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              「…さ、これでよし。――少し寝ましょうか。」   「……、…っ?」    僕の下に纏うものを全て脱がせたソンジュさんは、いよいよ本当に、僕を抱く気がないらしい。――軽やかな声でそう言うと、その人はさっさとベッドから下りてしまった。   「………、…」    僕は目を瞠って驚いてしまったが、…腹筋を使って体を起こし、ベッドの上に座っては…本当に? と確かめるため、ソンジュさんに振り返る。――しかし今や彼、このベッドの、ベッドサイドテーブルを挟んだ先に置かれた大きなクローゼットを開けて、何かをゴソゴソと取り出している。   「……、…これでいいかな…」    と、ソンジュさんは、モスグリーンのモコモコと起毛のローブか何かを広げ、首を傾げては――僕へと顔で振り返り、にっこりと微笑んだ。   「……僭越ながらこれは、俺のですが…、俺たちそんなに身長差はないので、大丈夫かと。…まあ八センチ程度なら、そうブカブカと着心地が悪い、というほどでもないかなと思います。」   「……、…、…」    僕はベッドの上に座り込み、目をしばたたかせてソンジュさんを見ながら、ぽかんとしている。――ソンジュさんはそのモスグリーンを片腕に下げ、そのモスグリーンの上に黒い下着も乗っけては、僕のほうへ歩いてくる。   「…下着もどうぞ。…ちょっとサイズは大きいかもしれませんが、一応新品ですので」   「……、ぁ、はあ…」    僕はもう、ただうんうんと頷きながら、ベッドの側に立って僕にそれらを差し出したソンジュさんに、何と反応するべきやら…――いや。  僕ははたとして、そのローブと下着を受け取り、軽く頭を下げた。「ありがとうございます」と。   「いえ…、これで少し、ユンファさんのお気持ちが落ち着くとよいのですが」   「……、…、…」    優しい…――やっぱり、ソンジュさん…凄く、優しい人だ。……僕は有り難い気持ちに、もう一度「ありがとうございます」と頭を下げてから、とりあえずベッドから下りる。           ×××             「……、…ぁ…んん…凄い、なんだこれ……」      気持ち良い…――だめ、とろけてしまう…。     「…ふふふ…、色っぽい声出して…気持ち良いでしょう、ユンファさん…」   「…ごめんなさい、思わず…凄く、気持ち良くて…、こんなの、ぁぁ…ん、気持ち良すぎる……」    とろけてきた僕の意識…ソンジュさんは僕のことを後ろから抱き締め、ちゅ、と僕の耳に口付けてきた。――そして、するる…、と、僕の内ももを撫でてくる。   「…ふふ、とろけていますね…、俺も気持ち良いよ…」   「……ん…、あぁ…やっぱり大きいかも…」   「…すみません、俺の…大きいもので…」   「…恥ずかしいな、こんな大きいなんて……」      今ソンジュさんにするる…と上げられた、ソンジュさんの――下着が。ブカブカだ。大きいんだな。   「…はは…もちろん、今は取り急ぎお貸しするだけです。…ユンファさんのお体に合わせて作った下着やお洋服は、一式ご用意してありますよ。ご安心ください」   「…………」    いや何をしれっと――()()()()()を把握しているようなことを言うんだ。  それにしても…このソンジュさんの下着に関してはブカブカなのだが、ある意味でトランクスのような加減であり、また布地自体はなめらかでとても柔らかいため、締め付け感が緩くて、これはこれで心地良い。――ただ、()()()でちょっと負けた気分にはなるので、恥ずかしい。   「…いやぁそれにしても、…本当に最高だ…、抱き締めている俺がもう気持ち良い、ふわふわだね……これでこだわっているのです、寝具や寝間着には。…」   「……はあ、なるほど……」    確かにこだわりを感じる。  びっくりするくらい――うっとりするくらい、気持ち良いんだが。…このもこもこふわふわのローブ。…素肌に纏うと、蕩けそうになるくらいだ。あぁぁ…と、気の抜けた声がもれるくらいヤバい。  まるで雲を纏っているかのようなふわふわさ、柔らかさ、軽さ…とろけるような肌触り――およそこの世のものとは思えない。しかもまったりと甘めな柔軟性の、バニラ系の甘くて良い匂いがする。…ふんわりと頭がとろけ、ぽーっとしてしまう、眠くなってきた。   「………、…」    ただこれ、僕の手のひらが半分袖に隠れてしまうのだが…僕とソンジュさんの、体格差の問題か?  と、自分の両手を上げて見下ろしていた僕に、ソンジュさんが。   「…あぁ、可愛いですね…、俺はそうなりませんから」   「……、…、…」    やっぱり、か…?  僕は結構、自分でもまあまあ図体がデカいほうだと思っていたのだが、やはりアルファのソンジュさんには敵わないものなんだろうか。――ちょっと、…ショックだ。   「…はは、そんなにショックを受けられるとはね…、すみません、嘘です。――それ、あたたかいように、わざと袖が長めに設定されているのです。…俺もそうなりますよ」   「…………」    あぁ、なんだ、…つまり、からかわれたのか。  ソンジュさんは僕のお腹を後ろからぎゅっと抱き寄せ、僕の肩に顎をのせては。   「…でも、ユンファさんの手が半分隠れている、その感じが可愛らしいのは、本当ですよ…」   「………、…」    反応に、…困る。  正直嬉しいとは思わない。――嫌ではないが、嬉しくもない。…不思議だ。ただ、何とも思わない…というのも少し違って、頬がムズムズするような感じはある。   「……ちなみにユンファさんにも、このふわふわローブ、ご用意いたしました。冬に向けてね…ただ今は、別の場所にあるものですから」   「…あ、それは…ありがとうございます」      いや、それはシンプルに嬉しい。           

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