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158 夢ではなくなった火の花
――やっと、やっと、という思いだ。
俺たちはやっと――あの屋敷から逃げ出した。
二人で逃げ出し、屋敷の裏にある丘を登った。
そう小高い丘ではないが、ユンファ様は脚が弱い。…なので彼は馬に乗ったまま、俺が引き馬で――そして、登りきった先の丘で、やっと見せてあげられた。
ドォォン……――ばらばらばら……。
…その音は、宮殿近くのあの屋敷から離れた丘の上であるばかりに、もうやや小さく、遠く聞こえてくる。
「……はぁ……」
宮殿から上がる花火――濃紺の夜空にあがるのは、赤と緑、黄色の火花がかたどる、美しい幻の火の花。
馬を止めてやると、馬の上でユンファ様は、頭からかぶる白い布を捲りあげてうなじにかけ、いくつもあがるその花火に――ぼーっと見惚れては、何度もうっとりとしたため息を吐いた。
「いかがですか」――俺が聞けば、彼は涙して笑い、下にいる俺へと振り返る。
「…ありがとう、ソンジュ…っ本当に美しい、本当に……」
「…ふふ…、それはよかった……」
花火を見せてやれて、本当によかった。
…ユンファ様は、また火の花が上がる夜空へと顔を向けた。――その人の白い顔が橙色に照らされ、キラキラとその薄紫色の瞳が強く輝く。
「…とても忘れられない夜になった…――花火というのは、こんなに美しかったのだね…。ありがとう、本当にありがとう、ソンジュ……」
「……ユンファにこの花火を見せてやれて、本当によかった。俺も今、本当に幸せだ……」
「……うん…、…」
儚い花火の光に、今もまた明るく照らされたユンファ様の横顔は、感激に微笑んで――そしてはらりとひと粒、美しい涙が落ちていった。
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