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第32話 嫉妬

「でも、だけど……、もしWO関係の犯罪だったら」  only狩りや、世間で話題のDoll関連だったりしたら。  rulerのservant契約が何処まで事実か知れない。  だが、Dollはotherを使ってonlyを誘拐し、性玩具に躾るとの噂だ。 (servantや性玩具の躾は眉唾だったとしても、otherのフェロモンを煽ってonlyを襲わせるのは可能だ。数日、阻害薬や抑制剤を飲ませないで薬を抜けば、敏感にフェロモンを感知するotherにできる)  更にother用の興奮剤で煽れば、tripする率も上がる。tripさせて更に煽れば簡単にonlyを襲う獣が完成する。  積木大和が誘導されてonlyを犯せば、その罪が問われるのは実際に手を出した積木だ。  誘導した人間がいたとしても、幇助罪止まりだろう。最も重い実刑を積木が受けるのは避けられない。 (あんなに熱心に勉強して、WO専攻で頑張るって言っていた積木君が、自分の意志に反して犯罪者になるかもしれない)  理玖は自分の手を、ぎゅっと握った。 「大学に……、警察に、動いてもらうには、どうしたら……」  今の時点では、事件性はないかもしれない。 (折笠先生の所には佐藤がいる。それだけでも充分、危険だ)  佐藤が犯罪組織と繋がっているかもしれないと懸念して覆面警察が入る噂まで立った。実際、警察官が潜入しているかは知らないが、日中の警備員の数は増している。 (僕の事件だってあったんだ。大学はもっと警戒するべきだ。何かあってからでは、遅いのに)  しかし、何か起こってからでなければ動けないのが警察だ。  日常では感じない、法治国家の弊害に苛々する。  だからこそ、大学が手段を講じてくれたらいいと考えてしまう。 「動いてもらうためには、今より事件性のある状況になるか、別の事件が起こるか、ってとこですかね」  理玖は俯いていた顔を上げた。  晴翔が苦笑していた。 「二人で探してみませんか? 先生は積木君が心配なんでしょ? 何事もなく見つかれば、それに越したことはないわけだから」  確かに、晴翔の言う通りだ。  つい最悪の状況を想定してしまったが、まだ遊び歩いている可能性だって、残っている。 「そう……、だね。僕は積木君を知らない。恋人がいるかもしれないし、大事な友人がいるかもしれない。そういう人の所に、滞在しているのかもしれない」  講義を受けている積木しか、理玖は知らない。  大学の外で積木大和がどんな日常を送っていて、どんな性格なのかなんて、知らない。  晴翔が立ち上がり、理玖を後ろから覆うように抱いた。  理玖の握り込んだ手に、手を伸ばした。 「こんなに、手が赤くなるまで握ったりしないで。積木君に嫉妬しそうになるから」  耳元で囁かれる。  吐息が掛かった場所が、熱くなる。  いつの間にか、真っ赤になるほど自分の手を握り込んでいたようだ。 「積木君に対して特別な感情はないよ。ただ、熱心な学生が犯罪に巻き込まれるのは、気の毒だと思う、だけで……」  WOの学生に、自分のような辛い経験はしてほしくない。  onlyでもotherでも、望まない状況に巻き込まれて欲しくない。 「晴翔君がいなくなったら、この程度の怒りや動揺じゃ、済まないよ」  真面な意識で立っていられるかすら、自信がない。  晴翔の手が理玖の顎を掴んで上向かせる。  唇が重なって、強く吸われた。 「理玖さんがいなくなったら、俺は狂っちゃうから、一人で動いちゃダメですよ。何かする時は二人で動きましょう」  赤くなった手を強く握られる。  その手に、手を重ねた。 「うん……、わかった」  話すたび、耳にフワフワとかかる晴翔の吐息で上気する頬を悟られるのが恥ずかしくて、理玖は俯き加減に返事した。
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