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第77話 魔人・グラウコン

「わが名はグラウコン。古代ギリシャにおける総合格闘技・パンクラチオンの絶対王者にして、その証たる魔人なり」  魔人・グラウコンはそう名乗ると、そのたくましい両手を広くかざした。  その双眸は獲物に飢えた野獣のように蛮性をたたえている。 「盟友・ディオティマの計略を打ち破るとはなかなかの手並み。ぜひとも手合わせ願いたいもの。まあ、向かってくる勇気があるとすればだが」  彼は眼下のルーキーたちをなめるように値踏みする。 「ディオティマの仲間だってえんなら話は早ぇ。やつはいまどこにいる?」  南柾樹が前に出た。 「さあな。俺もこれから探すところだ」  反射的に口角が上がる。  グラウコンはすぐに興味を持った。  なるほど、データにあった男。  刀隠影司(とがくし えいじ)の息子か。  ふむ、情報どおり野性的なようだ。 「そこのティレシアスってやつは? そいつだっておまえらの仲間なんだろ?」  「身内」を手にかけたことを彼は指摘する。  グラウコンは途端に退屈そうな顔をした。 「仲間? それが? 冗談はよせ。俺は腕っぷしのある者にしか興味などない。ディオティマの立場がなければ、とっくに始末していたさ。もっとも、触りたくもないがな、そのような醜い生物など」 「……」 「そんなことよりおまえだ、南柾樹。俺に挑んでくれるのだろう? さあ、見せてみろ、おまえの力をな」 「……そうかい」  彼はそっと、うしろを振り返った。 「龍子(りょうこ)、すまねえが、そいつを。手遅れかもしれねえけどよ」  真田龍子(さなだ りょうこ)は笑顔でうなずく。 「そんなやつを助けようというのか? 意味がわからないな。実に青臭い、若さゆえか」  南柾樹は唾を吐き捨てる。 「ああ、もう。反吐が出すぎて胃もからになるってもんだ。てめえこそいいかげん下りてきたらどうだ? それとも、好き勝手抜かしといて、タイマン張る根性はねえってか?」  グラウコンは再びニヤリと笑う。 「そう来なくてはな。若さとはすばらしいものだ。どれ――」  魔人はスウっと地上に降り立った。 「さあ、下りてきてやったぞ? 早いところしようではないか、その、タイマンとやらをな」 「いいぜ、来なよ、おじいちゃん?」 「ふっ」  グラウコンのたてがみがフワッと逆立つ。 「――っ!?」  南柾樹が大地にとっ伏した。 「ぐ……!」  ものすごい力で体が地面に押しつけられる。  いや、より正確には、見えない巨大な手につかみ取られ、下のほうへ向かって引っ張られているイメージに取れた。 「プル・ミー・アンダー」  固めた土が割れ、彼の体はついにその中へとめり込んでしまう。 「俺のアルトラは、重力を支配する」  魔人の口角がさらにつり上がった。

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