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137 どこまでもお供に、道連れに

               悲痛に目を瞑ったユンファ様は、はぁ…と熱い吐息をもらすと、それでもぱっと顔を上げて、俺に微笑みかけてくる。   「…しかし、何にしても…、よくぞ無事で…本当に嬉しいよ、ソンジュ……――約束、守ってくれたんだね…。凄かったんだろう、君……誰一人傷付けなかったというのに、本当に無傷で帰って来られたとか……」   「…ユンファ様……」    俺の頬をするりと撫でたその白い手は、いつもひんやりとしているが、今日はあたたかかった。――そしてユンファ様は、ふらり…まるで眩暈でも起こしたかのように、俺の体に抱き着いてきた。   「……ソンジュ…」    彼は、俺の肩の上――ふ…と儚く笑う。   「…ねえ…これで君とつがったら、僕ら、殺されてしまうのかな……」   「……、おそらくは」    あるいはもっと、生きながらにしてもっと惨たらしい扱いをされるのかもわからぬが。――俺はユンファ様を抱き留めて抱き締め、その人の後ろ頭をそっと包み込むように撫でる。   「……そう…。そうか……」   「…………」    するり…俺のうなじを撫でる、ユンファ様の長い指。   「……ねえ、ソンジュ…本音を言ってもいい…?」   「……ええ、ユンファ様…」    俺の胸は、まだ聞かぬユンファ様の本音に、痛いほど締め付けられている。――彼の声が、あまりにも消え入りそうなほど儚かったからだ。  そして続く言葉もまた、そのように淡い声色だった。   「僕はもう…これ以上、穢れたくはないんだ……ソンジュ、僕…――三日間ばかりでも、本当に君のものになれたんだよ…。ならば、…っならばこのまま、……」   「……、…、…」    俺は切なく、ユンファ様をしかと抱き締めた。  …もうみなまで言われずとも、俺は、ユンファ様のその悲痛なお心が読めている。   「……僕は、君のものになったままで、…死にたい…っ」   「……っはぁ…、ユンファ様、…っ」    込み上げる涙の勢いで聞こえた、その言葉。  …奇しくも――俺の気持ちが、ユンファ様のその本音に同調している。…悪くない。むしろ良い。そのほうがきっと、俺は、…俺たちは、幸せな死を遂げられる。   「…ソンジュの子を孕むことで殺されるというのなら、それも、悪くない心持ちがいたします…――君への愛を証明することで死ねるのなら、…ソンジュの伴侶となったままで死ねるならば、…悪いけど、僕は…本望だよ、ソンジュ……」   「……っ、……」    涙をこらえながらも、丁寧にそう言葉を紡いだユンファ様に、俺は全身の血がグツグツと沸き立つのを感じた。  ――愛おしさ、喜び、興奮、幸福、悲しみ、怒り、憎悪、後悔、――グツグツと煮え立つ俺の赤い血には、どれとも確かな理由はつけられぬ。  さまざまな理由が混じり合って、俺の体を熱くしているのだ。   「…僕に残された命の灯火は、もうあと一年あまり…ソンジュ、すまない、――っ君を道連れにしてはならないと思っていました、…っしかし、…ソンジュが許してくれるというのなら、……」    俺に抱き着き縋る、何度も何度も俺の背をまさぐるユンファ様に、…プツリ。――俺の中、鼻緒が切れる。   「……ユンファ様、そのように。…そのように……」   「……ソンジュ、……」   「……どこまでもお供いたしまする…。どうぞ、どこまでも俺を道連れに。…最後のその瞬間までどうか、俺をお側に置いてくださいませ、ユンファ様……俺は、どこまでも貴方様に着いて参りましょう。――どうぞ俺を連れて、天上へ登られませ、ユンファ様……」    俺は静かに涙をこぼしながら、ユンファ様をしかと抱き締め…目を瞑った。  それでいいのだ。それが良いのだ。――むしろ俺は、ユンファ様にそう言ってもらえたことが、何よりも今、幸福なのである。        

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