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第72話 僕の進路希望は

 僕は早めに家に帰ると、すぐに一覧を見ながら、希望学部と最低評定がクリアしている大学に丸をつけた。希望学部は社会学部にした。人間の生きる社会的要因の方が、経済や数字の流れよりも関心が持てたからだ。  結果、3つの大学が候補になった。僕は各大学の社会学部のある校舎の場所を調べた。キヨくんが言ったこと、一緒にシェアルームするとしたら、家から簡単に通える様じゃ意味がないと思った。  僕はメモを手に、指定校の希望大学について話があるとキヨくんにメッセージを送った。入浴を済ませて戻ってくると、キヨくんからメッセージが返ってきた。 『今、塾から戻る電車の中。帰り玲の家に寄っていい?』  僕はスマホに浮かぶそのメッセージをじっと見つめた。前回のキヨくんの家でのあれこれを思い出してしまったからだ。  キヨくんの家は構造的に家族の動向をあまり気にしなくて良い間取りだけれど、僕の部屋は階段を挟んで向こうが親の寝室だ。僕の部屋の下は玄関や洗面所なので、親が起きていると、キヨくんと色々はできない。  ああ、僕はいつからこんな部屋の間取りのことばかり考える様になってしまったんだろう。別にキヨくんが部屋に上がったからと言って、必ず何かする訳でもないのに…。  結局、キヨくんが僕の家にたどりついたのは夜の10時を越えていた。母さんに大学の相談をすると言ったら、キヨくんに随分感謝していたけど、僕たちが家を出るために相談しているって知ったら、やっぱり悲しいかな。 「お邪魔します。」  そう言って、母さんに愛想よく挨拶して、僕の後をついて階段を登って来たキヨくんは部屋に入るなり僕を後ろから抱きしめた。 「…マジで、玲が足りない。俺、ヤバい奴かも。今まで貯め込んできた玲への気持ちが、自覚した途端にブワって溢れるって言うか。…玲にとったら怖いよな、実際。」  最後の方は少し声も小さくなってしまったキヨくんは、身体を離して、恥ずかしそうに僕を見つめた。僕は思わずニンマリしてキヨくんに抱きついて言った。 「…キヨくんが思ってるほど、僕は純粋な人間じゃないよ。キヨくんが部屋に寄ってくれたら、エッチな事するかもって期待しちゃったから。でも今日は本当に大学の話をしたかったから、メッセージ入れたんだけどね?…でもキスくらいならしても良いんじゃないかな?」  そう言って、僕は誘う様にキヨくんを見上げた。

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