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【8】幸福に浸りながら望む貴石 ※
※このお話には「ソンジュ×ユンファ(メインカプ)」の濡れ場シーンがあります。比較的甘々めなので注意喚起は必要ないかとは思いますが、念の為ページ番号に「※」を表記しております。
また比較的ぼかした表現ではありますが、自傷行為による傷跡の描写がございます(念のためそのページにも「※」付)。苦手な方は避けていただきますよう、よろしくお願いいたします。※
×××
僕の荷物を――全部、捨てておいてくれ…だって?
「あ゛? なんだよいいから全部だ。ぜ、ん、ぶ。…」
「……へ……、い…っいっいや、いや困りますそれは、」
困る、それは困ると僕はソンジュさんの胸板をトントン叩いた。…するとギロリと瞳だけで睨み下げられたが、僕は臆している場合でもないとふるふる顔を横に振る。
しかしソンジュさんは、僕のことをその切れ長の目でしかと見下ろし捉えながら。
「…あぁはい、服もです。というかそれがメインだろ…? 絶対捨てろなんならズタズタに切り裂いてから捨てろ、あるいは燃して灰にして海にでもばらまいとけ、あぁでもガマガエルの毒で魚が死ぬかもしれないね…いやその死んだ魚をケグリに食わせようか、そうs…だから。全 部 だ よ 全 部。全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部。バッグ以外全部。…いやぁだって…バッグはきっとユンファさんの私物ですから…」
「…さっさすがに全部捨てられたら困りまんむぐ、」
怖い顔をしたり優しい顔をしたり、声色にしても低く固く、かと思えばやわくなめらかに…かなり情緒不安定なソンジュさんだが――僕がさすがにそれは困ります、と言いかけると咄嗟、ソンジュさんは僕の口を自分の手のひらでぎゅっと塞いできた。
というかバッグ以外も全部僕の私物だ(ケグリ氏に詰め込まれたあんな下着やこんなオモチャ以外)、当たり前だろ、捨てられたら困るんだが…!?
しかし、僕の縋るような目からふっと上のほうへ目線をやり、ソンジュさんは冷ややかな声でモグスさんと電話越し、会話を続けてゆく。
「…あぁ別にいいんじゃない? ――いらないでしょうんなもん、きっっったねぇ変態のガマ油がついてるに決まってるし、そんなもんまったくおぞましいじゃないですか。家の中に入れることすら嫌だ、それともまさか、そんな汚いキモい最悪豚のクソより下劣なものをユンファさんに使わせると? おいおい耄碌 したんじゃないのかモグスさん。――ええ、もちろん。ユンファさんも構わないと言っています。」
「むぐっ…? んんん゛っ!?」
言ってない言ってない言ってない、僕は困るって、要約やめてくれって言ったじゃないか!?
僕は、押し付けられているソンジュさんの手を外したいと掴んで下に引くが、…さすがにアルファ、力が強くてびくともしない。――ソンジュさんは、そんな僕を見下ろしてはひょい、としたり眉を上げ。
「…あぁいえ、こちらの話ですよ。――ククク…なぁにユンファさん、キスしてほしいの…?」
電話口を軽く離して、そううっとりと僕を見てくるソンジュさんに、
「んん…っ! んんん…っ!」
キス!? そんなわけないだろ、と僕は顔を横に振る、荷物捨てないでくれって!
「…んふふ、仕方のない人だ、この欲張りさん…、熱烈だね、そんなに俺のことが好きなの…? はは、わかったわかった、あとでね…」
「…………」
甘くウィンクされた僕は、…とんでもない勘違いをされている? いや、多分確信犯――ソンジュさんはそうじゃない(僕がキスなんか求めてなんかいない)ことをわかっていて、モグスさんに聞こえていたのだろう、嫌がっている僕の反応をごまかすため、こうひと芝居打ったに違いない。
そして、またソンジュさんはしれっと、上のほうへその水色の瞳を向ける。
「…だから。構わないと言っているじゃないですか。別にアダルトグッズなんか、百個でも二百個でも買えるくらい金は渡してきました。…それどころか、ユンファさんの借金分まで払ってきたんですから、そういう変態グッズなんか好きなだけ買い込めることでしょうし。…まあ…う っ か り ってことで。」
「……んむ…、…んん゛…、…」
うっかり(確信犯)。
いや、そ、そういう問題じゃ……――ない…よな?
ないよな…僕が正しい、よな…? 別に下着含めアダルトグッズなんかは好きにしたらいいが(正直ケグリ氏の私物であるので僕としてはどうでもいい)、ただ普通に、それ以外の僕の荷物を捨てる権利は、僕にしかな……いや、もうだんだん正解が分からなくなってきた。――僕の感覚が麻痺してきているのか、なんなのか。
「ふっ…――まあ買い込んだところで、あのド変態クソスケベジジイが使 い た か っ た 相 手 は今、俺の側に居ますがね。もちろん、今後はもう金輪際触らせないよ…それどころか見せもしない、そんなの、当たり前じゃないか…? ははははっ」
「…………」
うーん…やけに誇らしげに高笑いしている。
…これが独占欲ってやつか。なるほど、恋人っぽいかもしれない。
「…あぁあと、スマホの件ですが、…適量対処をお願いしますね。――まさか、GPSや盗聴に使うとはね……」
「………?」
スマホ…――僕のスマホ、か?
その僕のスマホがGPSと、盗聴器に。――穏やかじゃないな、なんて他人事のように思ってしまった僕は、…少し遅れてから、あ…と理解した。
僕のスマホを勝手に操り――ケグリ氏が、それをGPSおよび盗聴器にしていた、ということを。
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