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月光

「嘘だろ……。なんで俺相手に、興奮してるんだよ?」  人工的に染められた彼の黄金色の髪が、月明かりの下キラキラと輝く。  不安そうに揺れる、彼の瞳。それを見た僕の唇が、歪にゆがむのを感じた。    いつもは自信に満ちあふれている彼を組み敷く喜びは、かつてないほど僕の心を震わせる。 『なんで俺相手に』だって? ……やっぱり君は、なにも分かっていない。  君がαだからとか、そんなのは全然関係ない。  僕は相手が君だから、こんなにも興奮しているというのに。  再び彼が何か言おうとして唇を開きかけたから、それをキスでふさいだ。  否定の言葉は、いらない。そんなのは、聞きたくもない。  αである彼は、僕の愛撫で濡れたりしない。  そんなのは、分かっている。  だけどローションや媚薬を使ってやるつもりは、さらさらなかった。  これから彼に与えるのは、快楽じゃない。おそらく痛みだけだろう。  でも、それでいい。ただ彼の中に、僕の存在を刻みつけてやりたい。……そのあとに残る感情が、たとえ憎しみだけなのだとしても。  まるで感じてなどいないと知りながら、無理やり肉の楔を彼の中に突き入れた。 「っ……!」  悲鳴にすらならない、苦しそうな呼吸。  だけどそんな彼を見下ろしたまま、仄暗い喜びに心が満たされていくのを感じた。   「かわいそうだな? αのくせに、無理やり同じαの男に犯されて」  クスクスと笑いながら、耳元で囁いた。  僕を睨みつける、彼の瞳。  そこに宿る感情は、怒りと憎しみ。それだけだった。  だけど、それでいい。だってこれで僕はきっと、君の一番になれたから。  逃げようとする彼の腰をつかんだまま、何度も激しく打ち付ける。 「中に、出すから」 「ふざ……けんな! お前だけは、絶対許さない!」 「あはは、いいよ。殺したいほど僕を憎んで、恨んで。君の心を僕だけでいっぱいにしてくれるなら、本望だよ。……だから絶対に僕を、許さないで」  果てる直前。彼のうなじに、強く歯を立てた。  こんな行為にはなんの意味もないと、僕自身分かってはいたけれど。 ***    ベッドの上。スヤスヤと、寝息を立てて眠る彼。  その頬を、一筋の涙が伝っていった。 「いっぱい傷つけてごめんね。……大好きだよ」  うなじにくっきりと残る、僕の歯型。  彼がもしΩだったら、これで僕だけのものにできるのに。  だけど君が僕と同じαだからといって、諦めてやるつもりはない。  ……どんな手を使っても、絶対に手に入れてみせる。  一度抱けば、諦めがつくかと思った。  なのにあとに残ったのは君への想いと、さらに強くなった執着心だった。                  【了】

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