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                「……ふふ…でも、あんまり反応が可愛いからなぁ、ユンファさんは…――もう一回、襲っちゃおうかな…?」    とソンジュさんに、耳元近くで囁かれながら脇腹をするーっと撫でられるものの、僕は。   「……あぁ、なら自分で……」    困る困る、と僕は自分で水色がかった泡をすくい取り、自分の腕にこすり付けてみる。――さすがにもう泡自体は冷たくなっているが、ふわふわとした泡がパチパチ肌の上で弾けてゆく感覚は、くすぐったくも気持ちが良い。何よりこういう入浴スタイルは、僕にとっては新鮮で、面白みがある。  すると彼、何か僕の顔の隣でしゅんとしているような気配がするし、抗議するように僕のその手を、やんわり掴んで制止してくる。   「…いえ。なぜそう鈍感なのですか、貴方は。…つまりこれは、()()()()()()()()()というお誘いで……」   「それは困りますね。悪いけど」    鈍感なんかじゃない、今回はさすがにわかっていて、明言は避けつつも断ったつもりだ――パッと、僕は掴まれた手を振り払い、もう片腕へもぬるる…と、泡をこすり付ける。  そもそも、あんなにめちゃくちゃにした直後に、もう一回とか正気かよ。――ソンジュさんの性欲の強さもさながらだが、さすがにアルファの体力に付き合えるほどの体力は、僕にはない。…それに此処、本当に声が響いて嫌だ。   「…あの…ソンジュさんも早く体、()()()()洗われては…? もう貴方もふやけてるでしょう、これだけ長くお湯に浸かっていたら。」    そして低く冷たい声で、こう釘を刺しておく僕である。  じゃあ俺の体を洗ってくれませんか、なんて言われた暁には、いやぁ勃ってしまったので、…やっぱりもう一回。なんて言われかねない、と。  しかしソンジュさんは、へこたれなかった(この泡風呂の泡くらい)。――勝手に僕の胸板を両方撫で回しつつ、僕の耳にまた唇を寄せ、こう囁いてきた。   「…あれ、ユンファさんはもう…()()()()、とは呼んでくれないの…? ふふふ…」   「……や…っん、♡ んん゛…っもう、…や、やめて、くれたら、呼びますが、っそうやって洗うの……」    煩わしいと顔をまた横へ背けつつ、眉を寄せた僕だが、…次にはすぐ、はは、と笑っていた。――するとソンジュさん、本当にひたりと何もかもをやめたのだ。  なんというかやっぱり、忠犬みたいなところあるんだよなぁ、彼…――可愛い、わんこみたいで。   「……ふふ…、……ソンジュ」    僕はそっと、彼の名前を大切に呼んだ。  失礼だとか、そうして自分を戒める思いはなかった。  そしてソンジュさんは、ぽそり「嬉しいな…」と呟き、   「…俺の目を見ながら、もう一回呼んで……」    と、言うので僕は、少し恥ずかしいような気もしたのだが、――ふっと首をひねって振り返り、僕の肩の上にあったソンジュさんの顔…彼の嬉しそうな、その透き通る淡い水色の瞳を、見つめながら。   「……ソンジュ」    また大切にゆっくり、彼の名前を味わうように、呼んでみた。――するとソンジュさん、   「……、…はは…っ」    眉をたわめてにっこりと、嬉しそうに、少年のように満面の笑みで破顔した。――頬に可愛いエクボをちょんちょんと小さく浮かべた彼の、その血色の良い唇の両端に、白い犬歯がチラリと覗いている。  す…と、僕が触れたソンジュさんの痩せた頬が、みるみる薔薇色に燃える。――すると「はい…」と小さく返事をし、ソンジュさんは嬉しそうに笑って、もう一度確かに。   「…はい、ユンファさん。…」   「…はは…なんだか狡いなぁ、…どうして僕のこと、()()()()とは呼んでくれないんですか」    僕はソンジュと呼んだのに、なんて冗談っぽく笑えば、彼は「え…? いえ、そんな」と目を丸くして控えめに。   「…だって…――俺は何よりも貴方をリスペクトしているからね…、ふふふ…」    ニコニコと嬉しそうなソンジュさんに、僕の口元も弧を描いている。そして彼はす…と色っぽく目線を伏せながら、僕の顎を掴んで軽く上げ――ちゅう…と、唇を押し付けるだけのキスをしてきた。   「……ん…、……」    あ…もう――好き。  ちゅ…と離れ、僕は薄目を開けた。――ソンジュさんを想う気持ちで、少しだけ目が潤んでいるが…彼のうっとりした目を、見つめ…見つめ合う。    が…――。   「…うぁ、? あっ♡ ぁ、もっ…嫌だ、なんなんですか、悪いけど僕、もう此処でしたくないよ、…」    バシャンッと水音が立った。――ソンジュさんがニヤリとしてにわかに、僕の両方の乳首をカリカリしてきたからだ。そして彼のそれに抗う僕が、この浴槽の中で暴れているから。   「…いや、あんまり色っぽい目をして俺を見つめてくるユンファさんが悪いんじゃないですか、…」   「……っ自分の目も顔も知りません、無意識に決まってるだろそんなの…っ」    僕は自分の胸板を両腕で覆い隠し、さらに立てた脚の前腿に上体を添わせて前のめり、固くガードする。   「…ねえ、ユンファさん…? ――俺が洗ってあげるよ、ね…? 丁寧に、やさしく、この甘い愛をた…っぷり込めて洗いたいなぁ、ユンファさんのこと、俺……」    とか、僕の両肩を優しく撫で回しつつ、甘く耳に囁けば僕がほだされると思っているらしいが、彼は。――僕はムッとしながら、ふるふるっと顔を横に振った。   「…いいえ。自分で洗えますから。」   「…ユンファさん…ねえ、お願いだから、そんな冷たいことを俺に言わないで…? ここは恋人らしく、イチャイチャしながら……」   「――セクハラですよ。」      ぼそっと僕は――ソンジュさんの()()を突いてみた。           

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