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勝てば官軍負ければ賊軍となるのは、先手汚い手を駆使してユンファさんを性奴隷としたケグリが目下 俺の敵である以上、それも致し方ないことである。
所詮ケグリなど鳥無き里の蝙蝠 だろう、狼の俺に敵 うはずのない男には違いない。はっきりいって俺と伍 する敵とも思いたくはないところだ。
ましてあのイボガエルの息子どもはまあ、うだつのあがらない独活 の大木という程度の奴らだが、……しかし正直なところ、ケグリに関してだけは侮り切ってよい相手ではない。
あれでケグリは六十年ほど生きているため、それ相応に老獪 としたところがある。
その上あの男はあたかも装い火事場泥棒というふうにユンファさんを性奴隷にしたばかりか、彼のことを一年ちょっとですっかりマインド・コントロールしてしまったほど悪知恵ばかりは働く男なのだ。
何より、あのケグリの執念こそ目を見張るものがある。
何に対しての執念かって、――もちろんユンファさんに対してのそれだ。
あの男、ユンファさんの生殺与奪権までをも握ろうと彼に虐待行為を繰り返している癖に、その実ユンファさんのことは憎からず思っているどころの程度ではなく、むしろ本当は目に入れても痛くはないほど(何とも気色の悪いツンデレである)、俺にも負けず劣らず彼に固執しているのである。――もっといえばケグリの最終目的は、どうも気色悪くて堪らないが……俺 と 同 じ であるようだ。
つまりノダガワ・ケグリの最終目的とは――奇 しくも俺の最終目的と同様――ユンファさんと結婚をする、ということなのである。
とはいえ、もちろんあのケグリ如きに負ける要素など俺には一つたりとも無い。
俺は若い。背も高い。体も良い。顔も良い。声も良い。如才なく賢い。才能がある。仕事でも大成功している大金持ちの天才だ。ユンファさんへの愛も俺のほうが優る(十一年もの間彼を一途に想い続けてきた可愛い男が俺だ)。固執ぶりとて負けない。性格も(ユンファさんに対してはきっと)悪くない。セックスもアイツより絶対に上手いし、その上ア イ ツ よ り か な り デ カ い 。
――畢竟、男としても人としても何を比べても俺が、あのキモいガマガエル相手に負けるわけがない。
とはいえ、ケグリはケグリなりにユンファさんをどうにかして手中に収めようと手を尽くしている以上、それであってもやはりあのガマガエルは侮りきってよい相手ではないのだ。――この世でもっとも侮れないのは人の執念であり、人の執念とは何事でも引き起こす力があるものである。
するとこれで軽はずみにも俺がアイツの店に行ってしてしまえば、ともすると俺の計画をケグリに悟られてしまう可能性があり、それによって俺は命懸けの計画だというのに機を逸するかもわからない。――俺はサングラス有りとはいえ、訳あって容姿も素性もあのクソガマガエルに割れてしまっているのである。
まさかこの俺が大した用も無くあのクソ塗れのドブガワから汲んできました産地直送ドブ水ガマ油入りコーヒーを飲みに『KAWA's』なんてゴミ溜め同然の下水が流れる汚いドブ川地獄へとほいほい行くわけもないことは、さすがにあのバカガマガエルでも察するところだろうからね。
ここで俺が敵に塩を送ってやる義理などない。
つまりケグリに、この計画の対処策を練らせる時間など与えるべきではない。
今のタイミングでは隠密行動が吉と出ることだろう。
君子危うきに近寄らず……ということで俺は、あの『DONKEY』を客として利用することで、さりげなくユンファさんの検体を得ようと動き出したのである。
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