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魔王ビュッシュ

 「え⁉ビュッシュ様もぼくと同行して頂けるんですか⁉」  人間界に出発する日。突然、魔王ビュッシュがやって来て『自分も同行する』と言ったのだ。これには悪魔ノエルは大変驚いてしまって、用意していた大きな旅行用のカバンを脚の上に落とした。  「いたっ‼」  「そんなに驚くことか」  「驚きます‼」  悪魔ノエルも、自分が魔力が弱くおっちょこちょいで、周りから人間界へ修行へ行くことに過度な心配をされていることは知っていた。  「・・・・・ぼくがおっちょこちょいなせいで、ビュッシュ様にも迷惑をかけてしまうんですね・・・・・ごめんなさい・・・・・」  思わず悪魔ノエルは涙ぐんでしまった。そんなノエルを見て、魔王ビュッシュは彼の頭を優しく撫でた。そして細くて長い指で涙を拭った。いつも以上に甘やかされて、ノエルはドキドキしてしまう。  「お前のせいではない。年寄り共がうるさいだけだ。私も息抜きがしたかったからな。お前と人間界に行くことにした」 「・・・・・嬉しい、ビュッシュ様・・・・・」  悪魔ノエルは魔王ビュッシュにそっと抱きしめられた。いつものハグが、より温かく感じた。  「準備は出来ているのか?」   「この荷物だけです。ビュッシュ様は?」  「私は特に必要ない」  魔力が高い魔王ビュッシュは、必要な荷物など魔法でなんでも出すことができる。しかし悪魔ノエルは魔力が低いため、生活に必要な荷物は持って行く必要があった。人間界のお金や洋服など、ノエルには魔力が足りなくて出現させることができなかった。    「ノエル、気にするな。そもそも人間界の修行は行事のようなものだ。不安を感じる必要は無い」  「ビュッシュ様・・・・・ありがとうございます・・・・・」  またノエルは涙ぐみそうになったが、必死でこらえた。こうして二人は手をつないで、人間界へのワープゾーンへと向かうと、掛け声を合わせて向こう側の世界に飛び込んた。

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