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それは、僕が高校生になって初めての文化祭の日であった。
そして、なぜその日が特別僕の印象に残っているかというと、僕にとってその日は――僕の人生の中でも特に、“最低最悪の文化祭の日”だったからだ。
というのも…――。
僕はそのときまだ十六歳で、ついこの間やっときたようなオメガ排卵期では、まだ周期も症状も安定していなかったために、その日――不意に、オメガ排卵期がきてしまったのだ。
それまでは普通であったというのに、フィナーレの舞踏会を間近にして、僕は自分のフェロモンの匂いに気が付いた。――本来なら初日ではあまりフェロモンは香らないものだが、あのときは九月とはいえまだ残暑も厳しく、その気温にプラス人混みの中で過ごしていたことからじっとりと汗をかいていたため、恐らくいつもより早くそれに気が付けたのだろう。
また、僕はまだ若く、これまではオメガ排卵期の数日前から抑制薬と、万が一のとき用にと避妊薬を飲んではいたが、それを飲んでいたのはいつも家でのことであった。…つまり僕はあのとき、若いが故の気の緩みもあって、それらを常に持ち歩いてはいなかったのだ。――ましてや僕は、そこまで大体は周期通りにきていたもので、一瞬信じられなかったくらいだ。
それで僕は、最悪だ、と思った。
それこそ文化祭というのは、何ヶ月も前からクラスメイトのみんなと一緒に準備して準備して、やっと当日を迎えるような催しである。――まして、学生の身としても特に楽しいイベントである文化祭、それも高校に上がって初めての文化祭ともなれば、僕はそれ相応の情熱を持ってして、本当にそこまでは友人たちと楽しく文化祭の日を過ごしていたわけだ。
それこそ本当ならば、文化祭のフィナーレの舞踏会までしっかりとやってから、みんなと打ち上げに行くなんて話にもなっていた――もちろん高校生の打ち上げじゃ、ファミレスで夕飯だけ食べてから帰ろう、というような程度のものである――が、それもオメガ排卵期のせいで、すべて潰れてしまった。
僕は本当にがっかりして、どうして今日に限って、明日でも昨日でもよかったのに、どうして今日なんだよ、あぁ抑制薬と避妊薬、ちゃんと持ってくればよかった、なんてふてくされてはいたが――もちろんヤケになっている場合でもなく、僕はすぐさま保健室に行こうとした。
するとちょうど廊下で、何か、バタバタとどこかへ行こうとしている擁護の先生とすれ違い――すぐさま彼女を呼び止めた僕は、「すみません、いきなりオメガ排卵期がきてしまって」といったような話をしたのだ。
しかし、先生はそれに少し申し訳なさそうな顔をして、「今は保健室に人がいるから、ちょっとだけ図書室で待っててくれる?」と。…そう先生に言われた僕はその通り、彼女と学校の図書室に向かったのだ――。
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