕は、周囲に誰も居ないのにホッとした。お手洗いを出ると、通路の先にキヨくんが待っていてくれた。 「…玲、もう帰ろうか。」  僕はキヨくんの顔を見られなかったけれど、俯いて頷いた。少し口元がニマニマしてしまったのを見られただろうか。

ともだちにシェアしよう!