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第90話 大学見学

 俺たちは移動の楽なターミナル駅に移動すると、コインロッカーに荷物を預けた。俺は二泊三日程度なのでリュックひとつだけど、叶斗は仰々しいキャスターバックだ。新は反対に手ぶら同然で。ま、あいつは自分のマンションに色々揃ってるからな。俺は呆れた様に叶斗の荷物を見下ろして言った。 「これ、何が入ってんの?」  すると、叶斗はふふふと目を細めて言った。 「凄く良いもの。…なんてね。服とか?あ、でも時間あったらショップも覗きたいな。せっかく東京来たから。」  俺はロッカーに荷物を詰めるのに気を取られて、妙に機嫌の良い叶斗の様子をスルーしてしまった。後でこの時のことを後悔する羽目になるとか、想定外だったけど。  連休ということもあって、オープンキャンパスはあちこちで開催されていた。俺たちは取り敢えず有名どころへと行くことにした。急いで回れば三箇所は回れそうだ。  東京に詳しい新のおかげで俺たちは効率よく回った。同じ高校3年生らしき生徒たちが友達同士で、あるいは1人で、あるいは親と一緒に、キャンパスをウロウロと周回していた。大学主催のキャンパスツアーはめんどくさかったので、俺たちはパンフレットを片手に自由に行動する事にした。  ひと通り、幾つかの進学の可能性のある学部説明のある教室へと梯子すると、大体どの大学でも大差は無いだろうと予測が出来て、三箇所の大学を効率よく回れた。  しかし最初の大学の見学中も、2人のαと一緒に行動する俺は、どことなく注目を浴びている気がした。しかしさすが東京。大学の案内の学生たちに少なくない数のいかにもαらしき学生が居た。  彼らは新と叶斗に一瞬目を配ると、その後必ず2人に挟まれた俺を見た。その時の顔が皆一様に目を見開くので、俺はなんだか可笑しくなってしまった。 「なぁ、なんでαの人って、俺を見て目を丸くするんだ?」  すると2人は顔を見合わせると、渋々新が言った。 「あー、なんていうか、岳ってよくわからないんだ。一目でバース性に振るい分けられないというか。一体何なんだろうって思うんだな。しかもなんかアルファのセンサーを引っ掻くっていうか。いかにもオメガだったら、そこまで気にならないんだが、やっぱり変異Ωって独特だ。」  すると頷きながら叶斗も言い重ねた。 「俺たち心配だよ。どうしたって岳って注目集めるじゃん。岳のこと知ったら、ほんとに欲しくなっちゃうからさ。俺たちだけで守りきれるか、マジ心配。」  俺は二人が随分大袈裟なことを言い出したので慌てて言った。 「いやいやいや、俺は誰かに守ってもらうような弱い人間じゃねーし!」  そういうと新は、周囲を見回して囁いた。 「岳は途中からオメガになったから、わからないかもしれないけど。案外拉致みたいな話、無いわけじゃないんだよ。まぁ本人が拉致られたって言う感じがしないように、ほらΩってαのフェロモンに弱いだろ。そこを突かれるとどうしようもないっていうか。…だから用心しろよ。」  何それ、怖すぎる!

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