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「…ということで私は、外では目を瞑って、行動するようにしているのです。――見たくないものは見なければよい。…シンプルな理由でしょう。」
「…………」
僕はどこともなく目線を下げ、ソンジュさんに横顔を向けた。――ところで…見たくないものは見ない、と言いながら彼、僕のことは見てくれるのだ。
淡い期待が僕の胸を切なく擽り――追い掛けてきた僕の理性が、それを制する。
もう、騙されたくはないのだと。
人を疑い、自分を守ることを学んだ。――僕はこれまで、さまざまな人に守られて生きてきた。…こうなる前までは、両親や、友人や、周りの大人…僕は、たくさんの人に守られて生きてきたのだ。
こうならなければ、僕はまずそのことを意識することもなかっただろう。
「………、…」
でも…今の僕は、知っている。
僕はもう、守られる存在ではない。――僕自身がもう、守られたいとは思わないのもあるが、…何より。
僕は自分で人を疑い、自分で、自分のことを守らなければならない。――そのために自分をおとしめ、そのために誰かに従い、そのために…誰かを信用してはならない。
そうして自分を守りながら――守りたいものを、守れたら。…それができたら、僕の人生にはもうそれだけで価値がある。
僕は、これから新たに誰かを信じることは、きっともうできない。
誰かの愛には、理由がある。それがたとえ、カナイさん相手であろうとそうだ。――たとえば、僕の両親が僕に注いでくれた無償の愛。…たとえば、共に学び舎で過ごすにおいて、自然と生まれた友愛。
もうそういった理由のいらない愛は、こうなってしまった僕に注がれることはない。――今の僕に注がれるとしたら、せめて全てが利益や、下心の絡められた愛のみである。――仮にも僕が誰かに愛されたいと思ったなら、僕はまずそれらに応え、その人らの期待に添った行動をして利益を生み、その人らの下心を満たさなければならない。
しかし、そうまでして、僕は愛されたいとは思わない。
モウラへの僕の気持ちが、本当に恋心だったのかどうかは、今になるとわからない。――ただ性奴隷となっている辛い状況で見た、救いの光…そういうものだったのかもしれないと、今は思うのだ。――そして、それはきっと…カナイさんに対しても、同じことなのである。
そうであっても、僕が心を許した人に裏切られたということは事実であり、それにともなう心の傷は、いまだに深くこの胸に残っている。――もしカナイさんに裏切られたら、と思うと、僕は今にも泣いてしまいそうだ。
そうなら僕は、一人でいたほうがよっぽど幸せだからだ。――下手な甘い言葉や、甘い態度にいちいち感情を費やすよりも、そうしたあとに騙されて嘆き悲しむよりはよっぽど、人形のように何にも動じず、何にも何も感じないでいたほうが、僕はよっぽど楽だ。
どうして僕が、ありのまま、何もせずとも愛されるだろう。――どうして僕なんかが、誰かにリターンのない愛情を向けられるだろう。
僕の価値なんて、所詮このオメガ属の体だけである。
それも結局は、人々にとって消費されゆくものである。
ケグリ氏が言うように、僕の体の価値なんて――“ザーメンコキ捨て穴”だ。…僕のナカで男性器をこすり、ソレを気持ち良くして、射精されたら終わり…僕はそうした都合のいい道具だ。
人にとっては、壁にあいた穴程度の価値である。
それも、男性器を持たない人にとってはいよいよ、無価値である。――こうなってしまったらもう、僕は誰から見ても性欲処理道具そのものだ。
性奴隷が、誰かに人として愛されることなんか、期待しないことだ。
ありえないことには、期待しないことだ。
夢を見ていた自分は、もう死んでしまったのだ。
カナイさんのことは、好きかもしれないけど。――おそらくカナイさんであるソンジュさんのことも、…僕ら、そ う い う ふ う に 思 っ て い る のかもしれないが。
それでも――駄目だ。
「………、…」
「……ユンファさん。…」
「……、ぁ、はい…」
僕はぼんやりとしていたが、ソンジュさんに呼びかけられて振り返る。――彼は僕と目が合うなり、にこっと優しく笑った。
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