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                「…っは…、…」    も、いい加減にしてくれ、どれだけ長いこと、しかもこんな深いキスを続けるつもりだ、…――と、僕はいよいよソンジュさんの胸板を押し退け、彼から顔を背け、ゴクリと口内の唾液を飲み込む。…はぁ、はぁと薄いながらも呼吸を乱している僕は、あれからもずっと唇をソンジュさんに塞がれ、口の中をクチュクチュ舐められ、こね回されていたのだ。  いや、さすがに長すぎ…――口の中に残ったケグリ氏の精液を舐めとる、という目的は、それこそもうとうに果たしていたはずだというのに、…ソンジュさんは僕の頬を挟み込んで固定し、唇をはむ…はむと動かしながら、ねっとりと執拗なまでに舌を絡めてきて、…とにかく、僕の口内にはもう彼に舐められなかった場所がないほど、ねっとりとした濃厚なキスを続けてきた。   「…はぁ…、……」    しかも、あまつさえ――キスが上手い、いや、上手すぎる、ソンジュさん。……正直いうと、呼吸音を立てないように努めていたせいもあるだろうが、僕は途中から頭がぽーっしはじめてしまい、もはや気持ちよくなってきていた。キスをされるとスイッチが入るせいで、キスだけでもうちょっと勃ってるし…濡れてる、僕。  もう、恥ずかしい――カーテン向こうにはモグスさんがいるというのに、あんまりだ。   「…ふふ…、ちょっととろけ顔ですね、ユンファさん…」   「………、…」    ()()()()()()ならともかく、今だけはそれ――僕のみっともない発情顔――を指摘しないでくれよ。いくらささやき声だとしても、それをモグスさんに聞かれたらどうするんだ。   「…可愛い顔だ…もっとしましょう、キス……」   「…………」    僕の頬の真横で吐息をかけながらそう言ってくるソンジュさんを、僕は顔を背けたまま無視する。――あれだけ長いこと、それもあれだけのねっとりと濃厚なキスをたっぷりしたら、さすがにもう十分じゃないだろうか。   「…無視ですか…」    僕の隣で、キュゥ…と切なく喉を鳴らすソンジュさんに、…どうしても罪悪感が。――ただ、もうこれ以上は、僕が()()()()になってしまうというか。   「……あの、のちほど…二人きりのときなら、お好きなだけキスしてくださって構いませんから……」    僕が小声でそう言うと、ソンジュさんは僕の顎に片手を添えて――僕の唾液に濡れた下唇を、そのあたたかい親指でふにふに、そしてす…となぞりつつ。   「…ユンファさんの唇は、ぷっくりしていて…形も美しく、本当にセクシーですね…」   「…………」    それこそ無視である。…無視し返されたようだ。  ソンジュさんは僕の下唇をす…す…と親指の腹をかすめるようになぞり、何か僕の隣でしっとりとした囁きを続ける。   「…いや、ユンファさんの唇は、その美しさ、蠱惑的な風貌のみならず…ですよ…――柔らかくも弾力があって、甘く、厚いためにキスをすると、とてつもない満足感がある…、端的にいえば、とても気持ち良い唇です…、その麗しい風貌もさながらに、この感触においても、いくらでも、何時間でもキスをしていたいな……」   「……、……」    何時間でもは、困る。さすがに。  というかしれっとロマンチック全開である。――僕の下唇はふにふにとソンジュさんに、相変わらず優しいながらもてあそばれている。   「…唾液も甘く、桃のジュースのようで、いくらでも飲んでいたいくらいですよ…――なんてそそられる唇だろう…、思わずキスをしなきゃいられない、魅惑的で、本当に素晴らしい唇だ……」   「…はは……、…」    どうしよう、と困り果て、僕はとりあえず愛想笑いを返した。――返す言葉が見つからない。…ありがとうでいいのか? あるいは褒め返せばいいのか? いや、ソンジュさんの唇も美しい形をしてはいるし、その朱色の艶めきもまたセクシーだとは思う、感触にしても本当に気持ち良かったし、…何より、キスも上手かった。  ただ…僕はそう褒めるとか、それ自体に気恥ずかしさもあるし、…ましてやそれこそソンジュさんのような感じには、とても。――お返しという行為にしては、あまりにもあまりにもな、お粗末な言葉にしかならないことだろう。   「……駄目か…」――隣でぼそり、やっと諦めたようなソンジュさんはそう呟き、…僕の片頬にチュッとキスをしてくると、僕の耳へこう囁いてくる。     「……では、またのちほど…ふふ……」   「……ッ、……」    その囁き声にゾクリとした僕は、ソンジュさんにコクコク頷いてはい、と示した。             

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